勝手におとこ運ーつづき　ＶＯＬ．８

ＶＯＬ．８　「伝えたいから」

さくらは早くも２次会でテンションをあげていた。
何故か吉良が、その横で飲んでいる。
「なんだ、あたるさんて俺とタメなんだ。年下みたい。」
「そうでしょ。今までおとこ運悪かったのよ。去年の暮れも逃げられて。」
「へえ、さっきの男？」
「ん？　ああ、ちがうちがう。天羽さんはそのあと。あたるにしては結構当たりかな。
　いろいろあって、今一番もりあがってるところ、あの二人は。」
「ふーん。彼氏がいるとは思わなかったな。」
「まあ、あたるだから、先のことはわかんないよぉ。」
さくらのテンションは果てをしらないようだ。

一方伊倉は自宅へ戻った。
さくらともめた原因の女の子とは、結局その場きり。
いつものことだがやめられない。いややめる気もないが。
ただ最近、さくらがひとりで動き回るようになったのが気になる。
なにしろまだ二十歳なのだ。
このままあいつをひっぱっていていいんだろうか。
先のことを考えないのが伊倉だが、やっぱり考えてしまう。

カヲルと洋子は新宿のホテルに宿を取った。
逢うのは２ヶ月ぶりだ。ゆっくり食事に向かうことにする。
久しぶりの逢瀬を楽しみたい。それはどちらも同じ思いだった。
嬉しそうにしゃべるカヲルを、洋子は微笑んでみつめる。
実は逢いたかったのは、洋子の方だったかも知れない。

あたると天羽は、帰りの電車でもかなり目立った。
あたるは人目を引くことに慣れていないので、緊張してしまう。
天羽はてんで気にせずそれを楽しんでいた。
「やっぱり着替えてくればよかった。」
「そっか？」
「あなたってほんと、気にしないよね。」
最寄り駅についたらなんだか疲れ切ってしまったあたる。
天羽がなんとかタクシーをつかまえた。
「店、来る？」
「行くけど、部屋で着替えてからね。この格好じゃもう歩けないよ。」
「もったいない。」
「いいから。」
あたるの部屋の前でおろしてもらった。
「じゃ、あとで来いよ。」
「ん。」
ドレスの裾をひるがえして階段を駆け上がるあたるが、眼に残る。
「すみません、そっちの通りを左へ。」

着替えるついでにシャワーも浴びて。あたるはやっとホッとする。
今日はなんだかやたらと綺麗と言われた。嬉しいけどとまどうものだ。
天羽の言葉を思い出す。
『おまえ、綺麗だよ。』
好きな人に言ってもらえるなんて。
そのときは何もいえなかったけど、やっぱり嬉しい。
「運のつかい過ぎかな。クジラの御利益？」
首をひねる。
「さ、行こうっか。」カギをシャラッと握った。

天羽も背広を脱いでくつろいでいた。
「あー、休みはやっぱり背広はなしだよなぁ。」
結婚式だからしかたないのだが、毎日背広を着ている身にはきつい。
ネクタイをはずしてやっと一息－。
ちょっと居眠りしたかも知れない。
携帯が鳴って目が覚めた。あたるだ。
「もしもし？」
「これから行くけど、何かいる？」
「んー、あんまり腹へってないし。つまみでいいよ。」
「じゃ、コンビニに寄ってからいくね。」
立ち上がる天羽。あたるが来る前に着替えてしまおう。

部屋の前の橋の上からかけていたあたる。
コンビニへ向かおうとしたら、また携帯がなった。
「？」着信はさくらだ。
「もしもし、さくら？」
「あたるさん？」
知らない男の声。でもどこかで。
「誰？」
「吉良。吉良正宗。さっきあったでしょ。」
「あなた・・・。なんで？」
「さくらちゃんの携帯からかけてるんだけど、今、駅。」
「ええ？」
「さくらちゃん、つぶれちゃったんだよね。
　なんとかここまで連れてきたんだけど、家がわからない。
　うんともすんとも言わなくなっちゃったし。」
「・・・しょうがないなぁ、さくらったら。今行きます。」
天羽の所へ行くはずが、さくらを迎えに行く羽目になってしまった。

