カヲルと一夜を共にした洋子は、カヲルが寝ている間に家を出た。
残しかけたメモだが、やめてしまう。
帰りのタクシーをさがしていると、伊倉とバッタリでくわした。
こちらも久しぶりにさくらと過ごしたばかり。
もっともさくらが結婚を望んでいることを知り、そろそろ潮時を意識しだした。


「あんまり女をみくびっていると、そのうち痛い目にあうわよ」。
「そうなんだよね。そろそろやばそうなんだ。
　相談のってくれない？　今夜あたり。」
まるでこりない伊倉。
「気が向いたら連絡するわ。」
洋子は言い捨てると、タクシーで走りさった。
目を覚ましたカヲル。洋子がすでにいないのが淋しい。



「ねえ、ほんとに寝てないよね。」つい念を押してしまう。
「寝てたら、おまえを捨てて逃げた男に言い訳できないってか？」
コーヒーを入れながら、図星を刺してくる天羽。
「別にそういうわけじゃ。」口ごもってしまうあたる。
「ほんと、わかりやすい奴。ほら。」天羽はコーヒーを差し出す。


まだあたるは半信半疑。
「寝てないって。」断言する天羽。
「ほんと？」やっとあたるは安心した。が、気づく。
「あれ？　じゃなんであたし服脱いでたの？　あなたが脱がせたんでしょ。」
「おまえ、自分で脱いだんじゃん。覚えてないの？」


「あたしが？」
「酔った時いっつもそうなんじゃないのか？」
ふと考えるあたる。
「あぁ、そういえば、前にもあったよ。酔って記憶なくした時。」
「ほらぁ。でもさ、どうせなら全部脱いでくれればよかったのに。
　そうすりゃもっと楽しめたのにな。」
「人で遊ばないでよ。」



天羽はポケットからゴソゴソと千円札を２枚取り出した。
「ほら。」あたるに差し出す。
「なに、これ。」
「夕べの分だよ。」
がっくりくるあたる。
「やっぱ、やったんだぁ。」
吹き出す天羽。
「何おまえ、そんなに安いの？」
「あなただったら値切りかねないでしょ。」天羽をにらみつける。


「バイト代だよ。店番してくれたじゃん。」
「あ？　ああ。」そうかと気づく。
「今日からやるか？　バイト。」
「え？」
「ちょっとこっち、手伝って。早く。」箱を持とうとしている天羽。
「ええ？」


ぼやきながら手伝いに行く。二人でよいしょと持ち上げる。
「とりあえず、日給６千円てとこかな。こっちは人手が欲しい。
　おまえは仕事も金もなくて、困ってんだろ。」
「それはそうだけど。」
「ほら、しっかり持てよ。」
「持ってるよ。」


どっこいしょと置いて手を振り上げたら、花瓶に当たって落ちた。
粉々に割れる花瓶。
「あー！」とあたる。
「あ〜あ」と天羽。
「これって・・10万だっけ？」あせるあたる。
「バイト決定。」指さし決めつける天羽。
「ええ〜！？」


さっさとほうきとちりとりを取りに行く天羽の後を追う。
「ちょ、ちょっと考えさせてよ。」
「考えたって、金ができるわけじゃないだろ。10万だぜ、10万。」
「まあ、そりゃそうだわね。」納得するあたる。


「日給から1000円ずつ引いてやるよ。それでいいだろ。」
「えー？」だんだん抵抗が弱くなる。
「じゃコーヒー飲んだら、引き取り行くから。」とっとと話を進める天羽。
「ちょ、ちょっと待ってよ。歯も磨きたいし、お風呂にも入りたいし、着替えもしたいし。」
「あ、じゃやるんだ。」これでは拒否できない。
「とほほ。」あたるの負けだ。



とりあえず一旦、家に戻って来ることにした。
店の前で別れる二人。
「じゃ、待ってるから。」肩を叩かれて仕方なくあたるはうなづく。
「うん。」


そこへ通りかかったのは・・伊倉とヨリを戻したさくら。やばい。
「泊まったんだ？」意味深な聞き方。あせる。
「うん。」天羽はのんきに肯定する。
さくらの眼が踊ったかと思うと、走り出した。
「さくらー！」あたるも走り出す。
見送る天羽は、おかしそうに笑っている。



さくらはカヲルの家に駆け込んで得々と報告した。
「あたるね、リサイクルショップのあいつんとこにお泊まりしたんだよ。
　あいつとできたんだよ。」
「違うの。酔いつぶれて眠っちゃっただけ。」


