Home＞menu＞１ ２ ３ ４ ５ ６ ７ ８ ９ １０ ＞あらすじ最終話「選択」
重い心をひきずるようにして、あたるはやっと自分の部屋へ戻った。 頭の中でさっきの自分の告白がぐるぐる回っている。 それから天羽の言葉も。 「だけど俺、お前の気持ち、受け止めらんねーわ。」 こたつでボーッとしていると、いきなりさくらに声をかけられた。 さくらはもまた、伊倉にフラれてしまったのだ。 「俺、お前に飽きた。」 伊倉がふってくるなんて、信じられなかった。 「あんたが後悔しないように、わざと悪者になったんじゃない？」 「でも、ふられたことにはかわりないよね。」 「そっか、あんたもか。」 「あたるも？」 「まあ、気持ちを言っておけばよかったって思うよりましなんだけどね。」 「またまた無理しちゃって」 ２人はまたため息をついた。 洋子と再び一夜を共にしたカヲルだったが、けっして浮かれるような 気分ではなかった。 「どうして避妊しなかったの？」 洋子のシングルマザーの夢をかなえさせてやりたかったカヲルは 言葉を選んで答えた。 「俺のことはいらなくても、俺は洋子さんと、もしできていたら子供も ずっと見ていくつもりだから」 しかし洋子は冷静だった。 「そんなの、きれいごとじゃない」 言い捨てる洋子を追うカヲル。そこへあたるとさくらが帰ってくる。 ふたりともふられたと聞いて、驚くカヲル。 翌晩、会社帰りにカヲルはリサイクルショップへ顔を出した。 昨日の今日でやっぱりあたるは来ていないらしい。 洋子のことを天羽に愚痴るカヲル。 「それにしても、意外だったな。おれ、てっきり 天羽さんはあたるだと思ってた。」 「いやー、さすがに今回は俺も参った。」 珍しく天羽が弱音をはく。 「女ってほんとやってくれるよね。俺、君の気持ちが痛いほどわかる。」 「え？」 天羽がなにやらカヲルに耳打ちした。 帰ってきたカヲルをつかまえて、あたるとさくらは部屋で 失恋パーティーを始める。カヲルが聞く。 「天羽さんがお前のこと断った理由を知っているのか？」 天羽は遙の父親から、遙の息子・良介の父親は 天羽ではないかと言われたという。 「あいつがパパ？」 あたるはぼう然となった。 事の次第を確かめに翌日リサイクルショップへやってきた３人。 遙が妊娠したと思われる頃、天羽は夢だったバスケット部が 廃部となり、荒れていた。会社もそれで辞めてしまった。 「だから遙も俺に言ってもしょうがないと思ったんじゃないか。 まあ、遙の気持ちはわかんないんだけどさ。」 終わりの言葉を聞き咎めるあたる。 「遙さんと話してないの？」 「ああ。」 「なんで？ どうして話さないの？」 あたるの詰問に黙る天羽。カヲルがフォローする。 「親父さんにいきなり言われたんだぜ。気持ちの整理とか ついてないですよね。」 「じゃあ、これからどうするつもりなの？」 「それは遙次第だな。」 どこか逃げ腰な天羽をさくらがが問い詰めようとした時、 遙が良介をつれて店に現れた。 あたる、さくら、カヲルは思わず天羽と良介の顔を見くらべてしまった。 良介は天羽によくなついている。 だが遙は３人と天羽にさらりと言ってのける。 「良介は天羽くんの子供じゃないわよ」 父親はあくまでも離婚した夫だという。 「ほんとに俺の子じゃないのか？」 「きっぱり否定します」 だが、あたるは釈然としないものが残った。 「本当かなあ」 「男には分かんねえもん」 夕飯に手巻き寿司を食べる３人。 あたるとカヲルは半信半疑。 良介が天羽の子供でなければ、あたるは心おきなく 天羽にアタックできる。 さくらは「遙さんを信じてあげれば」と言うが、 あたるの表情は晴れない。 「女の勘っていうのかなあ。なんかひっかかるんだよね」 同じ頃、リサイクルショップでは大人組が飲んでいる。 「へえー、子どもね。びびったでしょ。」 伊倉の言葉にうなづく天羽。 「びびった。」 笑うしかない３人。 「で、君は、カヲル君と夢とどっちが大事なの？」 「両方」 欲張りな洋子の答えに苦笑する天羽と伊倉。 