緑は悩んでいた。
クリスマスプレゼントについて。
あの子が一番欲しいものって何だろう。
全然わからない。
あの子とは、緑の年下の彼だ。
自分を追いかけて同じ大学までやってきた、巴 黄由ともえ きよし 。
美形で明るくておちゃらけが得意で、なのに熱くてマジな彼。
もてるのに、人気者なのに、なんで私なんだろう。ほかの誰かを好きだったことも、情けないところも身勝手なところも、全部知っててそれでも「好きだ」って言う、信じられない男。
「緑さん、クリスマスの夜は予約ね、予約」
信じられない男がそう言ったのは、信じられないことに夏休みだった。
頭がついていかなくて、ぼうっとしたっけ。
「巴、八月よ今」
「でもってクリスマスは十二月」
「わかってて言ってる?」
「半年前じゃないのをほめてよ」
「いくらなんでも早すぎるわ」
「人気どころは早めに押さえるのが鉄則」
緑の周辺で、この笑顔にやられない女の子はいない。
「予約完了」
そう言ってキスする男を、どうしろっていうの。
嫌な訳じゃない。むしろ嬉しかったしドキドキした。でも、大人の振りしてそっちに疎い緑は、悲しいくらいどうしたらいいのかわからない。
片恋の初恋が玉砕するまで、してからも、緑のそばにいてくれた巴。
男の人とちゃんとつきあうのは、彼が初めてだから。
恋人と言いながらもまだ、そういう関係じゃないから。
困る。
クリスマスに会うなら、プレゼントは必須でしょ。
一体何を贈ればいいの。
あの子が欲しいものは何?
ぐるぐる回って頭が痛くなった緑が、相談したのが年下の後輩カップルだった。情けない。けれど彼らは巴の親友で、彼を一番知ってるはず。
「巴の欲しいもの?」 怪訝な顔の青せい 。
「そんなの決まってます」 迷いのない顔の夕緋子ゆいこ 。
「何?」
勢い込んだ緑の問いに間髪入れずもどってきた答えは。
「緑」
「先輩です」
口をそろえてチイパッパ、じゃないわよ。
どっちも真顔のマジ目ときている。せめて笑ってと思うのは、無駄?
「無駄っていうか、他に思いつかない」
「あとはリボン?」
夕緋子の答えに思わずすがりつく。
「リボンって何? アクセサリーとか?」
「先輩が自分に巻く用です。プレゼントには必須でしょ」
浮かんでくるのはクリスマスカラーのリボンで彩られた自分。
「……夕緋子ちゃん、勘弁してよぉ」
真っ赤になってファミレスのテーブルに突っ伏すと、夕緋子が頭をなでなでしてくれる。
「すいません、でもここで別のもの言うと殺されちゃうし」
「誰に」
「当人に」
がばっと起きあがるとさっきのマジ顔が、思い切り笑顔になっている。
「巴に言われてるの?」
「釘刺されてます。とっくに」
「夏休みだったよな?」
うんうんとうなずきあう二人が憎らしい。
「絶対聞きにくるからって」
「さすがよね。先輩に関しての読みは、はずさないところ」
ぐうの音も出なかった。
「ずっとずっと、あいつの一番ほしいものは緑だって。知ってるくせに」
「女は度胸、ってことで。先輩、ファイト!」
結局、もらったのはだめ押しとエールだけ。
『知ってるくせに』
そう、知っている。
どれだけベタでもどれだけ恥ずかしくても。
あの子の一番欲しいものは、私。
初めて私を一番にしてくれるひと。
「女は度胸、かぁ」
いくらなんでもリボンは買わない。
それはなしだけど。
クリスマスまで残り数日をかけて、緑は積み重ねていくつもりだ。
自信と決意と思いを。
一番好きな人の、一番欲しいものになるために。
< present for You / end >
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