「花紅柳緑」　３．一人目・拓（たすく）

「花は紅　柳は緑」　３．　一人目・拓（たすく）

さて。

進学校である柳高は学力も高いが、部活動その他も大いに盛んである。

それはより積極的な生徒たちを集める要因となり、

そうした生徒の中からいわゆる名物・人気者も必然的に出てくるものだ。

決して成績だけでなく、どこか人を惹きつける個性。

たとえば。

ドン！

鈍い音に振りかえる生徒たち。

文化部部室が並んでいる棟。一つの窓から白煙が洩れている。

「・・・っげほっ・・・だからやめろ・・って言ったろ！　拓（たすく）！」

叫びつつ、咳き込みつつ、飛び出してくる数人。

白衣を着てるのは実験でもやっていたのだろう。

そのうちの一人が皆から文句を言われている。

「ちぇっ・・。けほっ。面白いとおもったんだけどなぁ。ちょっと量が多かったか。」

まだむせながら答える彼はしかし、まるで懲りてない顔。走らせる目の光。

「量じゃねえって！　おまえね、爆弾作ってんじゃねえんだぞ？」

「それも面白いと思うんだけど・・。」

「たすくーっっ！！」

周りの悲鳴は諦めの色を帯びる。

騒ぎを聞きつけた他の部の生徒たちも、顔を出すもののクスクス笑うだけ。

どうやら常習らしい。

「またやったのね。」

「拓くんでしょ？　ほんと好きだね。頭いいくせに。」

「あれがいいんだけどね。彼がいると退屈しないよ。ことを起こす名人？」

「ほんとー。Let's　Try？」

永見　拓（ながみ　たすく）。新3年。

とりあえず化学部長。

小柄な方だがクリッとした眼が大きい。その容姿の割に。

事件が起こるとそこにいるのは彼だ。

興味の塊。試してみないと納得できない。故に試す。－Try。

多少の怪我や危険は眼中にない。

そうやって試した分だけの知識は頭に詰まってる。化学のみに留まらない興味。

笑顔に愛嬌が溢れ、女生徒にも大いに受けがいい。

つまり要領がいいってことか？

やっと収まった煙にホッとして、片づけを始めようとした矢先。

ガッシャーンッ！

別の大音声が響き渡って。女生徒たちはむろん拓も振りかえった。

「あっちゃー・・・あれは豪だな。」

拓がおかしそうに笑った。