６．　＜　留守　＞


お天気はいいのに。
トラが居ない。
ずっといない。

竹林の日なたで、ねこは眠ったふりだ。
昼寝にきても眠れない。
眠れなくても、ここで昼寝。


トラのことはよく知らない。
聞いたことがない。


竹はまっすぐ伸びる。
天まで伸びる。
竹林から見上げる空は、縁側から見るより遠く見える。
綺麗に見える。


トラは空にも似ている。

そこにいるけど遠い。
見ていてくれるけど、きっと遠くも見ている。
手が届かない。遥かだ。


時々いなくなる。
何処に行くのか聞いたことはない。いつ戻るかも聞かない。
ただ待っている。

待っていれば、また逢える。
それが信じることだと、ねこは知らない。


眼を閉じて、組んだ前足に頭を乗せる。
ため息の出るような柔らかな毛並みを思い出す。
やっと、短い眠りがねこを誘う。


短くても深かったから、落ちた影に気づかない。
目を覚ませば、留守番は終わる。


「おかえり」