Home＞menu＞１ ２ ３ ４ ５ ６ ＞あらすじ第７話「男と女の友情」＞８ ９ １０ last
あたるは突然カヲルにキスされてしまった。 「意味なんてないよね」 「ないんじゃねえか」 「でもびっくりしたよ」 たまたま見ていた天羽は、持ってきたクジラと戻っていった。 ところがこのキスの意味が大きくふくれあがることになった。 きっかけはさくらの一言。 「２人、とうとうヨリ戻ったんだ」 伊倉も調子をあわせた。 「幼なじみとはいえ、男と女だもんな」。 あたるはあわてて否定した。 「友情のキスよ」。 なんとかその場はとりつくろったが、あたるは自分の言葉に 説得力のないことはわかっていた。 「あれえ」。 翌日あたるが店に出ると、店内に２匹のクジラ風船がプカプカ浮かんでいた。 「健ちゃんがお前に渡してくれってさ」。 健の彼女・典子の手術が無事成功したと聞いて、ホッとするあたる。 「昨日、これもってったんだけど、カヲル君とお取り込み中だったみたいで。」 「げ。見てたんだ。」 あわてるあたる。 「友情でキスするか？」 「あなただってあたしにボランティアでキスしたじゃない。」 必死で言い訳するあたるに、反論する天羽。 「男と女の友情は、タイミングのズレた男と女だよ」。 つまりどちらかの気持ちがもりあがっているのに、 相手にはその気がない状態。 「お前が気づいてないだけで、カヲルくんのボルテージ、 あがってきてんじゃないのか」 おもしろそうに言う天羽。あたるは少し不安になってきた。 あたるが家に戻ると、珍しくさくらから感謝された。 妹に対して責任をもってほしいと迫ったおかげで、 伊倉がさくらの妊娠を前向きに考えてくれるようになったらしい。 ふだんはケンカばかりしても姉としてはうれしい。 カヲルはベッドの上でぼう然としている。 洋子とはまだ話せるチャンスすらない。 「なんか俺もギューッと抱きしめてほしい気分だよ。やってくれっか？」。 ふだんのあたるなら二つ返事でそうしただろう。 でもいまはそんな気になれず、逃げるように部屋から出ていった。 あたるは洋子を呼びだして、カヲルともう一度話しあって もらえないかと頼んでみた。 「あなたたち、またつきあったら。 そうすればこっちは穏やかに子供を産めるわ」。 洋子のシングルマザーの決意は揺るぎなかった。 そして彼女もまた、あたるとカヲルがヨリを戻せばいいと口にした。 店へ戻ると菜々が雑誌を置いて行った。相性占いが載っている。 「どれどれ、お前、何座？」 「蟹座。」 「カヲル君は？」 「乙女座。」 「ほら、やっぱりそうじゃん。相性最高。」 あたるはふと天羽のことが気になる。 「そっちは？」 「安心して。相性最悪だから。」 指し示したところには、最悪の相性とされる水瓶座があった。 「男と女の友情なんて言ってないで、そろそろ観念したらどうだ？」 「え？」 「元彼に戻ったって、恥ずかしい事じゃないんじゃないか？」 天羽の言葉は妙にあたるにこたえた。 いや、言葉じゃなくて天羽に言われたからだろうか。 あたるが自分の部屋でこたつ虫をきめこんでいると、 カヲルが姿を現わした。 「戻ってこないから、こっちじゃないかって思ってさ」。 手にはナベ料理の食材を下げている。 今のあたるは焦るだけだ。 そのころ、さくらと伊倉が天羽の店で飲んでいた。 「ねえねえ、あたるのこと、どう思ってるの？」 なんともストレートなさくらの問い。はぐらかす天羽。 「でもお姉ちゃん、カヲル君とくっつきそうなんだろ。」と伊倉。 「ま、それが一番無難だろうね。」これは天羽。 「それがほんとの気持ち？」さくらがつっこむ。 