目が開いた。真っ暗だ。
右生は驚いて、瞬きした。

寝付いたのが十二時過ぎ、枕元の目覚ましはまだ三時半。
どうして目が覚めたのやら。
悪い夢でも見たならわかるが、夢のかけらも残っていない。

天井をにらんでいたら、隣で彩芽がむにゃむにゃ言って、向こうへ寝返りを打った。蒲団からはみ出した足が白い。

真冬にショートパンツかよ。師走の忙しさはこれからだ。風邪を引いたら困るぞなどと、眠りこけている奴に言っても聞こえはしない。相手は夢の中だ。

やれやれと右生は起きあがった。彩芽をこっちに向かせようとしたが、寝ぼけながらも抵抗されてしまった。

「や、んん」

どうしたものかと思いながら、とりあえず蒲団をかけてやる。寝ている時の無邪気な顔は犯罪的だ。下半身を直撃される。さらに眠れなくなって困る。気を紛らわせるものを探す右生の耳に、窓の向こうから調子っぱずれの「ジングルベル」が聞こえてきた。

「じんぐるべえる、じんぐるべえる、すぅずぅがぁなるぅう」
「あぁどっこいしょ」

合いの手がいかにも酔っぱらいだ。どっこいしょ、か。サラリーマンが忘年会から帰る途中だな。

「じんぐるべーる、じんぐるべーる、じんぐるおーるざうええええー」
「おー！」

寒空の下、誰だって知っているクリスマスの歌を、誰かが歌う。それを聞きながら自分は、彼女と蒲団に潜り込んでいる。ずいぶん、幸せだなと思う。そっぽ向いてるけど。

聞こえたように彩芽が寝返りした。また蒲団がめくれる。苦笑しながらなおしてやると、温もりを求めてすり寄ってくる。勝手な奴。
愛しい奴。

「……右生」

右生の凶暴スイッチまであと一ミリ。
狙ったみたいなささやきだ。
襲うぞほんとに。

襲いたいのは山々なれど、クリスマスの直前で忙しさはピークのさらにピーク。連動して二人の疲れもピークだ。睡眠を妨げられないくらいの。


口づけで勘弁してやるから。
起きるなよ。

念じたのが効いたのか、口をふさがれて眉根は寄せたものの、彩芽はすぐ寝息を立て始めた。右生も眠ろうとしたが、すぐとはいかない。


酔っぱらいの「ジングルベル」が遠ざかっていく。
じんぐるじんぐる。
ソリとサンタの行列が見えそうだ。


真夜中に数える羊のように、耳慣れたフレーズを夢の中まで、右生は繰り返していた。





　　　　　　　　　　　　　　　＜ 　jingle　bells　　／　end　＞