「花紅柳緑」　４．二人目・豪（ごう）

「花は紅　柳は緑」　４．　二人目・豪（ごう）

「こらーっっ、誰だっ！」

職員室から校庭に向かって、教師が叫んでいる。

その真横の窓が粉々に割れているのだから、起きたことは一目瞭然だ。

「清水ーっ、隠れても無駄だぞっ。出て来いっ！！」

名指しで呼ばれて観念したのか、一人の生徒が渋々現れた。そのうしろにも２、３人。

「先生、なんで俺なわけ？　見てなかったくせに。」

「おまえじゃないのか？」

「・・・いや・・・俺なんだけど・・・すいません。」

頭をかく彼は長身で立派なガタイ。並んだら教師よりはるかに高いだろう。

だが幸い教室の中と外。ちょうどいい位置にあるその頭が、ぱしっとはたかれる。

「こんな小学生みたいなバカやるのは、おまえしかいないだろう。

　やることに名札ついてるようなもんだ。」

「ひっでぇなぁ。ちょっと蹴る方向が狂ったんだよ。」

「職員室の前でやるなって何遍言った？」

「えっと・・・・覚えきれない。」

あっけらかんとしたその口調に、教師も呆れ顔と苦笑。

「先生、俺らも一緒だったし。」後ろの数人が口を添える。

つい助け舟を出したくなるタイプなのだろう。

「あー、わかってる。とにかく謝る。」

「すいませんでしたっ！」そろって下げる頭は、そろいすぎ？

「片付けろよ。主事さんのところで掃除用具借りて来い。」

「俺が行って来るっ。」

悪びれもせず敬礼してから走って行く。

でかい図体の彼は、清水　豪（しみず　ごう）。新3年生。

見てのとおりの肉体派。スポーツ万能。

単純明快、イケイケＧＯＧＯ・・・名が体および性格をも表している。

勢いつくと止まらないタイプだが、悪気がないので憎まれることもない。

短い髪ははねるがまま気にも止めない。

太い眉の下に意外なくらい純な瞳。

ビジュアルもなかなかだ。

主事室からほうきとちりとりを借りてきた豪が、通りかかったのは印刷室。

入り口に、冷静なる瞳で熱弁を奮う奴を見て。

「あーあ、気の毒に。完につかまったのかよ。」

その眼にいかにも、同情の色が浮かんだ。