「え？ あ、いや、・・お代わりは？」 つっこまれて焦りつつ、またごまかす天羽。 「でもまだふたり、わかんないよ。カヲルはともかくあたるがね。」 さくらの読みは鋭い。 カヲルは慣れた手つきで下ごしらえをはじめたが、あたるは 緊張して動きがぎこちない。扉におでこをぶつけた。 「タンコブになるぞ」。 カヲルが手をかざしてきたので、あたるは焦った。 「あたしたち、やっぱ友達のほうがいい、今がベストだよ。 またつきあっても苦労するだけだよ」。 カヲルは呆気にとられた。そして大笑いした。 「そんなこと考えていたの？ すげー、勘違い」。 あたるの一人相撲だった。 ホッするやらおかしいやらで、２人は笑いが止まらなかった。 「さくらが言うからさ。」 「またあいつか。バカだよな、さくら。」 さくらは店でくしゃみをする。 「風邪か？」 「ううん、あたるが笑ってる。」 「はあ？」伊倉と天羽がハモる。 「子どもの頃からそうなんだよね。こういうときはいっつもあたるが笑ってるの。」 「でも、それだけ通じ合ってるって事は、思い合ってるってことだよね。」 天羽が言う。 「天羽さんにはいるの？離れてても通じあっている人が」。 さくらに聞かれて、いつになく天羽は真面目に考え込んだ。 「俺の場合は、曇り時々曇りかな。」 「またごまかしてる？」 「ずっといろんなこと、忘れたふりして生きてきたからさ。 わかんないんだよね。まだ通じあってんだかどうだか」。 あたるとカヲルはチゲ鍋をかこんで四方山話。 カヲルはもう一度、洋子にきちんと気持ちを伝える決心をする。 「おまえは？」 「ん？」 「リサイクルショップのあいつよ。」 「んー、気になるって感じかな。でも、あいつ、 何考えてるのかわかんないんだよね。」 あたるはちょっと天羽に傾きだした気持ちをカヲルにもらした。 翌朝、誤解のとけたあたるはサッパリした気分で店に出てきた。 だが、店は鍵がかかったままだ。 「あれ？ どうしたんだろ。」 鍵を開けて店へはいるあたる。 「おはよーございまーす。」 店内は暗い。奥をのぞいても天羽の姿は見えない。 「え？ いないの？」 とまどうあたるの目がくじらをとらえた。 あたるの記憶がフラッシュバックする。 去年のクリスマスに、くじらを残していなくなってしまった健。 まさか、また？ 押し寄せる不安にあたるは店内を探し回る。 そうはいっても狭い店の中、探す場所は限られている。 店の奥へ入っていったあたる。 「おお？」 そこで床に転がって寝ている天羽を見つけた。 「なんだ、いたんだ。」 ホッとするあたる。 むっくりと起きあがりソファに座る天羽。頭を抱える。 「水くれ、水。」 「二日酔い？ ったくしょうがないな。」 冷蔵庫から水を出して渡してやる。 「そんな薄着で風邪ひくよ。」 「サンキュ。」 一気に水をあおる天羽。 「鍵もかかってるしさ、夜逃げでもしたのかと思ったよ。」 「健ちゃんみたいに？」 からかう天羽。でもうなづくあたる。 「うん。」 「？」 天羽がいぶかしがる。 あたるはテーブルの下に転がっているビールの空き缶を 拾いながらぽつぽつ言う。 「・・くじらもあったしさ、クリスマスの時のこと思い出しちゃって。 また、黙っていなくなったんじゃないかって。 またひとりで置いてけぼりくったんじゃないかって、 なんか、すごい、・・不安になっちゃった。」 黙って聞いていた天羽は、すっと手を伸ばしてあたるの頭をクシャっとなぜた。 驚いてふりむいたあたるに天羽は言った。 「俺ならどこにも行かないよ。」 「おまえ、置いてきぼりにしたらさ、健ちゃんの時みたいに、どうしてだー、 どうしてだーってずーっと執着されそうだもんな。」 