「花紅柳緑」　１９．　コンサート

「花は紅　柳は緑」　１９．　コンサート

最初はただのラップだと思ったのだ。聴衆の誰もが。

いかにもラップらしい、言葉の銃弾。

慣れない人には聞き取ることすら難しい言葉の羅列。

だが。

ずっとバックで隠れていたメロディラインが、リズムを刻むベースを押しのけて現れると。

誰もが唖然とした。生徒も。先生も。誰も彼も。

何故ってそれは、そこにいる誰もがあまりにもよく知っているメロディ。

校歌だったからー。

その驚きは、後ろで聞いていた紅の面々もまた、同じだった。

校歌がラップになるなんて。想いもしなかったけど。

ほんと、音楽ってアレンジでここまで変わるんだ。

最初ポップで盛りあがり、ラップのはじまりで萌えていたのに静まり返った聴衆。

その中で空知は歌いつづけていたけど。

最初の盛りあがりと、今の静けさが、彼の神経を焼きそうだった。

やっぱり俺じゃ・・・。

「校歌だー、歌うぞーっ。」

唐突に叫んだ声。あれは・・豪さん？

「ラッパーに負けるなーっ。」

今一つ調子っぱずれな歌声に、クスクスと笑いが広がり、その中から聞こえ出す歌。

「よっしゃ、空知っ。メロディに負けるなよーっ。」

拓が後ろから怒鳴る。

メロディを歌っていたギターとベースが、聴衆に任せる。

やがてそれは、ステージと聴衆の応酬となり、コラボレーションと化し。

そこにいる誰もが歌えるだけに。

いつのまにか先生すら歌っていた。空知のラップを心地よく聞きながら。

長い長いリピートが終わったとき、湧き上がった歓声と拍手が空知を包んでくれた。

胸が熱かった－。