年上の彼女は難しい。
一星はつくづく思った。
年、仕事のキャリア、人間性。
どれをとっても自分の方が劣っているのは、百も承知だ。承知の上で彼女にふさわしい男になろうと日々努力しているし、努力の結果を折に触れてアピールしている。
クリスマスはアピールの絶好の機会だ。すてきなレストランとホテルを予約しよう、彼女の目が輝くのが見たい。これだって立派な男のロマンだと思うのだが、一星の彼女は全く理解してくれないようだ。
「一星んちがいいわ」
クリスマスの予定を聞いたとたん、光姫みつき は断じた。
一星のしかめっ面も全く意に介さない。
「ツリーが欲しいわね。オーナメントを二人で選んで、二人で飾るの。ワインとケーキとそれから」
一星の心でガラガラと崩れさるクリスマスの幻想。とうとうと語られる彼女の企画にため息をつきそうになるが、キラキラした目を見たらそれもできない。
まあいいか。結局、彼女が楽しいのが一番だ。実際、一星の懐具合には彼女の案の方が遙かに優しい。せめてごちそうを用意して。
「何よりチキンよ! パーティーバーレル!」
一段と熱のこもった声の高らかな宣言に、こけた。
本心からこけた。
「ぱー? ばー? それってもしかしてケロケロチキン?」
「そうっ! 夢だったの、クリスマスのケロケロチキン! 今年こそ夢を叶えてみせるわ!」
なんで今まで叶えなかったんだ?
喉まで出かかった疑問を呑み込む。
ここは居酒屋といえ、握り拳を突き上げる姫は目立つ。周りから奇異な目が向けられようと、本人は全く気にしない。パーティーバーレルへの憧れと夢を、とうとうと語っている。
まあいいけど。
チキンに異議があるわけじゃない。
サンタ帽をかぶったフライドチキンと、ボクサーグローブを合わせる自分が浮かんで、ぶんぶんと首を振った。やめやめ。その間も姫は叫ぶ。
「とにかく、何はなくてもチキン忘れるべからずよ!」
そこはチキンじゃなく、俺にしてくれませんか。
俺とチキン、どっちが本命? と聞きたいけれど、聞くのが怖い。
情けない薄笑いでビールをあおって、一星は外を見た。
ケロケロチキンの看板がきらきら輝いている。
パーティーバーレルにランクってあったっけ。
ええい、パーティーバーレルの三つや四つ、五つでも六つでも。
食べ放題だ。
自分はつくづく姫に惚れている。
語り続ける彼女をみつめながら、再確認する一星だった。
ツリーとケーキとそれからチキンで、素敵なイブになりますように。
電飾のケロケロおじさんが、大丈夫さと髭の顔で笑っていた。
< she loves chikin! / end >
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