あたるは駅まで走った。
駅前のロータリーで、さくらを抱えるようにしている吉良を見つける。
「吉良・・・くん？」
「どうも。」てんで軽い。やっぱり人喰い男だ。
「タクシー乗ってきたんだけど、何しろ家がわからないから。」
とりあえず頭を下げるあたる。
「ごめんなさい、こんなところまで。あとはあたしがやりますから。
　さくら、さくらって。起きて。」
「ん～、あたる～？」一瞬目を開け、また眠ってしまうさくら。
「駄目だわ、こりゃ。」またタクシーだ。
吉良がさくらを抱え起こす。
「家まで送るよ。ひとりじゃ無理でしょ。」

さっきもそうだが、土曜の夜はタクシーもつかまりづらい。
ようやくのことで、家までたどりつく。
門構えをみてちょっと驚く吉良。
「自宅なんだ？」
「ううん。カヲル・・幼なじみの家なの。あたし達、ちょっと今居候。」
説明ももどかしく、さくらを２階の部屋まで運び込む。
蒲団をかぶせてやってほっと一息。改まって頭を下げる。
「ほんとにごめんなさい。すごい迷惑かけて。」
「いや、いいよ。」気楽な様子の吉良。

下の居間へとおして、お茶を出した。
「２次会、まだ始まったばかりだったでしょ。この時間じゃ。」気にするあたる。
「別にいいよ。こっちの方が興味あったし。」
「は？」
「さくらちゃん、可愛いね。ひとりで盛り上がっちゃってさ。」
「あの。」
「お姉さんも可愛いな。ドレスも良かったけど、そういうのも似合うね。」
あたるが眼を白黒させる。こんな台詞には慣れてない。
ベージュのニットにコーラルピンクのパンツ姿のあたる。
吉良の視線は、最初逢ったときと同じ、無遠慮なものだ。

「あ、あの、さくら、どれくらい飲んだの？」
「最初からものすごい勢いだったな。
　なんか『伊倉の馬鹿ーっ』とか言いながら。」
しょうがないなとあたるは顔をしかめる。
「やっぱりあなたの方が年上なんだね。しっかりしてる。」
「いや、それはどうかな。」
「でも可愛いや。」
なんなんだ、こいつ。

言葉が出なくて弱っていると、玄関の開く音がした。
「いるのか？」
声にハッとする。天羽だ。
思う間もなくガラッとふすまが開いた。
居間で向かいあっている、あたると吉良を見て驚いた天羽。
あわてるあたる。
「あ、あのね。」何から説明したらいいのか。
「どうなってんだ？」
「あの、さくらが。」
「人を待たせといておしゃべりか？　連絡くらい入れろよ。」
怒っている分、思いっきり皮肉っぽい。
「女性にその言い方はないんじゃないの？」吉良が気楽に口をはさむ。
「あんたは関係ないだろ。」
「やめてよ。お客さんなんだから。」
思わず言い返したあたるをにらむ。凄い目つき。
「勝手にしろっ！！」

天羽は帰ってしまった。
残されたあたるは呆然としている。あんなに怒らなくったって。
涼しい顔の吉良。
「あの、ごめんなさい。」ともかくあやまる。
「別にぃ。でも、いきなりあの言い方はないよね。結構横暴？」
「そうじゃないの。あたしが。」思わずさえぎってから気づく。
そうだ。コンビニに寄ると電話して、そのままだった。
あれからもう・・・１時間？
あたるの胸に苦い思いが広がる。
立ち上がると吉良にはっきり言った。
「さくらのこと助かりました。ほんとにありがとう。
　あたし、用があるから今日はこれで。ごめんなさい。」
すると思いの外あっさり、吉良は帰っていった。

あたるが２階のさくらをのぞくと眼を開けていた。
「さくら、大丈夫？」
「う・・ん。ごめん。」
「あたしに言ったって。」
「だって、天羽さんと約束あったんでしょ。怒らせちゃった？」
声が聞こえたのだろう。
「気にしなくていいよ。今から行って来るから。」
「行くんだ？」意外そうなさくら。
「怒鳴られたのに？」
「心配だったんだと思う。」
「そっか。心配してくれるんだからいいよね。」
あっちを向いてしまったさくら。その気持ちがわかったあたる。
しょうがないなぁ。頭を振りながら、ふとんをかけてやる。
「おやすみ。カヲル、今日戻らないよ。」
「ん。あたるもでしょ。早く行きなよ。」