「なんだ、つまんない。
　じゃなんであいつのとこに、飲みに行ったのよ。」
「元はといえば、あんたがあたしの部屋にゲソを連れ込んだりするからでしょう？」
やぶへびなさくら。


「なにおまえ、そんなことしたの？」呆れるカヲル。
「ミイラ取りがミイラになっちゃってさ。」
「もう、あたしのことはいいでしょう。」
ヨリは戻したものの、伊倉の本心が見えてめげ気味のさくらは、話をそらす。
「姉妹そろって何やってんだか」。


「あれ、洋子虫は？」
「起きたらいなかった。」
「洋子虫がおとまりしたの？　エッチしたの？」
「まあな。」
「カヲル、ばっかじゃないの？」まくしたてるさくら。黙っているあたる。
「なんで黙ってんのよ。」
「あたるは夕べ、気きかしてくれたんだよ。」


カヲルは会社へ出かける。
文句をいうさくらにあたるは言う。
「だって、カヲルが洋子虫に決めたんだもん。言ったって仕方ないでしょ。」
朝ご飯をぱくつくあたるに、呆れてさくらはまた寝てしまった。



そしてカヲルにはもう一つ気がかりなことがあった。
洋子から無視されるようになったのだ。
「今度はいつ会えますか？」
「ここは会社よ。あなたも社会人ならわきまえて」。
洋子の突然の心変わりがカヲルには理解できない。



「何もたもたしてんだ」
天羽に言われて、あたるはリサイクル品を軽トラに積みこんでいた。
ふと、向こうの公園を横切った男をなにげなく見たあたるの動きが止まった。
「健ちゃん・・・？！」。
逃げてしまった健だった。
「待って！！」


あたるは追いかけたが、姿を見失ってしまう。
「今さらどうするんだ。お前を捨てて逃げた男だぞ。
　はーん、まだ忘れられないんだ。」
天羽の言葉に、あたるは言い返した。
「逃げた理由が知りたいだけよ」。


でも、絶対この辺に住んでるはずだ。
車で通るときもついつい探してしまう。
「下りて探すか？」天羽は鋭い。
「え？」
「あいつ探してるんだろ。」
「ち、違うよ。単なる挙動不審じゃない。」
「なるほどね。」天羽は笑っている。



店に戻って回収品のホコリをはらっていると、広瀬菜々がいつの間にか店にいた。
あたるが辞めさせられた会社の後輩だ。
「先輩と比べたら、私なんかよっぽどマシですよね」。
菜々も男にふられたばかりだが、あたるの姿を見て慰められたらしい。
「また来ます」。
あたるはうんざりした口調でこたえた。
「もう来なくていいよ」


「おまえよりあいつの方がよっぽどしっかりしてるじゃん。」
天羽の台詞が憎たらしい。
「それすんだら、あれな。」
「えー、まだあるの？」人使いも荒い。



さくらが公園にいると、伊倉がイベントコンパニオンの松尾淳子という
若い女を連れていた。
「こんなやんちゃな人で、大変だったわね」
「そちらもお気をつけて。この人、懲りない人ですから」。
伊倉をはさんで女２人、静かに火花をちらした。



「あいつ、わざと新しい女を見せつけたんだよ」。
うっ憤をぶちまけるさくらを無視して、カヲルはぽつりとつぶやいた。
「あたる、この頃帰りが遅いなあ」。
天羽の店でバイトしているとは知らない。


「ねっ、ちょっと抱きしめてくれる。この前あたるにやってたみたいに」。
しかたなく、「はいはいはい。やらせていただきます」。
カヲルがさくらを抱いていると、ヘトヘトに疲れたあたるが帰ってきた。
「あー、ハグハグしてる。しかも前から」。
さくらは憎まれ口を叩いた。
「あたるは男運悪いんだから厄落としもかねて、
　リサイクルショップのあいつにでもハグハグしてもらったら」。
頭にきたあたるは自分の家に戻った。


健とのツーショット写真を見ていたら切なくなってきた。
「なんでコソコソ逃げちゃったのよ」。
未練をたち切るために写真をガス台にかざした。が、点火できない。
「止められたんだ。ガス代払ってないもんなあ」。
あたるはさらに情けなくなった。
心の痛みも除光液でつるんとぬぐえたらいいのに。



