チャペルの扉が開いた。軽快な音楽が流れ始める。

軽快すぎるんじゃないか。どこかで聞いたな。
何の曲だっけ？

当惑して娘を見ると、きらきらした眼で美羽は前を見ている。


「素敵、夢みたい」

そりゃそうだろう。待ち望んだ挙式だ。

「幼稚園の頃の理想よ」

そんな小さい頃から夢見てたのか？
いぶかしみながら前を見て温は仰天した。


祭壇に神父とタキシードの背中。
バランスに違和感はあったが、それよりも。
問題はバージンロードを囲む列席者だ。

拍手で迎える顔が、どれもやたらと……丸っこい。
眼がでかい。
形が、奇妙だ。

美羽が、はしたなくも指差して名前を挙げてみせる。

「ほら、しょくぱんまんに、カレーパンマン。ジャムおじさんとバタコさんとチーズ！」

おいおい。頭痛が。

「あかちゃんまん、可愛いー。どんぶりトリオにメロンパンナちゃんにロールパンナちゃんも。ドキンちゃんだー」

そこまで言われれば温だってわかる。
国民的人気の某アニメキャラクターがてんこ盛り、じゃなくて勢ぞろい。

なんでだ？
いつの間に美羽と友人関係が。

「バイキンマンとかびるんるんもいるー」

いやいやいや、悪役じゃないか。
バイキンやかびはいなくていいって。

温のつぶやきを無視するように、かびるんるんがバージンロードの上から花を散らしている。
花か？　ほんとに花だな？


「ほらお父さん、早く」
「あ？　ああ、えっと」

踏み出したものの、温に疑問が湧く。
メンツがあれだけそろっていて、肝心なのがいないのはどういうわけだ。
どうせなら最初に。

「やっぱりヒーローが主役よねえ」


機械的に足を前へ進めているものの、ふたりで進むバージンロードの先には祭壇で待つ神父と、問題は花婿だ。膨れ上がる温の疑問を映したように彼の、後ろ姿が。

「……美羽、おかしいぞ。なんであんなにでかくて丸いんだ？」
「やーだお父さんたら、あたりまえでしょ」
「どこが」
「丸くなかったら、あんぱんじゃないし」

くるりとふりむいた顔が。


「あんぱんまーん！」


その場できびすを返した温は美羽の腕をぐんぐんひっぱった。

「ちょ、え？　お父さん？」
「おとうさーん」
後ろから呼ぶのは聞きなれた憎たらしい丈の声でなく、どこかで聞いたキャラの声。いやいやいや。君に父と呼ばれてもだな。

言い返そうと振り返ったらそれどころじゃなかった。アンパンマンの後ろから列席していたキャラまで小山大山、なだれて追ってくる。
ぎえーー。


チャペルを飛び出し、自分にできる限りのスピードにあげながら叫ぶ。

「いかん、いかんぞ、あんぱんなんぞに娘をやれるか」
「どうして？　正義のヒーローよ？」

「考えても見なさい。自分を食べさせるくせに欠けたら力がでないし、濡れたらすぐへたれるし技はアンパンチだけだし、ジャムおじさんなしではどうしようもないファザコンだし、第一」

理由を探して頭をしぼって、温は叫んだ。


「友達が愛と勇気だけなんて、よっぽど性格に問題があるだろう！」





飛び起きたらリビングのソファの上だった。
ののと美羽が呆れた顔でこっちを見ている。

「お父さんたら、愛と勇気がどうしたの」
「テレビを聞いて寝ぼけたのね。最近多いんだから」


つけっぱなしのテレビでは、さっきまでリアルに迫ってきたアニメキャラたちが仲良く手をつないでマーチを踊っている。
そうか。
テレビを見ながらうたた寝してあんな夢をみたのか。

夢でよかった。
よかったぞー。


安堵で脱力する温に、妻と娘は再び首を傾げあっていた。



結婚式まであと何日？





　　　　　　　　　　　　＜　Atsushi's　Nightmare　No.４　/　End＞