＜Home＜二次創作メニュー＜本編メニュー back＜ ＞next
|
ＶＯＬ．２６ 「花火と標（しるべ）」 夜に向けても、ディズニーランドは人が途絶えない。 ハンバーガーで軽く食事代わりにしたあたると天羽。 食べながらその後のことで、すこしもめる。 「エレクトリカル・パレード、見たい。」 見るならもう並ばないと、いい場所はとれない。 「あのキラキラした奴だろ。ちょっと目が疲れねえ？ 長いしさ。」 「見たことないの？」 「１度見た。おまえは？」 「・・・３回くらい。」 「それだけ見たらいいじゃん。」 「えー、だって新しくなったんだよ、今年から。」 「でもさ、パレードやってる間は、他のところがすいてるだろ？」 「・・・そうかも。」 「じゃもうちょっと何か乗ろうぜ。」 「うーん。でもさぁ。」 「さっき、いっこ貸したろ。今度は俺。」 ほっぺたをふくらませてブーたれ顔をしたあたるだが、 天羽につつかれてあきらめた。 「じゃあね、ダンボ。」 「ダンボ？」 「ほら、羽のある象。飛行機みたいなの。」 「オッケ。行こう。」 ファンタジーランドの空飛ぶダンボも人気のアトラクションだ。 まだパレードが始まっているわけでないから人は減ってない。 でも、心なしかさっきより少ないのは、食事時間のせいかもしれない。 ダンボに乗り込むと、フワッと空へ舞い上がる。 もう日が暮れかけている。 照明が落ちるように空が暗くなっていく。 すると地上の星のように、園内のイルミネーションが輝きを増していく。 ダンボの背にのったふたりは、星の中に浮いているようだ。 結構スピードがあって、あたるはキャーキャー言っている。 ダンボから降りる頃、パレードが始まった。遠目にも光の行進が見える。 「あと１つくらいかな、乗れるの。」 「えー？」 「花火になるだろ。」 「あ、そうだ。花火あるよね。」あたるの目が輝く。 「花火終わったら、帰ろう。もう混み出す。」 「・・・そっかぁ。じゃラスト、何にしよう？」 「何がいい？」 「あれ。」 あたるが指さしたのはゴールデンカルーセル。メリーゴーランドだ。 フッと笑った天羽。 「子どもだねー。」 「知らないの？ ここではみんな子どもなんだよ。ね、行こう。」 天羽の手をひっぱっていく。 ゴールデンカルーセルもいつも人が多い。それでも１時間くらいで乗れた。 あたるは大きな白い馬に飛び乗った。 天羽は少し照れながら、その横の茶色の馬に。 回り出すステージ。上下に揺れる木馬。 天羽はふと、夢の中にいるような錯覚に襲われた。 キラキラした光の渦。回る木馬の群れ。はしゃぐ人々。 なんだか自分だけ取り残されそうな気がして。 隣で伸ばしていたあたるの手を握りしめた。 景色にはしゃいでいたあたるが振り向く。 天羽の表情にちょっと首をかしげ、にっこり笑いかける。 それで初めて、自分も夢の中の人物になれた。そんな気がした。 一瞬の夢が果てしない。 握りしめたあたるの手が道しるべだった。 ゴールデンカルーセルから下りる頃、パンパンと音が聞こえた。 花火が始まる。 「ねえ、どこがよく見えるかな。」 「空に上がるんだからどこだって見えるんじゃねーの？」 「きれいに見えるところってあるんだよ。行こう。」 あたるは天羽をひっぱって、ウエスタンランドの方からぐるっと回り込んだ。 シンデレラ城近くへ来たとき、花火が上がり始めた。 そこで立ち止まる二人。 シンデレラ城のまうしろの闇に、光の華が次々と咲く。 「うわぁ〜。」 感嘆の声を上げるあたる。天羽も久しぶりに見る花火だ するとあたるがシャツの裾を握ったのに気づいた。 「どした？」 「・・・きれいすぎると怖いね。」 昨日も同じ事を言ったあたる。どこかで何か、不安なのだろうか。 あまりきれいな光景を目にすると、そういうものなのかもしれない。 さっきのメリーゴーランドでの自分を思い出す。 黙ったままあたるを抱き寄せてやると、 天羽の顔を見上げて、ホッともたれる。 二人一緒に見上げる花火は、夜空に大きく開いては散っていった。 今日もカヲルは一歩も外へ出なかった。 食事も忘れて夢中でミシンを踏んでいる。 帰ってきた洋子は、朝と同じ状態のカヲルを見て、感心し、半ば呆れもした。 カヲルのエネルギーを目の当たりにして、圧倒されている。 この人はーこういうところがあったんだ。 自分で子どもの父親に望んだ人の、 まるで知らない面を見つけてたじろいですらいた。 「相沢くん、少し食べないと。」 夜食を持っていってやると、ようやく我に返ったカヲル。 「あ・・・あ、今何時？」 「９時半。」 「もうそんな？ まっずいな。ピッチ上げないと。」 「きつい？」 「まあね。でも明日の朝には間に合わせるよ、絶対。 そうだ。ここんとこ、どっちがいいかな。」 