「花紅柳緑」　６．　四人目・天羽（あもう）

「花は紅　柳は緑」　６．　四人目・天羽（あもう）

「なんか用か、天羽。」

天羽と呼ばれた彼は、完の仏頂面をごく当たり前に流す。

「弁論部の連中が、部長が戻ってこないって探してたぞ。」

「・・・忘れてた。部会前だった。」

頭脳派が頭をかく。

「ったく。コピーしにきただけなんだろ？」

メガネの奥で笑いをこらえている相手。

「そのコピー機がさ、言うこときかないから先生に聞いてたんだ。ですよね・・・あれ？」

同意を求めようとした先生の姿はない。

故障の原因を聞かれただけのはずが、終わらない議論に閉口してたのだ。

そりゃ脱兎のごとく逃げるだろう。チャンスを逃さず。

「・・・どうしよう。動かねぇ。」

唸る完に。

「バーカ。こういうのは論じてるヒマがあったら、一発気合だよ。」

そう言うとちょっとあたりを見まわして、いきなりガン！とコピー機の本体を蹴飛ばした。

さすがの完も目をぱちくり。そんなんで、と言いかけたら。

ウィ～～～ン。

待っていたように目覚めるコピー機。

すかさず天羽がスイッチを押すと、

何事もなかったかの如く、コピーされた紙が吐き出されてくる。

「・・・うそっ・・。」

「古いからなぁ。学校と同じで時々寝ぼけてるんだろ。」

クッと口元を歪める。きびすを返すと背中で念押し。

「急げよ。弁論部がウロウロしてるぞ。」

「了解。」

見送ってつぶやく完。

「なるほどね。発想の転換？　あいつらしいや。」

飄々とした態度で歩いていく彼は、天羽　良之（あもう　よしゆき）。

新３年生。

すらっとした背にクセのある髪。

かけているメガネは所属するバスケ部でははずしている。

見た目はともかく、これといった特徴があるわけではないのに人気者。

理由は一風変わった考え方と態度だろう。

いつでもどこでも助けが欲しい時に、いつのまにか現れて手を貸して消える。

それで惚れた女生徒も多いが、本人まるでその気なし。

親切なのかおせっかいなのか・・・・罪作りなだけか。

行き詰まった中に石を投げ入れて、事態を一変させる。

発想の転換。－change。

本音を見せることは滅多になく、その想いは底が知れない。

拓（たすく）、　豪、　完、　天羽。

嗜好も趣味も考え方も、ついでにクラスもばらばらのこの４人。

なぜか気が合ってつるむ事が多い。

１人でも十分目立つのに、４人そろうと圧巻だ。

当人達はただ、面白いことに首をつっこんでるだけのようだが。

ほんとうは－？