「花紅柳緑」　５．三人目・完（かん）

「花は紅　柳は緑」　５．　三人目・完（かん）

「ですが先生、それだと定義が矛盾します。

　いいですか？

　１と２の結論の上に３が成り立ち、そこから４が派生してるわけですよね。」

「お、音無（おとなし）君。」

「なのに、４が２の反対に位置するとなると、そもそも４の派生が揺らぐわけで。」

「音無君～。」

「それだと結論自体が意味をなさなくなってくるという。」

「音無君ってばっ。私は単にコピー機の故障についてね。」

「ですから、コピー機はまず紙である１と、インクである２と・・。」

「だからぁああっ！」

悲鳴を上げかける事務の先生を相手に、今だとうとうと論じようとしている彼。

音無　完（おとなし　かん）。

見てのとおりの弁論部部長。新３年生。

さらっとした明るめの髪は肩まで伸ばされ、無造作に結わえられている。

黙っていればただの美形だが、これでも頭脳派。成績はトップクラス。

おまけに、口から先に生まれたかのように弁がたつ。

それも女生徒にファンの多い理由になるから不思議。

彼にかかると、どんなに有利な論争も相手が嫌になってやめてしまう。

もしくは言いくるめられる。難問も然り。全て－end。

半分は都合の悪いことも煙にまくという特技だったりするわけだ。

やっかいなのは、意味のない論議を理由もなく人にぶつけてくる場合。

ぶち当たった奴はとんでもない目にあう。

どうやら今日はそれに、かの事務の先生が出くわしたらしく・・・いい迷惑だ。

これに太刀打ちできる人間はまずいない。

いるとすれば。

「かーん、いいかげんにしてやんなよ。先生が困ってるぜ。」

含み笑いをしながら止めに入った珍しい奴。

「・・・乗ったところを邪魔するなよ、天羽。」

振り返った完は、そいつを睨んだ。