茶化しているようだが優しい言葉に、あたるは不思議と安心する。 笑顔になって返す。 「怖いよ〜。」 天羽はまたソファにひっくり返る。 「あー、しっかし眠い〜。」 あたるはテーブルの上を片づけようとして、口紅のついたグラスに気づいた。 なぜか動揺する。 「女の人と飲んでたんだ。」 「俺に女がいたっておかしくないだろ？」 「そりゃそうだけど。」 なにかひっかかるあたる。 「あ、まさか洋子虫じゃないよね。カヲルとのこと、話したでしょ。」 天羽はごまかすようにあたるを誘う。 「来いよ。」 「はぁ？」 「今日は店開けないで、このまま一緒に寝てようぜ」 「そんな風にごまかさないでよ。」 「別にごまかしてないよ。」 「じゃ、そんな風にからかわないで。」 「別にからかってないって。」 てんで聞かない天羽。 「だってさ、ひとりで寝るより二人の方が暖かいじゃん。」 あたるはふいに悲しい気分におそわれて、 やり切れないように天羽を見つめた。 「どうした？」。 「そのまま根が生えて、ぐるぐる巻きになって、 動けなくなるまで寝てれば？ 知らない。」 あたるはプイと部屋を出ていった。 天羽は気になるようにあたるを見送った。 土手でひとり海をみつめるあたる。 あたるは自分の中に、天羽への思いを見つけていた。 家にもどってこたつ虫をしていても、それが気になる。 「俺ならどこにもいかないよ。」 気になって仕方がない。これって・・恋？ 天羽もまた、店でひとり飲みながら思いにふけっていた。 くじらが揺れている。 『俺の代わりに、あなたが一緒に飛ばしてくれませんか？』 妊娠してなかったとわかった時、ホッとして自分の胸で泣いていたあたる。 天羽の物思いも尽きない。 数日後、天羽が店番しているとカヲルがやって来た。 あたるは買い物で留守だ。 「あなたに話があるんだ」。 カヲルはクジラの風船に目をとめた。 「健ちゃんが持ってきたんだよ。 前に君が一緒に飛ばしてやったんだって？」 「あんたは一緒に飛ばしてやらないんですか？」 「前に言いましたよね。俺があいつのおとこ運下げてるんじゃないかって。 健にも言われ ました。俺たちの間に入っていけなかったって。 あなたもやっぱりそうなんですか？」 「俺とあいつはそういう関係になって欲しくなかったんじゃないっけ？」 カヲルは以前、あたるとはつきあってほしくないと天羽に言ったことがある。 「いまもその気持ちは変わらないけど。 とにかく俺とあたるは幼なじみとしてだから」。 カヲルは自分に言い聞かせるように言うと、帰っていった。 考え込む天羽。 カヲルが帰ってしばらくすると、あたるが買い物から戻ってきた。 「お前どっかでさぼってただろ」。 近所の神社でおみくじを引いていたのだ。 しかも大吉が出るまで何度も。 あたるは天羽の目を盗んで、大吉のおみくじを クジラの風船のひもに結びつけた。 「ねっ、クジラ一緒に飛ばしてくんない？」 「え？ ・・はぁ・・ん。」 「ん？」 「なんで俺なの？」。 天羽はあたるをじっと見返した。 「だって『天羽』って『天の羽』って書くんでしょ。 天使みたいで一緒に飛ばしてくれたら、幸せになれそうじゃん。」 もちろんそれはこじつけだった。 「天使ねぇ。悪魔じゃなかったっけ？」 天羽はあたるの買ってきたペンキをもって店の奥へひっこむ。 あたるはあわてて追いかけた。 「飛ばしてくれたって、いーじゃん。」 「カヲル君に飛ばしてもらえばいいだろ。」 ペンキ缶をふりながらそっけない天羽。 「カヲルにはもうとばしてもらったし。