「あなたは？ 遙さんの言うこと、信じるの？」 「遙がそういってる以上、信じるしかないだろ。」 「そうだよねぇ。」 男は弱気だ。 さくらはコンビニでバイトを始める。 ある日、お弁当をさしだした客の顔を見たら伊倉だった。 「新しいお相手のミドリさんは作ってくれないんだ。」 「ハハ。居つかれたらまいるだろ。」 いつものように伊倉は空笑いをあげて帰っていった。 さくらはその背中にいつもとは違う悲哀を感じた。 天羽はリサイクル品の手入れをしながらも、ついぼんやりしている。 「ねえ、あれから遙さんと話したの？」 「いや。」 「どうして？」 「話なら、あのとき終わってるだろ。」 「えー、じゃあなんでボーっとしてたの？ やっぱり自分の子供じゃないかって気になってんでしょ。」 図星を指されて逃げる天羽。 「これ、やっとけよ。」 「ねえ、今話してるのは大事なことでしょ。」 「遙がああ言ってる以上、俺にはどうにもできないだろ。」 「そうかな。しようとしてないだけじゃないの？」 「こうなる前に、お前と１回でもエッチしとけば良かったなー。」 はぐらかす天羽。 「な、なにいってんのよ！」あせるあたる。 「えー、２人っていつの間にそういう関係になったんですか？」 突然、菜々登場。 菜々に続いて、さくらとカヲル、そして洋子と伊倉まで店に現れた。 「今日はもう仕事になんないよね。飲みますか」と伊倉は仕切る。 「なんでこうなるのよ。」ぼやくあたる。 「俺たち初めてだよね」 伊倉はさっそく菜々にちょっかいを出している。 あたるとさくらは洋子を問いつめた。 「カヲルか、シングルマザーの夢か、どっちか選んでよ」 「私は両方ほしいの。」 カヲルはあ然として言葉にならない。 「幸せの価値観なんて人それぞれだしな。」 洋子をかばった天羽に、あたるがかみついた。 「あなたは自分の幸せを探そうとしてないじゃない。 確かめるのが怖くて逃げてるだけでしょ。」 「おまえな。」 痛いところを突かれて、さすがに声を荒げかける天羽。 洋子が助け船をだした。 「知らないほうが幸せってこともあるわよ」。 伊倉が同意した。 「そうだな。俺たちなんか、知りすぎて別れちゃったんだもんな」 「全部ＯＫな女なんているわけないじゃん。」 すかさずさくらが切り返した。 「そんなこと言ってるうちに誰にも愛されないで、 １人淋しく死んでいくんだよ。」 あたる・さくら・カヲルは怒りをぶちまけて退場。 飲み直す大人組だが、それぞれさすがにこたえたようだ。 帰ったあたるたちもすっかりめげていた。 「この恋、絶対アウトだわ。」 「あれだけ言ったら相手もひくよな。」 笑いがむなしい。 洋子がニューヨーク支社に転勤することになった。 しかも早ければ明後日にも旅立つ。カヲルには寝耳に水の話。 「本当ですか？」 「もし子供ができていたとしても、あなたには一切迷惑かけないわ」。 洋子のシングルマザーへの決意は固かった。 「これが私の選んだ幸せなの」。 カヲルはショックと自己嫌悪にうちのめされた。 あたるもまた何も変わらない状態に嫌気がさしていた。 店でも二人の空気は気まずくぎこちない。 言いたいことは山ほどあるのに、言葉にならない。 時間だけが過ぎる。 「このままじゃイヤだ。」 落ち込み消極的になるカヲルを叱咤激励し、呼びかけるあたる。 「あたし達が変わらなきゃ、運も相手も変わらないんじゃないかな。 ハンマーもって壁ぶちこわそうよ。今、とばなきゃ いつまでたっても飛べないよ。」 あたるは遙に直接たしかめた。 「良介くん、本当に天羽さんの子供じゃないんですか？」。 遙は笑って否定したが、あたるは信用しきれない。 「ずっと隠しとおせるほど、器用じゃないわ。だからあなたはいつでも、 天羽くんのところに行っていいのよ」。 それでも、あたるはハンマーを握った。 急に引き取りが入った遙の代わりに、良介を迎えに行ったあたる。 そのままリサイクルショップに行って、天羽にぶつかるつもりだ。 途中、カヲルに出会う。 「俺にもその勇気くれっか」。 