家を出たあたるは、まず伊倉のマンションへ向かった。
女がいたらどうしよう。ありうるもんなぁ。
おそるおそるインターホンを鳴らした途端、バタバタと伊倉が飛び出してきた。
「さ・・あれ？　あたるちゃん？　どしたの？」驚く伊倉。
「さくらだと思ったんでしょ。」直感した。
「え？　いや、帰ってないだろ、あいつ。」伊倉はごまかす。
玄関を見る。女物の靴はないようだ。
「はい、これ。」あたるはカヲルの家の鍵を差し出す。
「？」
「さくら、つぶれて帰ってきたの。カヲルんちの２階で寝てる。
　カヲルは今夜、洋子虫と一緒だし、あたしは自分の部屋があるから。」
「・・・いいの？」
「しょうがないじゃん。さくらが逢いたいんだから。顔に書いてあるもん。
　あなたもそうでしょ。あんまり手間かけさせないでよね。あたしも忙しいんだから。」
シャラッと鍵を伊倉に渡して、あたるはさっさと立ち去った。
伊倉は鍵をみつめて考え込む。

伊倉のマンションを出たあたるは、近くのコンビニにとびこんだ。
パッパッとつまみを手に取ってレジへ直行すると、
速攻でお金を払ってまた飛び出していく。
走るあたる。早く行かなきゃ。
店に辿り着いたら息が切れた。
ドアをそっと押すと、鍵はかかっていなかった。ホッとする。
それから意を決して入っていく。
天羽は奥で飲んでいた。ソファにひっくり返ってグラスを握っている。
もうボトルが半分空いていた。
「何しに来た？」
声がものすごく怒っている。あたるは怯まない。

「夜這いに来た。」いつかの天羽の台詞。
「はぁ？」
天羽は目をむいて、プイッと横を向く。
「ったく、のんきだよな。人に心配させといて・・。」
「さくら、つぶれちゃったの。」
とにかく説明するあたる。
「あなたに電話したあと、あの人がさくらの携帯からかけてきたの。
　つぶれたさくらを送って駅まで来てくれたのよ。
　あわてて迎えに行って。カヲルの家まで連れてきてもらったの。
　そこまでしてもらったら、お茶出してお礼言うのは当たり前でしょ。」
天羽は黙る。

「でも、ごめんなさい。」
頭を下げるあたるに驚く。
「心配してくれたんでしょ。あたしが１時間も連絡入れなかったから。
　なんとなくね。待っててくれるって安心してたの。
　でもそれってあたしが悪いよね。待たせた上に心配させてごめんなさい。」
はっきり謝るあたるに、天羽は黙ったままだ。
「それだけは言わなきゃって思ったの。
　この前来てくれたでしょ。言いたいことはちゃんと言えって。
　だから来たの。伝えたかったの。・・これ、おつまみ。」
コンビニの袋を机に置くと、部屋を出ようとする。

「・・どーこいくんだよ。」
背中から呼び止める声。
ふりむいたら、天羽がグラスごとソファに起きあがっている。
「夜這いにきたんだろ。帰っちゃ夜這いにならない。」
下をむいたままだけど、声がもう怒っていなかった。
「・・・うん。」うなづいたあたるは、天羽に近づく。
「連絡くらい入れろよな。・・でも、怒鳴って悪かった。」
顔を上げる天羽。
「ううん。」首をふるあたると目が合う。
天羽の表情がやわらかくなる。あたるはホッとして横に座った。

「よかった。すっごい怖くてどうしようかと思った。」小さな声。
「嘘つけ。全然平気そうだったぞ。」
「さっさと言わないと、しゃべれなくなりそうだから。」
つぶやくあたるを見る天羽。
「なに？」「いや。」
さっき目に飛び込んできた光景。
知らない奴と向かい合っていたあたる。
つい怒鳴ってしまったのはジェラシーだったのかもしれない。
なのに、心配させたからとここまで来たのか。
「あのね。」
「ん？」
あたるがニコッと笑った。
「のど乾いちゃった。」

