１．　＜　ねことトラ　＞


ねこがトラと昼寝をしている。


もし誰かがそう言ったなら、トラは訂正するだろう。
「ねこが私『で』、昼寝をしてるんだよ」


なるほど。
ねこは確かに、トラの上でトラを寝床に眠っている。
なんだか複雑な顔でトラはそれを眺めている。


ねこはいつもやってくる。
ぴんと伸びたしっぽは、トラを見つけると揺れる。
「ね、お昼寝しよう」
嬉しそうに。


トラはいつもここにいる。
「……どうして私とお昼寝なんだい？」
身体に巻き付いたしっぽは天の邪鬼に動かない。


トラの意向も機嫌もお構いなし。
自分よりは遙かに大きいその身体に、ねこはせっせとよじ登る。
「一緒にいたいから」


無造作に放り出される言葉。
トラは立ちあがろうかと思う。
立ちあがってその小さな身体をふるい落とそうかなと。


そんなことを夢にも思っていないねこ。


構える間もなく差し出される素直さ。
ためらいなく告げる本音。
世に飽いたトラの心を何故かねこは震わせる。
それがいまいましくなる。


でもいつものこと。
ねこがそこで眠るのも。
立ちあがることなくトラがそれを許すのも。


竹林の上、陽は中天。
降り注ぐ日射しはまさしくお昼寝光線。

ねこはすやすや。
あきらめたようにその顔を一嘗めしたあと、トラも眼を閉じる。



そんなに古くはない。
珍しくもない。

竹林のいつもの風景。