カヲルも最後にもう一度、洋子にぶつかるふんぎりがついた。 「俺さ、お前がいてくれて、ホント良かったよ」 「あたしも」。 良介も一緒にハグハグしながら、勇気をため込む二人。 いざ、ハンマーでぶっこわしだ！！ 良介を店へ送っていったあたるは、天羽と良介が 親子であることを確信する。 天羽がぽつぽつと昔の話をする。 「昔さ、親父が倒れた時、俺は会社を継がずに夢を選んだ。 親父は死んで、会社は倒産した。 俺の選んだ夢も廃部になってさ。そのとき思ったんだ。 俺、何やってきたんだろうって。 親父だけじゃない。遙も傷つけてきたんだよな。」 「それからずっと忘れたふりしてきたんだ。 忘れたふりしてふらふら生きてきたんだ。」 あたるは天羽に向かう。 「でも、ほんとに忘れる事なんてできないし、しちゃいけないんだよ。 良介くんはあなたが忘れたふりしてきたツケ。 そのツケと現実と向かい合わなきゃ。」 「わかってるよ。わかってるけど、遙がああ言ってる以上、 俺にはどうすることもできないんだよ。」逃げる天羽。 「遙さん、あたしにもあなたの子どもじゃないって言い切ったよ。 でもあたし嘘だと思う。あなたに黙って産んじゃったから、 あなたに迷惑をかけたくて、隠し通すつもりなんだと思う。」 「良介が俺の子どもならそうだと思うけど。」 「あなたの子どもだよ。良介の『良』は天羽良之の『良』じゃん。 あなたから一字とったんだよ。あなただって ほんとはわかってるんでしょ。自分の子だと思ってるんでしょ。」 問い詰められた天羽はうめくように肯定する。 「ああ。思ってるよ。」 「だったら！ だったらどうして自分から動かないの？」 いらだちを隠せないあたる。 「あたし、ずっと、あなたはいざって時は自分から動く人だと思ってたよ。 なのにどうして今度はそうなの？ そんなあなた見てるの嫌だ！」 言うのが辛い。でも言わなきゃ変わらない。 「ずっと、あたしを助けてくれたよね。前に進ませてくれた。 苦しくて悲しくてへこんじゃいそうな時、胸貸してくれたでしょ。 ずっと陰で支えてくれた。あれがあなただよね。あれがあなたでしょ！」 あたるの声が涙声になる。天羽がみつめる。 「あの優しさ、良介くんにあげてよ。遙さんにあげてよ。ふたりにあげて。 ・・・支えてあげてよ。」 絶えきれなくなって天羽があたるを抱きしめる。驚くあたる。 「・・おまえは・・いいのかよ？」 あたるはその時やっとわかった。どうして天羽が動かなかったのか。 「あたしのこと、考えてくれてたの？ だから行けなかったんだ・・。」 涙がこぼれる。天羽の声がせつない。 「いいのかよ・・おまえは？」 「よくないよ。・・よくない。」 あたるの思いがあふれる。駄々をこねる子どものように訴える。 「ずっとそばにいて欲しいよ。あたしのそばにいて欲しいよ。 ずっとずっとそばにいて欲しいよ！」 それが本心。それがあたるの願いだ。抱きしめるしかない天羽。 「・・でも、わがまま言えないでしょう？ 良介くんがいるんだから。 そうでしょう？」 ささやくように言うあたる。それがどんなに辛くて勇気がいるか、 天羽はわかっていた。言わせたのは自分だった。 動かなくてはならなかった。あたるの勇気に答えるためにも。 そこへ遙が引き取りをおえて戻ってきた。 「ごめんね、おそくなって・・。」 二人に気づき、立ち止まる遙。 「おかえりー」と無邪気に飛び出してきた良介。 あたるはパッと天羽から離れると、ボールを拾った。 「良介くん、天羽くんがね、シュートしてくれるって。」 そういって天羽にボールをパスした。受け止めた天羽。 そのまま奥へと行くあたる。 「コーヒー入れますね。」遙はあたるの後を追う。 「あたるさん、あなたまだ誤解してるんじゃ・・」 「知らない方が生きやすいなんてあたしは思わないです。 うそついて家族ごっこしても、誰も幸せになれない。 お願いですからきちんと二人で話し合って下さい。」 「遙」 天羽が初めて動いた。 「時間、つくってくれ。ちゃんと話そう。」 