その頃、伊倉もさくらのところに行っていた。
あたるから預かった鍵で入り、２階へあがる。勝手知ったるカヲルの家だ。
部屋をのぞくと、物音にさくらが気づく。
「あたる？」
伊倉を見て驚く。
「なんであんたがいるのよ！」
なだめる伊倉。
「まあまあ、今日はもういいじゃん。」
「いいわけないでしょ！」
「せっかくお姉ちゃんが心配して、俺のとこまできてくれたんだし。」
「あたるが？」
鍵をシャラッと出す伊倉。
「お前のとこ行けって、預かっちゃった。」

「・・あたる、わざわざ行ったんだ。自分だって急ぐのに。」
「なんで？」
「さっき天羽さんが来たんだけど、怒鳴って帰っちゃったの。あたしのせいで。」
「へえ？　天羽さんが怒鳴ったの？　珍しい。」
「なのにばっかみたい。自分はどうすんのよ。」
「大丈夫だろ。怒鳴るってことは本気ってことさ。」
「－そうよね。」
さくらは伊倉を見る。
「あんたは怒鳴らないよね。本気じゃないんだ。」
「俺の本気は最初からお前のとこだもん。」
「女の子追いかけてばっかりのくせに。」
「浮気は本気じゃね－の。」
「ほんと、口ばっかり。」
ギュッと伊倉に抱きつくさくら。抱きしめられるとやっぱり嬉しい。
「あたる、大丈夫かな。」

あたるはビールを飲んでいた。
大騒動のあとで、のどがカラカラだったのだ。
「水じゃないんだから。酔っぱらうぞ。」
「いいじゃん。披露宴の時もあんまり飲めなかったし。」
「自分でバタバタしてたんだろ。」
「遙さんきれいだったよね。前の時も出たの？　披露宴。」
「いいや。」
「じゃ、初めて見たんだ。惜しいことしたって思ったでしょ。」
「そっかもな。」
「ほんと、きれいだったもんね。」
無邪気な台詞だ。不思議な奴。
「おまえも綺麗だったじゃん。」
「へ？」
鳩が豆鉄砲の顔になるあたる。吹き出す天羽。
「おまえね、綺麗って言われてその顔はないだろ。」
「だって。」
真っ赤になったのはビールのせいじゃない。すぐごまかす。
「洋子虫もきれいになったよね。」
「あ、おまえもそう思った？」
「うん。ちょっと印象がやわらかくなった。やっぱりお母さんになるからかな？」
「そうだな。」
天羽は水割りを飲んでいる。

「良介君、嬉しそうだったね。でも驚いた。
　知ってたの？遙さんの相手がアメリカ人だって。」
「いや。言わないんだもんな、あいつ。本人に会ってびっくりしたよ。」
「すごく上手な日本語だったね。」
「親父さんの仕事を手伝ってて、知り合ったんだってさ。
　切れ者らしいよ。あの若さでいっぱしの事業家だそうだし。
　日本好きで、向こうはもちろん日本の大学も出たって話。」
「それで大学の後輩達か。でも温かそうな人だったね。」
「遙の選んだ人だから。」
「良介君もすごくなついてたし。」ジムと手をつなぐ良介を思い出すあたる。
「いい父親になりそうだよな。俺とは違って。」
ちょっと自嘲気味の言葉にハッとするあたる。天羽の横顔。
「淋しいんだ。」
「別に。」強がる天羽。
「この先ね。」あたるがゆっくりと言う。
「ジムや遙さんにも言えないことがあると思う。大きくなったら。
　その時は聞いてあげられるように、ちゃんと見ててあげなきゃね。」

乾いた土にしみこむ水のように。
かじかむ手を温める炎のように。
ジムの出現によっていつのまにか、天羽の心にささっていた小さなトゲ。
あたるの言葉はそれを、ゆっくりゆっくり溶かしていった。
そうだ。なにもなければそれでいい。
もしこの先、良介が一人で思い悩むことがあったら、
そのとき助けてやれるように。それが俺の役目なんだ。素直にそう思えた。
その時が来たら。その時も。隣にあたるは居てくれるだろうか。
こうしてー笑ってくれるだろうか。
そう願った。ありったけの思いで。

