３．　＜　朧月おぼろづき　＞


空に雲。
月は朧おぼろ　。
首を伸ばしてトラが見上げる。

風が渡る。
湿った香がする。
雨の匂い？

「明日は降るかな」


降ればねこは来ない。
降ればトラも、いないと思ってるだろう。
いないこともある。
いることもある。

大方の獣は濡れるのは苦手だ。
だが、トラはそこに含まれない。
大方から離れて幾年いくとせ　になるのか。


長く生きると飽くことばかり。
ならば、晴れも一興。　濡れるも一興。
晴れようが降ろうがどちらでもいい。
どっちも同じはず。

それが。

「降ると来ないねぇ」


雨も奴の仕事ではあるけれど。
降らせるなと言ったら、どんな顔をするやら。
そう思った自分に笑った。
そう思うことが驚きだった。


降るも晴れるも天の理ことわり　。
まだそれに倣なら　うだけ。

今はまだ。



朧月が隠れると、トラも隠れて見えなくなった。