Home＞menu＞１ ２ ３ ４ ５ ＞あらすじ第６話「シングルマザー」＞７ ８ ９ １０ last
健に、天羽との事は嘘だったと話して、あたるはきちんと別れを告げた。 傷ついてもごまかさずに現実と向き合って、必死でつらさに耐えるあたるに、 天羽は胸を貸してくれた。 思いがけない優しさに、えんえん泣くあたる。 やっと落ち着いたと思った頃、ふいに吐き気におそわれ、流しにつっぷしてしまう。 驚く天羽。 「おまえ・・まさか？」 あたるの頭にも不安がよぎる。 「俺の子どもか？」 「へ？ やっぱりあの時？」 天羽の言葉に、こないだ泥酔したときを疑うあたる。 ところが天羽は笑い出す。 「何おまえ、まーだ俺に慣れてないの？」 「なんだ、冗談かぁ。こんな時までからかわないでよ。」 力が抜けるあたる。 「で、どうすんだ？」 「え？」 「子ども。できてるんじゃないのか？」 「ち、ちがうよ。風邪だよ。」 「でも、できてたら、健ちゃんの子どもだよな。」 「違うってば。」 天羽にじっとみつめられて、あたるは逃げをうつ。 「帰らなきゃ。もう遅いもんね。おやすみなさい。」 カヲルは洋子に、持っていた妊娠検査薬について聞く。 「違うの。部下の子で時々悩んでる子がいるから。」 ごまかす洋子だが、カヲルは怪しむ。 あたるが帰るとすでに洋子の姿はなかった。 あたるはそっと、帰りに買った妊娠検査薬を試そうとする。 そこへ帰ってきたさくらもまた、同じものを持っている。 トイレの前で争う二人。のぞいたカヲルにばれる。 呆れながらも「ま、やってみれば。」 「ドキドキするんだもん」 「こっちだって」。 カヲルを間にはさんで、あたるとさくらは不安そうだった。 妊娠検査薬の反応はとりあえずシロとでたが、説明書は再検査をすすめている。 ２人はもうなかば妊娠を宣告された気分。 洋子が同じ薬を持っていたカヲルも落ちつかない。 「マジでやばいんじゃないの」 「それはお前らだって同じだろ」。 ３人そろってため息をもらした。あたしたち、どうなるんだろう。 天羽と引き取りに出かけたあたる。 なぜか引き取り先のすぐそばに産婦人科があった。 しかも偶然そこからは、健の彼女・典子が出てきた。 妊娠していると言ってたから、定期検診かなと思うあたる。だが複雑。 すると天羽に「病院、行って来い」と置き去りにされてしまう。 もしできていたら・・・どうしよう。 さくらは伊倉に打ちあけた。離婚した伊倉には支障ないはずだ。 ところが返事は「お前もまだ若いしな。いろいろやりたいことがあるだろ」。 暗に出産を拒まれた。 「地獄に落ちろ！」。 さくらはできたての手料理をゴミ入れに捨てると、伊倉のマンションを飛び出した。 残された伊倉もさすがにやばい、としかめっ面。 「もし子供ができたなら責任とるから。俺と結婚してもらえませんか」。 深夜のオフィスでカヲルは洋子にきりだした。 「あなたはいらないの。子供がほしかったのよ」。 洋子はパソコンの画面をカヲルに向けた。 そこにはシングルマザーの父親候補としてのカヲルのデータがインプットされていた。 カヲルは驚いて声も出ない。 「カヲルのこと、たね馬として見てたってこと？」。 あたるとさくらもさすがにビックリ。 「お前らのほうはどうなんだ」。 あたるは病院に行ったが、結果がでるのは１週間後。 「子供には罪はないしさ」。あたるは正直、中絶には戸惑いがある。 さくらも妊娠しているのかハッキリしない。 たしかなのは伊倉が出産を望んでいないことだけ。 「勝手に生んじゃったほうが勝ちかなって思ったよ。」。 ３人とも冗談めかしても表情はさえない。 その頃、他の３人もリサイクルショップで顔をつきあわせていた。 天羽と伊倉、洋子だ。 「カヲルくん、ショックでしばらく立ち直れないんじゃない？」 「まだわからないのに打ちあけたのは、それだけ彼にホレたってことかな」。 「きっとできているわ。分かるの」。 妊娠を確信して洋子は笑みをもらした。男２人は洋子の決意に舌をまいた。 「あなただってまずいでしょう、さくらさん。」 「まずいですよ。離婚してるのばらしてくれちゃうんだもん。あいつ、産む気だよ。」 さすがに弱る伊倉。 「いいかげんに観念したら？」と洋子。 「そろそろパパになるのも悪くないんじゃない？」と天羽。 「天羽さんはいいよね。何のしがらみもなくて。」 伊倉がうらやましそうだ。 「いや、これでもいろいろありますよ。」 「めんどうなバイト雇っちゃったしね。」洋子が笑う。 「ああ、さくらの姉ちゃん？ ありゃあ面倒だわ。」 「おとこ運もかなり悪そうだし。」 「まあ、今のあいつは超ＢＡＤかな。」 天羽の放ったシュートは見事にゴールした。 