「あれ？もうカラ。やーだ。」あたるはビールをまた開けた。
「おい、ペース早すぎ。」
「だって、ほんとに疲れたんだよ。
　駅まで走ってさくらをかついで。
　人喰い男にお茶出したけど、飲む前にあなたに怒鳴られて。」
「人喰い男？」
「ああ、さっきの。披露宴であなたが迎えに来てくれた時もいたでしょ。
　なんか、すごく人を喰った態度と話し方なの。だから人喰い男。」
「あー、あいつか。」披露宴の時の視線を思い出した天羽。
「でもってゲソのとこまで行ったし。」
「ゲソ？　伊倉さんとこに何しに？」
「カオルんちの鍵、預けてきた。さくらが寝てるから。」
「おまえ・・・大胆。さくらちゃん、怒るんじゃねーの？」ちょっと呆れる。
「会いたいくせに意地張ってるだけだよ。
　ゲソも女連れ込んでるのかと思ったら、
　あたしをさくらだと思って玄関に飛んできたもん。」
「伊倉さんらしい。」笑う天羽。
「どうせカヲルも戻ってこないし。一番いて欲しい人が行ったほうがいいでしょ。」
そう言ってまた、ビールを飲む。
「おまえ、ほんと飲み過ぎだって。」
天羽の注意も意に介さない。

「カヲルもさ、洋子虫のこと心配してたんだよね。
　でも今日の様子だと、つわりも大丈夫みたいだし。
　嬉しそうだったよねぇ。ニヤニヤしてぇ。」
だんだんろれつがおかしくなっている。ほんとに危ない。
天羽はあたるの手からビールをとった。
「もうやめ。おまえ、口まわってないぞ。」
「やだ、もうちょっと。」ビールを取り返すあたる。
「大丈夫だよ。あなたのことは忘れないから。」
酔っぱらうと何を言い出すのやら。机の上に座り込んでしまう。
「頭の中にね、いろーんなこと入ってるでしょ。
　カヲルがいい奴だとか、さくらが勝手とか、ゲソがいい加減とか。
　洋子虫はわがままで、遙さんは優しくて、良介君は可愛いの。
　ほかにもいーっぱい、いろーんなことが入ってるの。
　それがみーんな消えても、あなたのことは残ってるよ。
　あなたを好きなこと残ってるよ。一番、一番大事なことだもん。」

すでに目がトロンとしている。天羽を見て微笑む。
ドキッとするくらい色っぽい。なんだこれは。
あせる自分にあせる天羽。
「ほんと、お前。もうやめろ。危ない。」
笑い出すあたる。声がカン高い。
「へんなのー。夜這いに来たんだよ。酔っぱらったってへーきじゃん。」
「そう言う問題じゃなくて。」
「じゃどういう問題？」
机から下りてきてフラフラ近づくと、ソファの天羽を上からのぞき込む。
あたるに迫られてドキドキするのか？
「だから。」
あせりまくって視線を反らせた途端、ドサッと音がした。
振り向くと足元に転がるあたる。クークー寝ている。
「はぁ～。」とため息をつく天羽。
「おい、夜這いはどうした？」
返事はない。ずいぶん早くつぶれたな。疲れてたんだ。

あたるの携帯が鳴った。着信はさくらだ。
「もしもし、さくらちゃん？」
「天羽さん？　あたるは？」
「寝ちゃったんだ。」
「いるんだ。よかった。」
「そっちは？　伊倉さん？」
「知ってるんだ。来たよ。だからあたるはどうしたかなって。」
「そっか。」あたるのおせっかいは的中したわけだ。
「ごめんね、天羽さん。あたしのせいで怒らせちゃって。」
「さくらちゃんのせいじゃないだろ。」
「そっか。あたる頑張ったんだ。やるじゃん。じゃあね。」
そういって切れた。
「やるじゃん・・か。」
あたるはそのまま眠りこんでいる。
天羽はソファをベッドに直すと、あたるを抱き上げて寝かせてやった。
丸くなるあたる。

ビールの缶を片づける。
水が飲みたくなって冷蔵庫を開けるが切れていた。
ずいぶん飲んだからな。あたるも目が覚めたら欲しがるだろう。
「買ってくるか。」
毛布をかけてやると、ヘルメットを持ってバイクで出かけた。

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