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  「Why?」 姫星シリーズ



童顔だと言われていた。
母にも友達にも。昔の彼氏にだって。

メガネをとった素顔を見ると、否定は出来ない。就職活動の時、このままじゃ不利かなと思った。別にプチ整形とかそんなことじゃなくて、はったりは必要かもしれないと。

何事も備えあれば憂いなし。初めが肝心。女は度胸。自分の短所を長所に変えようと思った。それもチャレンジ。まずは実力なのはわかってる。それがなきゃ無意味。その上でさらに。

化粧。 髪。 スーツ。 ヒール。 言葉。 笑顔。 とどめにメガネ。


全てに丸っこい顔を、シャープに知的に見せるメイク。
下ろすとフワフワ揺れるだけの髪は、ピシっとしたまとめ方。
デザインも色調もくっきりはっきりを基準にしたスーツ。
神様だってどうしようもない身長をカバーする、ピンヒール。
穏やかににこやかに、裏では細心を払って研いだ言葉。
決して崩さない無敵の笑み。

それから。
確かに眼は悪いけど実はコンタクトの上から、伊達なる縁なしメガネ。


今ではピッタリ身に付いた『姫』の七つ道具。なかなかだと自負してる。誰にだって評判はいいし、おかげで仕事もガンガン行けるし。
まあね。色っぽい話は今ひとつなんだけど。何しろ全てお仕事仕様。甘さはこれっぽっちもない。

そんな光姫に届けられるpoohさんは何度目か。
受付嬢に直接ではなく、いつのまにか置いてあったりするらしい。


『姫へ』


メモ付きで現れる紙包み。どこか訝しみながら開けると、本日は顔つきボールペン。ええまぁ可愛いですけど。思わず顔が緩むくらい。

どこの誰だか知らないままで、神出鬼没のpoohさん男。
月光仮面だったりして?



実は光姫はpoohさんが大好きだ。もらえば嬉しい。認めよう。
プライベートじゃ必須アイテム。コレクターとまでいかないまでも心のよりどころ。安心枕。トラウマの逆転? でも。

誰も知らないはずなのに、どうしてあの男にバレてるんだろう? ニッコリ笑ってクライアントを斬る『営業の姫』の第一級シークレットだっていうのに。

本日献上されたボールペンをクルクル回す光姫の脳裏で、問いも一緒に回っている。

奴は誰? 何を考えてるの?
どうして知ってるの?


生憎どこからも、答えはなかった。





                  < why? / end >


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