カヲルは会社の屋上で洋子が１人きりでいるのを見つけた。
「どうしてですか？」。
カヲルには洋子から避けられる理由が分からない。
「しばらく会うのはやめましょ」


「やっぱり遊びだったんだ」。
洋子がパソコンにシングルマザーの出産スケジュールを組んでいることなど、
カヲルは知るはずもない。
「こっちから連絡するわ」。
ぼう然と立ちつくすカヲルを残して、洋子は行ってしまった。



「ちょっと抱きしめてみてくれる？」。
リサイクルショップで掃除していたあたる。
ふと昨日のさくらの台詞を思い出して、天羽に頼んでみた。


「はぁ？」
「いや、ちょっと試してみるのもいいかなって。」
「何を？」さすがに面食らっている天羽。
「ちょっとは好きになれるかなって。」
「はーん、俺のこと好きになりたいんだ。」
「あ、そんなに深い意味はないの。嫌いな人のところで働くより、
　好きな人のとこで働きたいし。」


「なに、俺そんなに嫌われてるの？」心外そうな天羽。
「そんなにっていうか、ちょっと人使いの荒い、口の悪い悪魔って思ってるだけで。」
「悪魔ぁ？」
「それに、好きになれたら健ちゃんのことも忘れられるかもしれないし。」
「ははん、前の男を忘れるために、新しい男ね。」


天羽は品物を向こうへ運んでいく。
「ちょっと抱きしめてくれるくらい、いいじゃん。ストリップ見たんでしょ。」
「おまえが勝手に脱いだんじゃん。」
「見たことには変わりないでしょ。」
「あのね、見たんじゃなくて見せられたの。」
戻っていく天羽。追うあたる。


「あー、逃げてんだ。それともあれだ。」
「なんだよ。」
「抱きしめてドキッとしたらどうしよう、とか。」
「んなこと、あるわけないじゃん。」吹き出してあたるを叩く天羽。
「じゃあいいじゃん。抱きしめてよ。」


「フツーそういうこと、言うかあ？」
「そ・・れは。でももう言っちゃったんだから引っ込められないし。」
口ごもるあたる。
「まあ、そりゃそうかもしれないけど。」天羽も口ごもる。


「じゃ、やってくれんだ。」すかさずあたるは攻めた。
「・・だってさ、やらないとおまえこの先もずっとうだうだ言うんだろ。」
「当然。」
根負けした天羽。
「わかったよ。やらせていただきます。」覚悟を決めた。
「うん♪」



嬉しそうなあたるを前にして、どうやったらいいんだという風情。
「んーと、こうか？」とりあえず抱きしめてやる。
「もっとギュッと。」首をかしげるあたる。
「えぇ？　こうか？」さっきより強く抱きしめる。
まだ納得のいかなそうなあたる。


「なんか、心が入ってない気がする。」
苦笑した天羽は、思わずあたるの顔を見る。
「おまえ、注文が多いなぁ。」
と、あたるは自分から抱きしめてみた。ギュッと。


ドキッとした天羽。不覚にもあたるを意識した。
抱きついているあたる。天羽の抱きしめ方が微妙に変わる。
あたるも感じる。さっきと違う何か。
温かくてドキドキする。なんだか気持ちいい。
試しているはずなのに、二人とも瞬間本気。



ちょうどその時、会社帰りのカヲルが店の前を通りかかった。
ふと立ち止まる。置いてある椅子の上に見慣れたマフラー。
「・・あたる？」
首をかしげて店に入ってみる。


抱きあっていたふたり。
「駄目だ、こりゃ。全然ときめかない」ふざけてドキドキをごまかすあたる。
「言ってくれるよな」天羽も同じだ。
２人とも冗談でごまかした。でもなんとなく離れがたい。


そこへカヲルがぶ然として店に入ってきた。
「もしもし、あんた何やってんの？」。
驚いたあたるはあわてて天羽の腕をふりほどいた。
「うわぁ、あ、あの。」あせって言葉が出てこない。


「何って、みりゃわかるだろ。
　これからいいとこなんだから、気ィきかせろよ。」
からかって、またあたるを抱き寄せようとする天羽。
あたるのあせりは倍増する。


「違うの、バイトしてるのここで」。
「バイト？」
「ね？」
天羽は知らんぷり。
怒って出ていったカヲルをあたるが追いかけた。


「なんで言わなかったんだよ、バイトしてること。」
「言いづらかったんだもん。」
「なんであそこなの。」
「花瓶壊しちゃってさ、10万だよ。」
「それくらいなんとかしたよ。」
「これ以上迷惑かけられないって思ったんだよ。
　カヲルは洋子虫のこともあるし。」