病院へ行く途中のあたるは、カフェで典子を見かけた。 妊娠しているのに抗生物質入りの薬をのんでいる典子。 「あなたまさか？」。 典子は逃げるように姿を消した。 「彼女、妊娠してないかもしれない」。 あたるはカヲルに携帯で話した。 逆に、自分ができてたら健にちゃんと話せと説教されて切ってしまう。 赤ん坊連れに出会うと考え込んでしまうあたる。 「子どもには、生まれたいとか生まれたくないとか、選べないんだよね・・」 部屋に戻っても迷いは続く。 つい、田舎の母親に電話してしまうあたるだった。 『お母さん、あたし、親不孝してしまうかもしれない。』 店に出ると、洋子と菜々が談笑していた。 シングルマザーの話題でもりあがっていたらしい。 「洋子さんって美人だし部長だし憧れるわ」。 気楽な菜々が帰ってしまうと、あたるは洋子に問いただした。 「カヲルは父親になるって言ってるんだよ」 「努力しても男は裏切るわ。でも子供は裏切らない」。 洋子の口調に迷いはなかった。 「カヲルは裏切らないよ。」 「健ちゃんみたいに？」洋子は痛いところを突いた。 「あなたももう懲りたんじゃないの？」 黙るあたる。そこへ横やりが入る。 「女ってシビアだね」。 ふり返ると買い物から戻ってきた天羽が立っていた。 「聞いてたの？」と洋子。 「声ぐらいかけてよね」。 あたるも文句を言ったとたん、吐き気をおぼえてトイレにかけこんだ。 洋子の顔色が変わる。 「あの子まさか？」 「まだ判定待ちみたいだけどな」。至って落ち着いている天羽。 「もし彼女が健ちゃんの子供を身ごもっていたら、あなたどうするの？」 「それはあいつが決めることだよ。君が勝手に生むって決めたみたいにさ」。 そう言われれば何も言えない洋子だった。 洋子が帰ったあと、トイレから出たあたるが泣いている。 「どしたの、おまえ？」 天羽を見上げて泣き笑いになる。天羽も腑に落ちた。 「あ、きたんだ」 生理が来たのだ。あたるは妊娠してなかった。 「だったら泣くことないじゃん。」 「だって、できてたらどうしようってずーっとずーっと悩んでて。 すごくホッとしたんだもん」。 あたるは泣きながら不安だった気持ちを打ち明けた。 天羽はあたるの背中をあやすように優しく叩いた。 「どうしようもないな」。 するとあたるは、天羽の皮ジャンをひっぱった。 「おい、鼻水つくだろ。」 文句を言うと、半べそであたるが言う。 「だってこないだ、泣くなら胸だって言ったじゃん。」 思わず笑う天羽。 「言ったな。うん。よし。ほら。」胸を叩く。 あたるは天羽の胸でまた泣き始める。 「ほんと、どうしようもないな。」 そう言って頭をなでてやりながら、天羽の胸にはいとおしさがこみ上げてきた。 ひとしきり泣いた後、あたるはしっかりこき使われていた。 「ほら、さぼんなよ。」 重いテレビをやっと運ぶ。 「くそ〜、やっぱりあいつ、悪魔だよ。」 店のドアが開く音がした。 「いらっしゃいませ。」言いながら見ると典子だ。なんで？ 固まっていると、天羽も来て驚いた。 「お。」 カヲルは居酒屋に呼びだした健につめよっていた。 「妊娠が嘘だって、もう知っているんだろ」。 健は重い口を開いた。 「典子は病気なんだ」。 その治療費にあてるために、あたるのこたつまで売り払ったのだ。 「あいつには俺しかいないんだ」 「だからって１年もつきあって、あんな別れ方はないだろ」。 すると健は意外なことを告白した。 「お前たちが前につきあっていたことが、 いつも頭のどこかにひっかかっていたんだ。」 「そんなの言い訳だろ。」 「しょうがないだろ、俺は典子を選んだんだ」。 カヲルはもう何も言えない。 店に現れた典子はあたると向きあっていた。 「私、身寄りもないし不安で心細くて、それで健ちゃんに頼ってしまったの」。 健は治療費をかせぐために昼夜をとわず工事現場で働いている。 「健ちゃんがあなたを選んだことに変わりないよ。 それよりきちんと言ってくれなかったことが悲しいよ」。 あたるは精一杯の笑みをうかべた。 「嘘ついてごめんなさい」。 ２人のやりとりを聞いていた天羽が、帰りかけた典子に尋ねた。 「病気って何なんだ？」 「子宮ガンです」。 驚いて立ち上がるあたる。 手術は３日後、卵巣を摘出してしまう。 「ほんとに子供ほしかったんだけどなあ」。 典子は遠くを見つめるようにつぶやいた。典子の痛みをあたるも感じた。 あたるは深夜の交通整理のバイトを始めた。 誰にも言わずに内緒のつもりだったが、昼間つい居眠りしたので 天羽にバレてしまった。 バイト先までつけてきた天羽はあたるに言った。 「彼女のためだろ。でも彼女は喜ばないんじゃないか？」 「あたしのためだよ」。 あたるは天羽に話した。 