２．　＜　日暮れ　＞


ねこが眼を閉じる時、トラは起きていた。
ねこが眼を開けると、トラは起きている。

竹林を刺し通す光はすでに、かなり斜めだ。


「日が暮れるね」
「ああ。もうお帰り」
「うん」

しょぼしょぼした眼を前足で拭ったねこは、トラの背から滑り降りた。
柔らかな毛並みは摩擦もなく、ねこをそっと落としてくれる。
その滑らかさが好き。

好き。


「また明日」
「晴れたらね」
行きかけたねこが、ふと振り返る。

「雨だったら？」
「濡れたくないだろ？」

確かにそうだ。濡れるのは嫌いだ。
でも。

「どこで雨宿りするの？」

トラが笑みを浮かべる。
ねこにはわからない、深くて滑らかな。

「あちこち」

「濡れない？」
「濡れない」
「そう」

ならいいと思う。
トラが濡れなければいい。

「暗くなるよ。おかえり」

うなずいたねこは今度は走り出した。
振り返らない。


明日の空は、明日、知るしかない。