「じゃなんで抱きあってんの。」
「あれは・・ちょっと試したって言うか。」
「何を？」
「ちょっとは好きになれるかなって。」
「ほお、それで？」
「うん。ちょっとドキッとした。」
「あいつのことが好きなのか」
「そんなのわかんないよ。ちょっとだし。」


「おまえ、こないだあいつと寝たろ。」
「寝てないってば。なんでそんなにとやかく言うの？」
あたるが切り返した。
「洋子虫とまたうまくいってないんだ」。
痛いところをつかれたカヲルは仏頂面ではき捨てた。
「お前があいつに決めたんなら勝手にやれば」
「勝手にするわよっ」。
２人は顔をそむけて別れた。なんでこうなるの？



あたるが店に戻ると、天羽があたるの携帯で話している。
「おまえが捨てて逃げたんだろ？　今さら話すことなんかないだろう」。
健からだ。
あたるはあわてて携帯をもぎ取ったが、すでに切れていた。
かけなおしたが、つながらない。


「電源切られちゃったじゃないの。なんであんなこと言うのよ。
　あなたには関係ないでしょう？」
くってかかるあたる。
「無駄な時間を省いてやっただけだ。」
「無駄かどうかはあたしが決めることでしょ。」


「じゃあ聞くけど、何を話すつもりなんだ？」
「そ・・れは・・話してみないとわからないけど。」
「こたつまで売っぱらって、どうして私を捨てたんだって、恨み辛みをいうか？
　それともまだ忘れられないからって泣いてすがるか？
　どっちにしても進歩的じゃねーだろ。傷つけあって終わりだ。」
投げつけるような天羽の言葉。あたるは哀しみがふつふつと湧いてくる。


「それでもいいじゃない。」
「え？」意外そうな天羽。
「あなたには何にもないの？　誰かを好きになって、傷ついたり傷つけられたり、
　ちゃんと向き合ったこと。あなたにはないの？」
天羽は黙る。


「話さなきゃ何もわからないし、だからってこのままずるずる引きずって
　生きてくなんてこと、あたしにはできない。」
「そんなにあいつのことが忘れられないんだ。」
きっと天羽をにらむあたる。
「忘れられないわ。健ちゃんのことを思うと、悔しくて悲しくて、でも忘れられないのよ。
　早く忘れたいけど、笑ってたいけど。こんな自分惨めで大っきらいだけど。
　自分でもどうしようもないの。こんな気持ち、あなたにはわからないわ！」


あたるは涙ながらに訴えた。
天羽はいきなりあたるの腕をつかむと、奥のソファへ押し倒した。
「忘れたいんだろ。」
「馬鹿にしないでよっ！」


あたるは天羽を突き飛ばして飛び出そうとするが、
部屋の出口で洋子と鉢合わせする。
「とんでもないときにお邪魔しちゃったみたいね。」
あたるは恥ずかしくて店を飛びだしていった。
道の途中でマフラーに顔を埋めて涙をこらえる。



「あなたはいつも人と距離を取っている。」
あたるが飛び出した後、天羽に向かって洋子が言う。
「本気で人を愛してしまうのが怖くて、傷つけたり傷つけられたり
することにも疲れてて。だから、本気で向かってくるあたるさんが・・痛い。」
洋子の言葉は鋭いところを突いている。


「君は占い師か？」ごまかす天羽。
「まあ、あたしもあなたと似たようなものかな。」自嘲気味の洋子。
「で、今日はどんなご用件かな。」
「別に用なんかないわ。ここでならゆっくり時間がすごせそうだなと思っただけ。」
「なんだ。俺はまたてっきり、俺を口説きにきてくれたのかと思った。」
「それもいいわね。」
こういう部分はふたりとも大人だった。



あたるがカヲルの家に戻ると、さくらがこたつ虫をしていた。
お風呂を空焚きしていることも気付かずに・・・。
仕方なく銭湯に行くことにした３人。
空焚き騒ぎの間に、あたるとカヲルもなんとなく仲直りをしていた。
ところが銭湯の前で、笑いながらやってきた天羽と洋子に出くわした。
「あら。」「よう。」
あたるとカヲルは「・・・・・・・・・」複雑な感じ。