「このまま何もしなかったら、しこりが残ると思うんだよね。 健ちゃんのことふっきったのに、モヤモヤして、 ちゃんとふっきれないと思うんだ。 さっぱりしたいの。さっぱりして、笑っていたいんだよね。」 だから、これは自分のため、あたしのためだよ。」 天羽は笑った。 「ほんと、ぶきっちょなヤツ。」 「部屋でこたつ虫やってるよりマシでしょ」。 あたるの気持ちは天羽にはよくわかった。 手術当日、あたるが手にしたバイト代は４万５千円。 「足りないよな」。 あたるがため息をもらしていたら、天羽が目の前に10万円置いてくれた。 「お前のノートパソコン、買い取りだ」。 やがて健が店にやって来た。天羽が呼んでくれたらしい。 「手術費用の足しにして」。 あたるはお金を健に差しだした。 「同情なんかじゃない。あたしが健ちゃんをふるの。その手切れ金よ」。 ためらう健に天羽が声をかけた。 「そいつの意地も少しはたててやんないと」。 健は金を受け取った。 「ありがと、助かるよ。ほんとごめん・・・典子を・・・ほっとけなかったんだ」。 健は深く頭をさげた。たまらずあたるはつぶやいた。 「健ちゃんはやっぱりあたしが好きになった健ちゃんだよ。 でも、これでバイバイだけどね」。 あたると健は精一杯の笑顔でうなずきあった。 天羽が健に冗談を言う。 「うらやましいよ、おまえ。おとこ運最悪の女から逃げられてさ。 これで運もよくなるんじゃないか？」 「なによ、そっちだっておんな運最悪だっていってなかったっけ？」 「だからお前雇っちゃったんじゃん。」 「あ、そっか。」 あたると天羽の軽口のたたき合いを、健は意外な思いで見ていた。 あたるの中の自分が入れなかったところに、天羽はもういるような気がした。 一方、カヲルは洋子にシングルマザーの決意を問いただしていた。 「本当に俺はいらないの？強がっているだけだろ」。 しかし洋子はきっぱりと断言した。 「いらないわ。うぬぼれないで。」。 カヲルはぼう然と立ちつくした。 健とのことにきちんとけじめをつけて、あたるはすっきりした気分での帰り道。 橋にカヲルがぼーっといるのをみつけた。 「どうかしたの？」 「いや。」 大晦日を思い出すふたり。 「カヲルが一緒にくじら飛ばしてくれたよね。」 「お前、健ににげられちゃったからな。」 「えへ。」 笑うあたる。もう、笑える。 そのころ、健がクジラの風船をもって、リサイクルショップへ現れた。 「手術、終わったのか？」天羽が聞く。 「はい。成功しました。今のところ、転移もないって。」 「そっか。とりあえず良かったな。」 うなづく健。それからくじらを差し出す。 「これ、あたるに渡してもらえませんか？」 「お、くじらだ。」 「カウントダウン、一緒に飛ばそうって約束してたんだけど。 俺約束やぶっちゃって。」 「クリスマスに逃げちゃったもんな。」 すると健は意外な台詞を言った。 「俺の代わりにあなたがあたると一緒に飛ばしてもらえませんか？ あたるのこと、よろしくお願いします。」 とまどう天羽。 「なんで、俺なの？」 説明はしづらい。 健の頭の中には、こないだの二人の会話が浮かんでいる。 「ただ、なんとなくかな。よろしくお願いします。」 頭を下げると、健は帰っていった。 渡されたクジラを見上げて困る天羽。 「なんとなく・・ねえ。」 橋の上ではあたるとカヲル。 「あたるさ、子どもができてても心配するなよ。 俺がなんとかしてやるから。」 洋子にはふられたけれど、洋子の子どもも、 いざとなればあたるの子どもも、まとめて面倒見るというカヲル。 自分は子どもはできていなかったものの、 その言葉があたるには嬉しかった。 天羽はクジラを持って、あたるのところへ向かっていた。 天羽の風貌とクジラの風船の取り合わせは、えらく人目を引く。 自分で首をかしげる天羽。 「なんで俺がこんなこと。」 通りすがりの人たちが皆振り返っていく。 苦笑する天羽。 「似合わねえよなぁ。」 運河沿いの橋に並んで座りながらカヲルはあたるに話した。 「俺、メチャクチャかっこ悪いよなあ。一回寝ただけで分ったような気になって。 うぬぼれんなって言われちゃったよ」 「洋子虫もほんとは不安だと思うよ。今はきっとつっぱってるだけだよ。 その内カヲルの気持ち分ってくれるよ。きっとうまくいくよ」 あたるは一生懸命カヲルを励ました。 そんなあたるの気持ちがカヲルに沁みる。 ひとつ手前の橋に天羽が辿り着いた。 あたるとカヲルに気づいて、みつめている。 「かっこ悪くたってカヲルはカヲルだよ。あたしは好きだよ、カヲル。」 「キスするか」 「え？」 突然あたるにカヲルはキスをする。 びっくり仰天。固まるあたる。 ふたりを天羽がみつめていた。 |