「花紅柳緑」　９．　Ｃｌｕｂ　”FREE”

「花は紅　柳は緑」　９．　Ｃｌｕｂ　”FREE”

空知はそのクラブによく通っていた。

夜の繁華街。

別に怖いとも思わない。こういうところはどこも似た雰囲気だから。

翼の形をした看板がその目印。「　FREE－－D.J.club　」

在りがちな名前だけど、最初妙に惹かれたのは看板のセンス。

山勘を信じて入ると熱気の溢れた雰囲気だった。以来贔屓にしてる。

年齢層が若いのも魅力だ。

今夜もメインステージでは、ラッパーがシャウト。

ここはうまい人が多い。バックで別のD.J.がドーナッツ盤と遊んでいる。

かなりの人波。それが楽しげに揺れる。

あー、やっぱいいよなぁ。空知の体も自然と反応する。

感覚に酔い始めたとき、すぐそばで不協和音な声が聞こえた。

「・・・っめてくださいっ・・」

反射的にそっちを向くと、一人の女の子が３人に絡まれてる。なんだ？

連れがいないらしく困りきった顔は可愛い・・・・どこかで？

対して相手はどうも気に入らない。

なんだかだらしない危ないタイプ。やっぱ高校生？

別に正義感が強いわけじゃないのだが、

せっかくの気分を邪魔されたのが癪に障って。

珍しく先に体が動いた。

「やめろよ。」

ふりむいたそいつらを押しのけて、女の子を後ろにかばう。

「格好悪いぜ。」

「何を？」

相手もムキになりかけたが、空知の動じない目付きに怯む。

夜の繁華街をうろつくから、変な場数も結構踏んでる。

こう言うときは強気が勝ちだと経験からわかってる。

数秒にらみ合ったが、まわりの視線もあり彼らは退いた。

「チェッ。」

後姿に吐き捨てると後ろから声。

「ありがとう。」

向き直るとお辞儀していた頭を上げて。

「あ・・・れ？　あなた、碓井・・・くん？」

「げ。」

その顔は「表の紅」ただひとりの２年生。しかもクラスメート。

「春野・・・じゃん。」

なんとも可愛らしく、蘭はにっこり微笑んだ。