「花紅柳緑」　２２．　エピローグ～「柳は緑」

「花は紅　柳は緑」　２２．　エピローグ～「柳は緑」

学校側と交渉が成立ち、今度の体育祭での応援合戦はラップも許可された。

曲のベースを校歌など、わかりやすいものに置くという条件付だったが、

生徒たちも満足する結果だった。

「表の紅」の面々は大いに面目を施したし、軽音部はヒーローとなった。

特に空知。

すっかり軽音部の顔になってしまって、とまどい焦り困りきってる。

一夜開けたらファンがいっぱいだったら、そりゃ驚くだろう。

「先輩、どうしてくれるんですか。俺はふつーの人間だってのに。」

放課後、部室でぶちぶちとこぼす空知に、誰もが笑ってる。

素直な性格は入ったばかりの部でも受け入れてもらえている。

「バーカ、いきなりああいう歌詞がかけて、歌えるってのはひとつの才能だぜ。」

拓が楽器を片しながら言う。

「・・・え？」

「よう、ヒーロー。」

そこへやってきたのは天羽。

「伝言。ＦＲＥＥのマスターが、今度ステージで歌ってくれってさ。」

「ええっ？　俺ですか？」あわてる空知。

「どうする？　またファンが増えるぞ。」拓が笑う。

「か、からかっちゃ・・でもマジですか？　俺、HIPHOPやれるかな。」

その目の輝きに、天羽が頭をクシャッとなでてやる。

「おう、頑張ればやれるって。緑は柳ってな。」

「・・・なんですか、それ？」

「んー？　しらねえか？　『柳は緑、花は紅』って言葉。

　要は自分が持ってる力、持ち味をいかに発揮するかってことさ。」

「持ち味・・。」

「拓、豪と完が待ってる。行くぞ。」

「おっと。じゃお先。」　二人は消えた。

ボーっとしてみていた空知は、急に追いかけた。

校門へと歩いていく４人に声を投げる。

「せ、せんぱーいっ！」

足を止めた４人にやっと追いつく。

「あ、あの。『裏の緑』って・・・先輩達のことじゃ・・？」

４人は意外そうな顔を見合わせて、クッと笑いだした。

「先輩？」

天羽がおかしそうに目を躍らせている。

「・・・言ったろ。『緑は柳』なんだ。

　普段はさ、学校側や体制と闘うのは『表の紅』だってみんな思ってる。

　でもな、ほんとにつかみたいこと、やりたいことは結局、

　自分達でやらなきゃしょうがないのさ。

　『裏の緑』って言うけど、『緑は柳』。柳は俺達一人一人。

　この高校は今までも、なんかそういうことが起きたときには、

　自然と一人一人が力を合わせて生徒会以上の力を出してきたんだろうな。

　そういうのを『裏の緑』って呼んだんだと俺達は思ってるけど。」

「で、でもコンサートを企画したのは・・。」

「仕掛けるのは好きなんだ。だからって結果はやって見なきゃわかんないし。」

天羽の煙に巻くような言葉に空知が戸惑う。

「やりたいことは人を当てにしないでやるこった。・・・できたろ？」

もう一度クシャッと頭をなでてから、天羽は笑った。

「じゃまたな。」

「空知、部活に戻れよー。」

「またな、ラップ小僧。」

「クラブのぞくからなぁ。」

長い４つの影が遠ざかる。

『緑は柳』

そうかもしれない。やりたいことは自分で。

確かに。自ずと生まれてくる力もあるんだ。

でも。

「やっぱあの人達が・・・『裏の緑』だよなぁ。少なくとも今は。」

豆粒のようになった影をもう一度見送って、空知は笑みを浮かべた。

その胸にはもう、苛立たしさはどこにもなかったー。

紅の花々と緑の枝が覆う。

柳高校の体育祭はもうすぐである－－。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜ red & green / end　＞

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