「ちょっと、なんなんですか？」カヲルは天羽にくってかかる。
「いやあ、店には風呂がないんでね。」
「じゃなくて、なんで洋子さんが一緒なんですか？」
さくらも洋子に詰問している。
「なんであいつと一緒なの？」
「たまには広いお風呂もいいかなって。」
あたると首をかしげる。
「あのふたり、できたのかな？」



湯船に入っても微妙な空気が流れている。
その上、男湯には伊倉までが入ってきた。
「え？　今日はふたりで裸のつきあい？」


「あんた、家に風呂あるでしょう？」
「たまには広いお風呂につかりたかったんだよ。」
カヲルは女湯のさくらに叫ぶ。
「さくらー、ゲソがいるぞー！」
「え？　さくらいるの？」


驚くさくらとあたる。え、なんで？　すかさず洋子が答える。
「伊倉さん、こんばんわ。洋子でーす。」
「え、何？　彼女もいるの？」ゲソは鼻の下を伸ばす。
「こちらと一緒に。」カヲルは涼しい顔の天羽を指す。
「え？　そうなの？　いつのまにそんな複雑なことになってるの？」
どうみても楽しんでいるゲソ。



脱衣場にあがってきた６人。
ゆっくりマッサージ機で体をほぐす洋子。
牛乳を飲みながら、洋子をにらむさくらとあたる。
反対側では男３人がビールを開けている。伊倉のおごりだ。


「あれー、彼女ってカヲル君とできてたんじゃなかったっけ？
　なのになんで天羽さんと？　男と女ってわかんないね。」
明らかに女湯方向に叫ぶ伊倉。
我慢できず参戦するさくら。


「いっちばんわかんないのはあんたでしょうが！」
「お、さくら、のってきたな。愛してるよー！」
「こっちは全然愛してないんだからね！」



あまりの大声に、さくらを止めようとするあたるだが、聞くわけもない。
「カヲルも吸血鬼になんか言ってやりなよ！　言いたいことあるんでしょ！」
「お、リクエストされてるよ。」
伊倉に促され、カヲルはビールをあおって叫ぶ。
「俺、何があっても信じてっから！」


あまりの素直さに、みなびっくり。洋子は嬉しい。
伊倉はしみじみ天羽とうなづきあう。
「いやあ、若いっていいねぇ。」
さくらがだめ押しする。
「そっちが何やっても、離れてなんかやらないからね！」
「あれ、俺なんかしくじったかな？」


黙っていた天羽は、何を思ったかいきなり声をかけてきた。
「こたつ虫ー、今度はちゃんとエッチしようなー！」
あたる、さくら、カヲルは唖然。さくらはあたるをおもしろそうにつっつく。
「なに、あたる。そういう関係になってたの？」
「あんのやろー。」あたるは言葉もない。



最初に出てきたのはあたるだ。
「いっちば〜ん♪」
すぐあとから天羽が出てきた。
「よ。」


「ちょ、ちょっと、なによあれ。」
「ん？　ああ、エッチのことか？」なんともストレート。困るくらい。
「そ、そうよ。今度はって何よ。」
「これからでもいいぞー、うぉっ？」「うわぁ！」


あたるを頭ごと、つかんでいこうとして、逃げられた天羽。
あたるが詰め寄る。
「だからそうじゃなくって！」
苦笑する天羽。
「わかってるよ。」
「あ、そう。」ほっとするあたる。


天羽はえらく楽しそうに言う。
「ほんと、おまえといると飽きないわ。」
言われて嬉しい言葉なんだろうか？
「お願いだから、飽きて下さい。」思わずお願いしてしまう。


ふたりは顔を見合わせて笑い出した。雰囲気が和む。
天羽がちょっと気にしたように聞く。
「明日、バイト来るだろ？」
「え？　うん。たぶんね。」
「ん。」
さっきのごたごたはこれで帳消しだった。
二人ともなんとなく安心する。



出てきたカヲルがそんな二人の微妙な空気を感じていた。
銭湯の前で、風呂上りの全員が集合。
伊倉が「どうせだからこのままみんなで飲もっか。」と盛り上げていた。


そこへやってきたのは、風呂セットを手した・・・健。
思わず殴りかかったカヲル。
それを止めに入ったあたるの前に、健をかばう女の子。
これって・・やっぱり？
その場に立ちつくすあたるだった。

---