エヴァの奴、年寄りを脅かしおって。


「宝円さぁーん、ショーコにボーナスとか出ないのぉ？」

注文品が見つかったからといってわざわざエヴァが店に来るなんぞ、おかしいと思ったんじゃ。
ピンク色の唇が軟体動物みたいに見えるわい。そう言ったらはたきおったが。
つくづく年寄りを敬わん奴だ。


「ボーナス？　バイトにか？」
「じゃあ大入り袋とかぁ」
「なんじゃそりゃ」

長い指に長い爪。
どうみても作りもんじゃろうが、エヴァに限って似合うから不思議なもんじゃなぁ。男のくせに。


「ショーコがねぇ、ちょぉーっと物いりなのよぉ。だから」
「物いりだ？」
「キングにねぇ、ご馳走したいんですってぇ」

「デートか？」
「生意気よねぇ。でもぉキング相手だからぁちょおっと気張らなきゃ駄目でしょぉお」
「身の丈にあったところでええんじゃないのか？　キングは値段なんぞに振り回されん男じゃぞ」

ふんと鼻先で笑ってやったらエヴァの奴、ちっちっちっとエヴァの奴、人差し指なんぞ振ってくる。


「宝円さぁーん、振り回されない男だからこそ、ふさわしい場所に招待したいって思うのが乙女心よぉ」

沈思して、そういうこともあるかと納得した。

「だからぁ」
「わかったわかった。実はな、言われなくともボーナスやるつもりだったんじゃ」
「ほんとぉ？」

眼を丸くされてちょっといい気分じゃった。

「このところショーコのおかげで、仕事がはかどる。覚えも早いし機転も利くし。こないだなんぞ、滅多に見つからん本をサイトと電話であたりまくってくれての。えろう喜ばれたんじゃよ」
「ふぅん。ショーコったら仕事してるんじゃないのぉ」


意外そうだが嬉しそうなエヴァは、これまで知らなかった表情じゃったわい。
ありゃ母性って奴かのう。
どこぞの女神さまみたいな顔で……いかんいかん。エヴァは男じゃった。

くわばらくわばら。





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