「花紅柳緑」　２１．　裏と表

「花は紅　柳は緑」　２１．　裏と表

体育館を飛び出した紀佳の目に映る光景。

すれちがう完と・・・天羽？

上げた手と手をバシッと叩き合って、それから何事もなかったように通り過ぎていく。

完の背中が揺れ、天羽の口元にも笑みが浮かんでいる。

紀佳の頭によぎる、先日の職員室。

－－まさか？

歩いてきた天羽が、紀佳に気づいた。

ちょっと目を見開いたものの、黙って行きかけた。

「こないだの。」

紀佳の声に振り向いた天羽。

「職員室でのあれって・・・計算ずくなの？」

「なんか勘違いしてない？」

まるでポーカーフェイスな天羽にカチンとくる。

この人っていつもこうだわ。

「しらばっくれないで。あなたってどうもわからない人よね。」

「そっか？　ま、わからないところがいいとか。」

ニヤッと笑うその顔の憎たらしいこと。

だが、紀佳の思考はめまぐるしく回転している。

「ひょっとして・・・このコンサートもあなたの・・・・？」

言いかける紀佳をあっさり遮って。

「何言ってんだか。それより軽音部に礼いっとけば？」

歩き出すその背中に、閃く直感。

軽音部部長の永見　拓。

コンサートで怒鳴ってたのは確か、清水　豪。

さっきの音無　完。そして彼。

・・・・このメンツ。

「ねえ。　裏の緑って・・・ほんとにあると思う？」

もう一度呼びかけた紀佳に、天羽の足がピタリと止まった。

半身をこっちに向けると口の端を歪める。

その表情にドキッとした。

「そりゃただの幻だろ？　『緑は柳』だー。」

今度こそ去って行く天羽の背中。

踊った胸に悔しさを覚え、しかしその言葉の意味は読み取れなかった。

「会長ーっ、コンサートの締めに一言お願いしますってー。」

蘭の呼ぶ声がする。

『　緑は柳　』－－？