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同棲してたのに、クリスマスにあたるの前から消えた恋人・健は、 家財道具一式を謎の男・天羽のリサイクルショップに売り払っていた。 「これだけはイヤ！ 絶対にイヤよ！」 とこたつに取りすがるあたるだったが、無情にも天羽は運びだしてしまう。 「恨むなら、売っぱらうような奴選んで暮してた、自分を恨むんだな」 ぐさりと刺さる捨てゼリフ。 「こんな部屋じゃ寒くていられねえな。俺ンちくっか？」。 あたると妹・さくらは正月早々、カヲルの部屋に居候させてもらうことにした。 とはいえ、カヲルも金欠状態。 ３人そろってカップラーメンで食いつなぐ年始となった。 ２千円ちょっとの有り金はすべてパチンコに消えてしまう。 あたるが引いたおみくじはよりによって『凶』。どこまでもついてない。 こたつをあきらめきれないあたる。 天羽のリサイクルショップまで行くが、正月休みで閉まっている。 どうにも気持ちがおさまらない。 跳び蹴りを何度かかました後、店のドアにパーンチ！ しっかり『凶』のおみくじをガムで貼り付けて行った。 後ろで天羽が見ていたとは知らずに。 さくらも忌々しい出来事にあった。 カヲルと歩いていたら、不倫相手の伊倉とバッタリ出くわした。 ジャージにサンダル履き、コンビニ袋をぶら下げていた。 「女の子んトコに泊まったんだ。ハブラシ見えてるよ」 さくらはカヲルにわざとひっついて 「今私、カヲルんちにいるんだよねえ。」 と明るく言った。 「悪いね。こいつが世話になって。」伊倉は嫉妬もしてくれない。 「あんなヤツとつきあっていても仕方ないだろ」 「カヲルが言うんなら、つきあうのやめてもいいよ」。 口ではそう言っても、さくらに伊倉と別れる気はなさそうだ。 家ではあたるが、リサイクルショップに パンチした手の治療をしていた。 「姉妹そろってどうしようもないなあ」。カヲルはあきれ返った。 正月休みも終わった。 カヲルは郵便物を憧れの人真野洋子に届けながら、 「あの時はどうもすみませんでした」 と大みそかの夜、洋子を１人ホテルの部屋に残して帰ったことを謝った。 「困ってる男友達のところに行ったのだから、怒ったりしないわ」 洋子はあたるを男だと信じている様子。 「友達のためにそこまでしてあげられる相沢くんって、好きよ・・・」 カヲルは、その夜さっそく、あたるとさくらにのろける。 「なーんか嘘っぽいよねー」 「大人の女ってのが一番したたかなのよね」 「適当に遊んで適当にポイだね。」 「現代の吸血鬼だね」。 居候の立場も忘れて、まさに言いたい放題だ。 別の日、あたるは同僚の菜々に借りた３千円を握りしめて、天羽の店にむかった。 そーっとのぞいていると、後ろからモップの柄でこづかれる。 「お客に何するんですか。」 「ガム、とれないんだよなぁ。」 やばい、と舌を出すあたる。 あたるのこたつには、あの『凶』のおみくじが貼られてあった。 「『凶』のおみくじなんて、引こうと思ったってひけないよ。 あんた、相当運いいね。」 「おたくも相当いい性格してるよね。」言い返すあたる。 貼られた値札は６千円。 「買値と売値が違う？ 当然だろう」。 天羽はこともなげに言った。 「まけてくれってのはなしだぜ。」 「違うよ。・・あのこたつ売った人の住所、知らないかなって。」 「ああ、同棲１年目の記念日におまえを捨てて逃げた男の住所ね。」 「なにもそこまで具体的に言わなくたって。」 「今更知ってどうすんの？」 「知ってるの？」勢い込むあたる。 「知らない。」知らん顔の天羽。 「なんだ。」 「でもさ、おまえを捨てて逃げたってだけで、わかんない？」 黙り込むあたる。 そこへ客が入ってきた。なんと伊倉。 「あの、あそこのこたつ、使えますか？ って君・・・なんでここに？」 「客です。あのこたつは売れません。」 「え、そうなの？」 「知り合いですか？」 「ええ、まぁ。」 「大変でしょ、この子。」 「いや、べつに。」 「大人だなぁ。」 あたるは伊倉にくってかかった。 「ほんとにさくらのこと思ってんのなら、あなたから別れてやってください」 「・・・さくらがそう言うんなら、いつでもそうするつもりだよ」。 天羽が口をはさんだ。 「自分の世話もままならないのに人の世話ですか。たいした余裕ですね。」 言い方が憎らしくて悔しいが、当たってる。 「絶対売らないでよっ！」。言い捨てると店をあとにした。 天羽と伊倉は涼しい顔で、うまそうにお酒を酌み交わしていた。 「伊倉のことは私がいいって言ってんだから、それでいいでしょう」。 あたるとカヲルから伊倉と別れるように言われたさくらは開き直った。 「泣いても傷ついても自分でどうにかするだろ」。 カヲルがあきらめ口調で言うと、あたるはポツリとつぶやいた。 「さくらは自分の居場所を探してるのかもしれないわ」 「・・・まだ仕事があるだけ、さくらよりはマシだよね。」。 「無駄な人材に払う給料はないってことよ」。 あたるは職場の上司、玉虫さゆりの言葉にぼう然となる。 会社をクビになってしまったのだ。 「仕事探さなきゃなあ」。 自分の部屋のパソコンを開くと、メール着信ランプが点滅している。 