仕方なく頷く遙にコーヒーを渡すと、あたるは帰っていく。 「良介くん、じゃあね。」 その後ろ姿を見送った天羽と遙。 部屋へかえったあたる。 こたつに正の字を書こうとして書けず、涙があふれる。 泣かないってきめてたのに・・。やっぱりつらかった。 洋子の部屋へいったカヲル。 「子ども、できてたわ。」 「あたしがひとりでちゃんと育てるから。」 「かまわないよ。」 カヲルの言葉に驚く洋子。 「俺の気持ちは変わらないから。ずっと洋子さんと子どものこと、 見続けていくから。」 洋子がホッと緩む。 「ありがとう。やっと産む決心がついた。でも、あなたには あなたが一番生きやすい道を選んで欲しい。 あなたが一番幸せだと思える道を。いままでありがとう。」 ふたりは握手を交わした。 コンビニでバイトしているさくらのところへ、伊倉が現れた。 「お買いあげはなんでしょう？」 「柚木さくらさんをください。」 「はあ？」 「俺ともういちどやり直さないか？ 体の浮気はやめられそうにないけど 俺、心はおまえだからさ。・・・やっぱり俺じゃ幸せになれないよな。」 逃げる伊倉に後ろから叫ぶさくら。 「何が幸せかはね、あたしが決めるのよ！！」 やっぱりさくらと伊倉なのだ。 翌日。 天羽は遙に、いままでの分も含めて、家族として 一緒にやっていきたいと伝える。 ところが遙は意外な返事を返してきた。 部屋でふとんなしでもやっぱりこたつ虫をしていたあたる。 やっとふっきり、こたつに改めて正の字をかこうとした。 瞬間ノックが鳴る。 「誰よ〜。」 「いるかー？」 勝手に入ってきたのは・・天羽！ 「なんで？ 何しに来たの？ 遙さんとちゃんと話してって。 あ、逃げてきたんだ。」 ポンポン文句をぶつけるあたるの手をつかむ天羽。 まじめな顔だ。 「いいからつきあえ。デートしよ。」 「デート？」 訳が分からないまま、バイクに乗せられたあたる。 「ねえ、どこいくの？」 天羽のメットをたたくが天羽は笑うだけ。 ついたところは、天羽とあたるが最初に会った場所だった。 いきなり抱きしめられた場所。 「最悪な出会いだったよねー。あたしも健ちゃんに 逃げられてボロボロだったし。」 思い出すあたる。 「俺もふられちったよ。」 えらく明るい声で言う天羽。 あたるは意味がわからない。 「良介さ、新しいパパができるんだって。」 「へ？」 「遙、再婚するんだって。」 「・・だから、あなたとでしょ。」 「違う人と。」 「え？ えー！？」 「だから俺はいらないんだってさ。」 言葉とは裏腹にさっぱりした笑顔の天羽。 あたるも固まっていたものが溶けていく思いだった。 「そっか、・・ふられちゃったんだ。」 つい笑ってしまうあたる。 「遙が再婚しても、良介は俺の子どもだ。 これからも見続けていかなきゃな。」 「うん。」 「でも、遙とちゃんと話せて良かったよ。 おまえのおかげだ。ありがとな。」 頭を下げられて照れるあたる。 「俺ももう、フラフラしてられねえよなぁ。」 「え？」 意外な台詞に驚くあたるに、天羽が言う。 「俺もこれからの生き方、ちゃんと考えるな。」 「うん。」 それはまるで二人のこれからへの決意表明のように 聞こえて、嬉しくなったあたるだった。 「で、これからどうするの？」 「そうだなぁ。とりあえず小笠原でもいって、 鯨でも見ながらこれからのことをゆっくり考えようかな。」 やっぱり天羽の答えは突拍子がない。 「あのね、考えるなら大田区でもできるでしょ。 全然変わって無いじゃない。 さっきフラフラするのやめるって言ったくせに・・。」 ぶつぶつ並べるあたるの肩を抱いて、天羽が言った。 「ほんと、おまえに出会えて良かったわ。」 ドキッとして、あたるはごまかす。 「あたしも、悪魔にあえて良かったよ。・・・ほんと良かった。」 最後は笑顔になる。 そんなあたるに天羽は手を差し出した。 ちょっとためらってからあたるは手を重ねる。 ようやく辿り着いたふたりは、初めて手をつないで 一緒に歩いていった。 翌日、るんるん気分で出勤してきたあたる。 