成せば成る。
ことわざは正しい。

東京へ向かう最終の新幹線。進行方向窓際に座った丈は、びゅんびゅんと後ろへ飛ぶ景色に心を慰められていた。このスピードはそのまま美羽との距離を縮めてくれる。

彼女は今日から休みをとっているはずだ。ハネムーンと併せてかなり大胆な取り方だが。

『一生一度の結婚式に使わないで、いつ有休を使うんですか』

容姿に似合わぬ思い切りの良さは彼女の長所だ。
まさしくそのとおり、一生一度の式が目前だというのに。


長い一週間だった。今回のトラブルの七割は相手方の仕様ミスだ。わかっていても得意先のこと、け飛ばして終わる訳にはいかなかった。宮仕えの悲しさなどと言っていられようか。自分の結婚式がタイムリミットなんて笑うこともできやしない。

鬼のようにきりきりと事態を収拾しまくった。後にしてきた支店はきっと今頃大変だ。この一週間ぶっ通しで働かされた社員たちが電池切れで倒れているに違いない。それはまさに戦場の如く。

死屍累累ししるいるい　か。
また美羽の声が聞こえる。


『初めて聞いたのが小学校の頃で』

首を傾げて思い出しながらしゃべる彼女の顔。

『前後の脈絡もなしに突然テレビから聞こえたんですよ。音だけ。脳内変換したら、ライオンダンスになっちゃいました』
『ライオンて』
『獅子ですね。たてがみを揺らしてルイルイと』

『ルイルイなんてダンスあったのか』
『母からそういう歌で踊るアイドルがいたって聞いたことがあります。こう腰を振って』
『それで』
『獅子ルイルイ』


つい吹き出してしまった。周りを気にしたが空席だらけだ。ホッとしてまた笑う。やっぱり彼女がいないと、人生は砂漠か戦場だ。

美羽がいれば、どこまでも続くはずの死体が、どこまでも続くたてがみを揺らしたライオンのラインダンスになる。ルイルイなんて腰を振って。俺はどこかで見たんだろうか、この踊り。


笑ったせいで気がゆるんだ。一週間分の疲れがどっと押し寄せ、丈はこつんと窓に額をつけた。目的地は終点だ。しばらく眠れる。眼が覚めたら美羽の居る東京だ。

ああメールを。電話しないと。きっと美羽が心配してる。着くのは夜中だから会えるのは明日か。我慢だ。ひとり寝もあと少し、などと思いながら眼を閉じる。


とんでもないことが起きようとしているなんて、丈が知るはずもない。
結婚式まであと３日。





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