画面に流れてきたのは大みそかのあたるの映像。 恋人に逃げられて一番落ちこんでいた時だ。 「あいつだ・・・」。 天羽のしわざだ。あたるは自分の顔を切なく見つめていた。 居場所を探していたのは自分だったのかもしれない。 「今夜はうまいもん食わしてやるよ」。 こたつ虫を続けていたあたるにカヲルが声をかけ、買いだしに出かけた。 「こんにちは」。 入れ違いでやって来たのは真野洋子。あたるとさくらはびっくり。 「あなたたち、相沢くんとはどういうご関係？」 尋ねる洋子に「恋人です」というさくら。 「幼なじみです。あたしが柚木あたる。こっちが妹のさくら。 ・・・ちょっと事情があって、少しの間だけ居候っていうか」 あたるは口ごもった。 「あたる・・・そう、あたるってあなただったの」 洋子はあたるが男友達でないこと知る。 「カヲルを弄ばないでもらえます、おばさん」と敵意むき出しのさくら。 「それは、私と相沢くんが決めることだから」と返されてカチンときた。 「カヲルは私にとって、大切な人よ。」と言い残して出かけた。 「すみません。」 あたるは頭を下げたあと、洋子に言い切った。 「あたしも、カヲルのこと大切に思ってます。少なくともあなたよりはずっと。」 カヲルが帰ってきた。 「お客さん。あたし、こたつ取りに行ってくる」あたるも出ていった。 笑みをたたえた洋子にカヲルはびっくり。 「デザイン画、見せてもらおうかなあって。」 「あ、そうなんだ。」 「あたるさんって男友達だと思っていたわ。」 「いや、その。」 「あの２人、あなたのことをとても大切に思ってるみたいね」。 洋子のほうから近づくとカヲルにキスした。 カヲルは戸惑いつつも、洋子を軽く抱きしめた。 その頃、さくらは伊倉を呼びだしていた。 「別れてやってもいいよ」。伊倉はあわてない。 「どうせ、すぐにまた現れんだろ。今夜は泊まれるぞ」。 伊倉はさくらを抱きしめるとキスした。 「バカにすんな。帰れ」。 伊倉はハイハイという感じで姿を消した。 残されたさくらはカヲルの携帯を鳴らす。 泣き声のさくらが心配で、カヲルはさくらのいる公園へ。 「エッチ、しそこねたでしょ」とさくら。 「ったくなあ。泣きまねかよォ」。 一方、あたるは天羽の店にいた。 「どうして３倍なのよ」。 こたつの値札は９千円に変わっていた。 「気分かな。」 完全にからかわれている。 「あ、メール届いた？」 「メールアドレスも健ちゃんに聞いてたんだ。」 「ああ。念のためにな。こっち金払ってるし。逃げられたら大損じゃん。」 そういいながら、デジカメをテレビにつなげると、 あたるに送ってきた映像を映し始めた。 「なんで、こんなの送るのよ。」 「いや、千円もらったからさ。記念にね。よくとれてるだろ。」 頭に来たあたるは電源を切る。 「こたつ、取っといて。絶対買いに来るから」。 「あのこたつの正の字、何？」 「あなたに関係ないでしょ。」 「なんでそんなこたつにこだわるんだ？ あ、健ちゃんに買ってもらったこたつだったりして。」 ろくに知らない奴に、どう話せばいいんだろう。 「男にしろこたつにしろ、執着すればするほど求めるものは逃げていく。 そう思わないか？」 当たってるのかもしれない。でも、だからって。 「あんたのその執着が健ちゃんには重かったんじゃないの？」 それはあたるにはきつすぎた。 天羽を見据えるようにして店を出ていく。 それを見送った天羽は、ちょっと言い過ぎたという顔をした。 途中まで帰ってきたあたる。 だが、どうにも胸の中が収まらなくて、店へととって返した。 その様子に出くわしたカヲルとさくらも後を追ってきた。 あたるは店へ入るとこたつをかついで、天羽の居る奥の部屋へと持ってきた。 「忘れ物か？」 「さっき言い忘れた。」 「言葉の忘れ物か。」 「このこたつはね、健ちゃんが買ってくれたんじゃないわ。 あたしが買ったの。」 「そんなこと言いに戻ってきたの？」 「あたしが５年前東京に出てきたときに自分で買ったの。５年間が詰まってるの。 泣きたい時、辛い時、苦しい時、これでこたつ虫やって癒してたのよ。 それで、一個乗り越えるたびに正の字つけていったの。」 機関銃のように天羽に言葉をぶつける。 面食らったように聞く天羽。 「誰にも迷惑賭けてないわ。そりゃあ、そういうのがなくても 乗り越えていける人はいっぱいいるだろうけど、あたしは駄目。 駄目なのよ。ハタから見たらおかしくても、こたつがあたしにとって 唯一安心できる場所なの。居場所なのっ」 涙が溢れてくる。さくらとカヲルも聞いていた。 「健ちゃんに逃げられて、こたつまで売られて、仕事もクビになって。 どうしたらいいかわかんないけど、これでもあたしなりにがんばってるの。 精一杯生きてるのよっ！」 一方的にまくしたててたら、ふいに天羽にキスされた。 一瞬動けず、それから逃げる。頭はパニック。 「なんだ、こりゃ？」 「ボランティアってとこかな」。 なんでそんなに涼しい顔してるんだ、こいつ？ 怒ったのは見ていたカヲルだ。天羽の胸ぐらをつかんだ。 が、天羽は余裕で入口を見た。 「いらっしゃい」。 そこへ伊倉と洋子が連れだって入ってきた。 あたると天羽。伊倉とゲソ。洋子とカヲル。 ６人が初めて揃って顔をつきあわせたーー。 |