| 100万打記念アンケート −第１位 侍− 「鮮やかなる」 十（結） |
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近づく冬に、日の出はどんどん遅くなっていく。 夜明け前に起きたふたりは、朝飯と洗濯と洗い物をすませ、赤子と共に家を出た。娘は宿屋へ、通り越して侍と赤子は道場へ向かう。一日の始まりだ。 道の向こう、連なる山々の間からようやく陽が昇ってくる。そのまぶしさ。 『緋色じゃぞ』 娘は不意に老人の言葉を思い出した。 赤子は娘に抱かれてお天道様に手を振っている。激情の色と言われたところで、小さな我が子とはまるで結びつかない。 人は人でしかないのだ。先を見越せるはずもなく、見越せたところでどうにもできまい。緋色と言われて、その一色ひといろ だけで生きられるわけでもない。 気にすまいと娘は心に決めた。 いちの生き方は、いちしか決められぬことだ。 「どうした」 のぞきこまれて首を振ると、侍が手を伸ばす。 「代わろう」 母の手から父の手へ、高くなった視点にきゃっきゃと喜んだ赤子は、侍に抱かれながら通りすがりの枝、鈴なりに重くしだれた紅葉へと手を伸ばした。いつもながらの光景に、娘の足が止まる。 赤黄朱、茶に緑。 青い空に白い雲と、陽。 まばゆい色の中。 侍と赤子、 そして自分。 鮮やかなるは、この世と命。 生きとし生けるもの全て。 そこに自分達も在ることの喜びを、かみしめる。 「おい、遅れるぞ」 「かー」 「待って」 娘は急ぎ、二人に並んだ。 昨日も今日も、それから明日も、共に歩む道。 深まる秋に包まれる三人。 時はいま、まさに。 鮮やかなる。 ＜ azayakanaru / End ＞ |
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