「花紅柳緑」　１８．　スタンバイ

「花は紅　柳は緑」　１８．　スタンバイ

ミニコンサート当日の放課後。空知は舞台の袖にいた。

機材をセッティングするだけで手一杯。

授業の後なので、リハの時間はない。ぶっつけ本番。

なんで俺が？

ジェットコースターなる展開に目眩がしそうだ。

あの日。蘭を通じての生徒会への橋渡しを頼まれて。

「なんで生徒会？」

「その方が箔がつくし。」　完の冷静な声。

「やるなら派手に。」　豪の笑い。

「なんたってこの曲のデビューだし。」　拓が楽譜を振る。

「デ・・ビュー・・？　こ、これやるんですか？　学校で？」

「当然。学校でやってこそ意味があるだろ？」　天羽の涼しい声。

「だって。今、学校側ともめてるんでしょ、ラップがらみで下手したら。

　大体誰が歌うんですっ？」

「下手なんてするわけないじゃんー。」　豪がニヤッと笑う。

「そう。さっきの出来なら満点ＯＫ。」　拓が太鼓判を押す。

「頼むぜ、ラッパー。」　完にポンと肩を叩かれる。

「は？　え？」

キョロキョロした空知が、彼らの目の中に見た意図。

「お、お、俺が歌うんですかぁあああっっ！？」　思いっきり上げた大声に。

「当然。」

あまりにもあっさりと、笑顔で頷く天羽がいた。

そのあとは考えたくない。抵抗なんてできるものなら。

拓は軽音部長でもあったらしく。

あれよあれよという間に部に引っ張られ、紹介され、歌わされ。

突然現れた２年の新入部員がステージに立つことに、誰も不思議なほど文句がなく。

どうやらこの部長につきあってると、こういうことが日常茶飯事らしかった。

慣れって怖いもんだな。

学校側の許可が下りないのを期待してたら、あっさり下りた。

（天羽が何かやったらしいのは、蘭からあとで聞いた。）

今朝なんて。学校に来てみるとポスターとチラシだらけ。

「軽音部初！　新入生welcome　コンサート！　ポップとラップで楽しもう！」

派手にも限度ってものが・・。出演者が書いてないのが救いだったが。

「へえー、軽音部ってラップもやるんだ？」

「３年の永見先輩、格好いいんだよね。絶対行こう！」

クラスメートの盛り上がりに頭を抱えた。

おいおい、歌うの・・・俺だぜ？　知らねえぞ。

気がついたらここにいる自分。

つい先日まで、苛立つ心をかかえながらただ、ふらふらする毎日だったのに。

うそだろー？　叫びたい気分だ。足が震える。

そんな空知を見ていた拓が話しかける。

「ラップてさぁ、ブラックミュージックだろ？」

「え？」

「音楽はさ、なんでもそうだと思うけど、

　ブラックは余計にこう、自分自身を探るって気がするんだよな。ラップは特に。」

自分自身を探るー。

「拓。」

「マキさん、悪い。」

振り返ると「ＦＲＥＥ」でＤＪやってるマキさん。ーーえ？

「よ。センセーに聞かせるんだって？　俺も混ざるからさ、頑張れよっ。」

思いがけなかった。こんなところで。

彼のＤＪと指さばきにあこがれてたのだ。ずっと。

「・・・はいっ。」

こうなりゃやるっきゃないよな。マイナス気分に浸ったってしょうがない。

見透かしたように拓が笑った。

「おまえ自身を聞かせろよ。」

ステージが始まる。