「花紅柳緑」　１７．　職員室にて

「花は紅　柳は緑」　１７．　職員室にて

勢い込んで職員室までやってきた二人だったが、苦戦していた。

学校側のガードは固く、簡単に承諾はしてくれなかった。

この時期に軽音部がコンサートをしたことがなかったし、

内容にラップが入ることが学校側の神経を逆なでしたようだ。

「ですから、けっして生徒会が依頼したわけじゃなく。」

「どうだか。まだこちらがうんといっていないのに、そういうコンサートをやることは。」

「違いますって。」

体育館管理の先生と散々言い争いを繰り返す。

そこに声をかけてきたのは。

「大山先生。」

「・・・なんだ、天羽か。何か用か？」

この先生はバスケット部の顧問でもあった。

「部活の体育館使用の件で。・・・取り込み中ですか？」

「みりゃわかるだろ。ったくなんであんなラップなんてわけわからないのが好きなんだ？」

天羽の顔と紀佳の顔を見比べる先生。

二人は同学年だが、同じクラスになったことはない。

天羽の視線は紀佳を無表情に滑り、隣の蘭に移るとわずかに和らぐが。

蘭がかすかに会釈しても知らん顔。

「俺も苦手ですよ、ラップってのは。」

先生に迎合するような言葉に、紀佳が目をむく。

「大体、メロディラインがわかんないですよね、あれ。」

「そうだよ。応援たってあれでどうやってなぁ。」

「まだ決まってないんでしょ。何でもめてるんですか？」

「いや、軽音部がラップのコンサートやりたいって。」

「ああ、それ新入生のwelcomeでしょ？　やってみたいって拓が言ってました。」

「例年やってなかっただろう。」

「部員募集もかねてるんですよ。そうか、ラップもやるんだ。」

紀佳に視線を向ける。

「今お願いしてるんです。」　天羽を睨む。なによ。

「でも先生、俺みたいにあんましラップに馴染みないやつもいるから。

　実際聞けばいかに応援に向かないかってわかるかも。」

「そっかぁ？」疑わしそうな声。

「うちの学校は自主性の尊重がモットーでしょ？　違うんですか？

「そりゃまぁ・・」

「ちょっとは生徒会の顔も立ててやらないと、抑えるばかりじゃ。

　軽音部がやるなら聞いてやろうくらいの度量の広さが欲しいですけど？」

いつのまにやら天羽に言いくるめられる形で。

「・・・まあそうか。よし。二木、いいぞ。」

気が変わった大山先生は、体育館の使用許可を出してくれた。

自分が何もしないうちに受け取った許可にとまどってる紀佳。

蘭がホッとした笑顔を天羽に向ける。

その天羽は同じく部活の体育館使用許可を受け取ると、さっさと出て行った。

「蘭。あいつ知ってるの？」

「紀佳さん、同じ学年で知らないですか？」

「そりゃ名前はね。有名人だし。でもクラス一緒になったことないから。」

有名人ってことならお互い様だろうけど・・・・とは言えない。

「いい人ですよね。」

「そう？　あの言い方、ずいぶんじゃない？」反発した様子の紀佳。

「けど。天羽さんがいなかったら、許可もらえたかどうか。」

「・・・なに、こっちのためにあんなこと言ったっていうの？」

紀佳の不審げな声音に蘭は黙った。

多分何か考えがあるんだろうけど、言っちゃまずいのかもしれないし。

「とにかく行こう。軽音部にも知らせなきゃ。在る意味、これってラストチャンスかも。」

負けるもんか。

紀佳の思いは誰に向かってだったのか。