「おはようー・・・あれ？」 「おはよう」 なぜか遙がカウンターにいる。 「今日からあなたがここの臨時店長よ。」 「ええ！？ あ、あの、あいつは・・どこ？」 「なんかね、また旅に出ちゃったみたいなんだよね。」 「えー！！？」 あのやろー！ カヲルの家。カヲルとあたるがこたつ布団を干している。いい天気。 「まーた、いなくなったんだ。」 「うん。しょうがないよね。ま、あそこかなとは思ってるんだけど。」 「また、逃げられたんじゃないの？」 カヲルの言葉にドキッとするあたる。 「お、動揺してる。」 「そっちこそ、洋子虫、ニューヨークって見送りは？」 「いらないっていわれちゃってさ。」 「なんだ。そっちこそ逃げられちゃったんじゃない？」 「そういうこと言うか？」 ふとんのないこたつを見て、カヲルが聞く。 「おまえ、夏はこたつ虫どうしてたっけ？」 「ふとんがない状態でやってたよ。でも、もう卒業だね。」 「そうだな。俺たち変われたかな？」 「少しは変われたんじゃない？」 「じゃもういっちょ飛びますか？」 「お、そっちも考えてたんだ？」 「このままじゃ終われねえもんな。」 「運は自分で変えなきゃね。」 あたるとカヲルの最後の一勝負。 さくらは伊倉と堤防でくじらの風船を飛ばしていた。 強風の中、鯨はあっという間にとんでいってしまった。 「思ったよりたいしたことないね。」 さめた口調でいったさくらは、伊倉の携帯から女の電話番号を 消そうとして伊倉ともみ合っていた。いつもの風景。いつもの二人だ。 洋子は成田からニューヨークへ旅立とうとしていた。 そこへカヲルが現れる。 「ニューヨークまで送ります。」 カヲルの手にはニューヨークまでのチケットがあった。 「これが俺の選ぶ幸せなんだよね。いいよね、送っても。」 「あなたの好きにすれば。」 言葉とは裏腹に嬉しそうな洋子の笑顔。 ふたりは手をとりあった。 リサイクルショップに来ていたさくらと伊倉は、現れた天羽の姿に驚く。 「どしたの？ その格好。」 なんとスーツ姿にアタッシュケース。髪も切ってある。 「前の上司に頭下げてきた。明日から俺も、サラリーマン。」 「そっかぁ。前の上司にね。」 伊倉がしみじみする。 「俺も先を見ないとね。ま、一からやり直し。」 「守る物ができると変わるんだ。」 おなじみのさくらと伊倉の掛け合いを聞きつつ、ふと気づく天羽。 「あれ、あいつは？」 「あたる？ 朝からいないんだよね。」 「ったく。しょうがねえな、臨時店長のくせに。」 「あたしが本気になったらすごいよ。待ってろ、天羽良之。」 えらく鼻息のあらいあたるのところに天羽から携帯がかかってくる。 「もしもし、ごきげんよう。」 「何おまえ、今どこにいるの。」 「どこでしょう？ うひょひょ。」 わけのわからないテンションのあたる。 「お店のことなら大丈夫だよ。ちゃんと遙さんにお休みもらったから。」 「おまえさ、ほんとにどこにいるの？」 「ここはね。船の上だよー！」 「船の上だぁー？」 びっくりする天羽とさくら・伊倉。 「そっちがさ、小笠原でくじらでも見ながら、のんびり先のこと 考えるって言ってたから。」 「何おまえ、まーだ俺に慣れてなかったの？」 あきれ口調で諭す天羽。 「んなの冗談に決まってんじゃん。俺、就職決まったから。」 「へ？」 徐々に不安になるあたる。 「あの」 「俺？ 今、リサイクルショップ。」 「うそぉ〜！！！」 あたるの絶叫を残して、天羽は携帯を切った。 さくらが伊倉と笑いころげている。 「あたる、ばっかだねー。」 「でも、なんで船の上なんだろうね。」 天羽はそれを聞きながら、笑みを浮かべている。 フェリーの上で、あたるは途方に暮れていた。 てっきり天羽は小笠原だと思ったのに。 ってことは、どんどん離れていくってことだ。 あわてるあたる。 「お、おろして〜。降りる〜。あーん。」 もちろん降りられるわけもない。 フェリーは島へ向かっていく。 あたるを乗せたまま。 「２００１年のおとこ運」 ＥＮＤ |