一日戸外で過ごしたのなんていつ以来だろう。
思い出せないくらい昔だ。


緑に囲まれた作業とピクニックみたいな昼食。温室の持ち主は人好きする夫婦で奥さんの作ってくれたサンドイッチは絶品だった。
それから垣間見た一星の日常。これだけの時間居るのは自分だって珍しいとは言っていたが。

木や花に触れる彼は自然で一緒にいるのは楽しかった。昼間の彼は日なたの香り。健康的で暖かく安心できる匂いだった。

今は違う。
汗と日暮れ、それから闇が変えるその匂いに誘われる。妖しく危うく、セクシー。運転してるのがピックアップトラックだったとしても。


「疲れた？」
ハンドルを握ったまま彼が聞く。
「ううん。楽しかったわ」
「俺も」
「いつもあんなデートなの？」

こちらへむけた瞳が光ったような。単純な質問なんだから単純に応えて欲しい。光姫の願いは聞き入れられる。

「いや。畑へ誰かを連れて行こうなんて思ったことなかった。今までは」

伸ばされた左手が光姫の右手を握る。慣れた仕草が憎らしいのにふりほどかない自分が不思議だ。


「腹へった？」
「あんまり。お昼遅かったじゃない。一杯食べたし」
「もうちょっとつきあってよね」
「どこへ？」
答えの代わりにアクセルが踏み込まれた。


どんなところを想像していたとしても見当違いだったろう。トラックが止まったのは住宅街のはずれの木造家屋。きょとんと見上げればかなりの高さだが見た目はありきたりの家だ。こともなげに彼が告げる。

「俺ん家」
「……何。家族に紹介とか？」
「家族はいない。俺ひとり」
「ひとり？」
どうみたって独り者の住処ではない。マンションとかアパートに一人暮らしならわかるけどこんな立派な一軒家。

ここにひとり？　問いかける前にかちゃりと開けられる門。


「ようこそ」

切ない響きが断ることをできなくした。