あ、それに、こないだ クジラ持ってきてくれたって言ってなかったっけ？ あれって一緒に飛ばしてくれるつもりだったんでしょ？ だから持ってきてくれたんでしょ。」 「おまえさ、それってめちゃくちゃ自分に都合のいい解釈じゃないか？」 天羽はペンキ缶を置いて、あたるに向かう。 「カヲル君とちゃんと話したのか？」 「話したよ。カヲルの気持ちもわかったし。あたしたちはやっぱり、 恋人同士っていうより、幼なじみのほうがあってるっていうか、 お互いそのほうが楽だし。カヲルとは今のままでいたいんだよね。 何でも知ってて、なんでも話せて。カヲルもやっぱり同じよ うに考えてた。」 聞きながら考え込む天羽。 「それに、カヲルといてももう、ドキドキしないしね。 そういうのも通り越しちゃったし。」 そういって天羽をみつめるあたる。 黙ったままの天羽。 「やっぱりダメなんだ。・・ま、いいや。」 あたるがあきらめて戻ろうとした時、天羽に手をつかまれた。 「え？」 天羽が顔を近づけてきた。あたるはあわてて目を閉じた。しかし。 「ドキドキしただろー」。 いつものようにからかっていたのだ。 あたるは傷ついた。その気になっていたのに。 涙があふれてきた。 「ドキドキなんてするわけないじゃん。」 精一杯強がると、クジラの風船の紐をほどく。 「クジラぐらい１人でだって飛ばせるわい！」。 風船を持って店を飛びだした。 あたるの反応に驚き、胸が痛む天羽。気になって煙草に火もつかない。 自分のアパート前の橋で、あたるはおみくじを広げた。 大吉のおみくじの裏には、あたるの字で 『２人で一緒に幸せになれますように』と書かれていた。 やっぱり１人はさびしい。 「なんであんな奴、好きになっちゃったんだろ。」 おみくじを結び直して、クジラの風船を飛ばそうと手をのばしたら、 むこうから天羽がやってきた。 「何しにきたのよ」。 「悪魔にだって羽はあるぞ。」 天羽は一緒に飛ばしに来てくれたのだ。溶けるように笑顔になるあたる。 片方の風船を天羽に手渡そうとした寸前、つまずいて転びかけた。 「あっ！」。 危うく天羽が受け止めてくれたが、クジラの紐を離してしまった。 「ああっ？」 「あーあ。」 あたるの手を逃れて飛んでいく風船。 「なんでクジラつかまえなかったのよ。」 「はぁ？」 笑い出したふたり。 あわててくじらの行方を追って、並んで空を見上げた。 「結構よく飛ぶな。」 「飛ぶでしょ。前はもっとダダーッといっぱい飛んでたんだよ。」 嬉しそうにくじらをみつめるあたる。 そんなあたるを満足そうにみつめる天羽。 ２匹のクジラの風船はふたりの見守る中、大空に消えていった。 思い出したように、軽口を叩く天羽。 「せっかく店閉めて来たのにこれだもんな。 やっぱお前、ほんと運ないわ」 「そっちがちゃんとつかまなかったからでしょ」。 「おまえなんで、何もないところで転ぶの？」 悪態をつきながらも、あたるは天羽が来てくれたのがうれしかった。 その頃、伊倉のマンションでは、伊倉とさくらが掃除をしながら 子供の名前を考えていた。伊倉も姓名判断を調べていて、 まんざらでもない様子。 と、さくらが、がっかりしてトイレから出てきた。 「・・・来た。できてなかったの」。 ついつい、「良かった−。」と本音が出る伊倉。 ショックで泣きたい気分のさくらは、急にパーティを開くといい出した。 洋子や天羽も誘ってカヲルの家へ。 全員集合となったその場で、カヲルは洋子に 「父親としての責任がある。面倒をみさせてほしい」といった。 一同注目の中。 「あなたの、子供じゃないとしても？」 洋子の爆弾発言が──。 |