日本では洋子に振り回されていたカヲルだったのに、 今は洋子がカヲルをみつめている。それに気づきもしないカヲルだった。 伊倉から逃げるようにして、駆け通しで家に帰ってきたさくら。 玄関にとびこんでカギをかけると、トボトボと居間にあがる。 誰もいない部屋。 今頃、カヲルは洋子と、あたるは天羽といるのだろう。 なのにあたしは？ 何をやってる？ 吉良には冷たくおいてきぼりにされ、伊倉からは逃げるしかない。 さくらの目からこらえていた涙がこぼれる。 うずくまると、声を上げて泣きじゃくり続けた。 ひとりで。 花火が終わるとあたるたちは帰ることにした。 やっぱり帰る人が押し合いへし合い。 出口近くのワールドバザールはごった返している。 「買い物、何もしなかったね。」 何となく心残りのあたる。 「何か欲しいものあったのか？」 「ううん。何がってわけじゃないけど。何か買いたかったなーって。」 いいながら視線を左右に走らせる。 「何かねぇ。」 そんなあたるを見ていた天羽。 「ちょっと待ってろよ。」 いきなり人混みに紛れていく。 「え？ どこいくの？」 「そこ、その街灯のとこにいろよ。」 言うだけ言って消えてしまった。 仕方なく言われたとおり、四つ角の街灯で待つ。 通り過ぎていく人の波。 皆それぞれ満足そうで、見ているだけで微笑んでしまう。 楽しかった。夢みたいに。そう、夢みたいで怖い。 バッグの中をのぞきこむ。 夢じゃない証拠。昨日と今日の標（しるべ）。貝殻と写真。 やっぱりもう一つくらい何か欲しかったな。 バッグを持ち直して、人波に目を戻した時。 目の前に何かがぶら下がった。 「え？」 近すぎて見えない。ビックリして２，３歩下がる。 ミッキーマウスのストラップだ。天羽が横からぶら下げている。 「何？ どうしたの？」 「見りゃわかるだろ。ストラップ。」 「・・・うん。でも？」 「何か欲しかったんだろ？ 一応、限定品らしいぜ、これ。」 あたるの手に渡してくれる。冠をかぶったミッキーマウス。 あたるの顔がゆっくり微笑む。 「いいの？」 「おまけ。帰るぞ。」さっさと歩き出した天羽。 嬉しそうにストラップを握りしめ、追いかけると腕をつかまえた。 「ありがと。」 天羽は片頬で笑う。あたるはもう一度出口で振り返った。 名残惜しそうな様子に、うしろから天羽の声。 「又来るか？」 笑って頷くと、ふたりは夢の国をあとにした。 駐車場から出る車が列をなしている。 「やっぱり混むな。」 口を曲げる天羽。 「ん。もうちょっと早く出た方がよかった？」 言いながらあたるは、もらったストラップを携帯につけると、 ブラブラさせながら、みつめている。 そんなあたるを横目で見ていた天羽に笑みが浮かぶ。 「ま、しゃーないよな。花火は見たかったし。」 「そうだ、着メロ、ミッキーに変えよっと。」 思いついたあたるは、着メロをいじり始めた。 混んでいるが、動かないわけではない。 二人の車は、ゆっくり流れの中進んでいった。 吉良は自分の部屋から携帯を鳴らしていた。 置いてきぼりにしたさくらが今頃気になったのだ。でもさくらは出ない。 電源を切っている？ さくらに新しい携帯を買ってやってから、 つながらなかったことがないので驚いた。 置いてきぼりにしたから怒ったんだろうか？ それとも他に何か？ 飼っている犬程度にはさくらを気にしていた吉良。 飼い犬はいなくなるはずはないのだが。 まだあたるも帰ってないと言ってたのに。どうしたんだろう？ ようやくディズニーランド出口の渋滞を抜け出した車は、 湾岸を流れ始めていた。 出口で時間がかかったから、時計はもう１０時を回っている。 景色を見ていたあたる。ふと運転席を見ると、天羽が目をこすっている。 「疲れた？」 「ん？ まあな。」 それはそうだろう。でも手伝えることはない。 「あたしも免許取ろうかな。」 「やめとけ。」あっさり反対する天羽。 「どうして？」 「今は勉強すること、山ほどあるだろ。」 「でもさ、免許があれば引き取りも行けるし、 今日みたいな時代わってあげられるし。」 「おまえに代わってもらっても、気になって休めやしないって。」 「どういう意味よ。」 口をとがらすあたる。 笑っていた天羽だが、あたるをチラッと見て急に言い出した。 「だめだ、眠い。やっぱ泊まって行こう。」 「え？」 「どうせ遅くなっちゃったし。帰っても銭湯行く気力もないじゃん。」 「う・・ん。そうかもしれないけど。」 「いいか？」 「でもどこに？」 驚いているあたるに構わず、さっさとインターチェンジで高速を下りていく。 出たのは東京近くのようだった。 お盆の都内は空いている方だが、それなりの車だ。 天羽はわかっているのか適当なのか、流れを縫って車を走らせていく。 その横顔を見ながら、あたるはまだとまどっていた。 |