「花紅柳緑」　１５．　たくらみ

「花は紅　柳は緑」　１５．　たくらみ

3日後。

約束どおり空知は頼まれたラップの歌詞を持って、Ｃｌｕｂ「FREE」へやってきた。

首をかしげながら。

「なんでこの曲なんですか？」

その問いに誰も答えない。

「歌わなくっちゃわからねえな。ラップは。天羽、メロディやれよ。」

「げ。俺？　おい、拓の領分だろ？」

「完も豪も音痴じゃん。メロディのキーボードいらねえか？」

「・・・・わーったよ。よう、頼むわ。」

諦めたように天羽がマイクを取ると、1本を空知に押しつける。

とまどう空知。

「え？　え？　俺が歌うんですか？」

「歌えるんだろ？　これ書いたんだから。」

「で、でも。」

「ほら、マイク。マスター、ちっといい？」

「ああ。」

ステージに引きずり出されて、見れば常連のＤＪまで構えてる。

嘘だろーー。

「いくぜ。」

空知にするともはやヤケクソ。

いきなり流れたラップとメロディに、沸き返る場内は、終わると拍手になった。

「おー、いいじゃん。最高。」

「おもしろーい。」

一部がざわざわしてるのは、聞き覚えのあるメロディのせい。

「え・・・・今のって？」

「ほんとー？」

ステージにしゃがみこんだ空知を尻目に、満足した４人は頭を寄せる。

「なんとかなるな。」

「じゃ仕掛けるか？」

「拓。ああいう人材はひっぱらねえと。」　天羽がクイッとあごで空知を指す。

「だよなぁ。灯台もと暗し。」　頷く拓。

「なあ、あんた。」

脱力していた空知は、天羽の声にギョッとする。

「え？　俺？」

「また頼まれてくれるか。こないだ一緒だったよな、紅のひとり。」

「春野？」

「親しいのか？」

「いや、クラスメートで。」口篭もる空知に、マスターが思いがけず。

「あれ、あのあと彼女連れてきてたじゃん。」

げ。なんで知ってる？　目をむく空知の赤い顔に天羽がクスッと笑う。

「いいじゃん。可愛いもんな、彼女。素直そうだし、それに。」

その声が微妙に変わった。

「頼みは聞いてくれそうだしー？」

嫌な予感がして身構えたが、すでに四方から囲まれてる。

「ちょっとさぁ。」　拓が微笑む。

「お願いが。」　完が天井を見上げる。

「あるんだよな。」　豪が見下ろす。

「・・・是非。」　天羽が真正面からのぞきこむ。

・・・・やっぱり逃げるのは不可能だよな。

方位網の中で空知は固まっていた－－。