しばらく一星は現れなかった。

それはそうだろう。こないだの後では会いづらいに違いない。携帯番号とメアドは勝手に入れられてはいるが、かける気もなかった。光姫だって気まずい。

なのにプレゼントはやっぱり届いた。poohさんをみると彼の顔が条件反射で浮かぶ。そんな風になりつつある。
飄々とした気軽な態度。裏腹に率直な言葉。

『好きだ』

あれは本気？　どうもよくわからない相手の気持ち。
なら自分の気持ちは？　余計にわからない。
忙しさに紛らわせて考えることから逃げたままの或る日。


通りがかったビルの前に彼が立っていた。
花しょって。



バラの値段は知っている。数本でもかなりの値がするのに彼の手のそれは半端ではなかった。真っ赤なバラが一体何本？
見るからにどっしりした「束」の花を軽々と、でも重そうに片手で担いで立っている。

しかもその格好。初めて見るスーツ姿。ネクタイを締め空いている手でうるさそうに掻き上げる髪。漂う色気。


光姫はポカンとみつめた。

こんな彼は知らない。でも確かに彼だ。手にしている花に妙に湧き上がってくる感情が嫌で、無理に声を出そうとしたら。
彼は歩き出した。特に気負いもためらいもなく近づいていく先には女性の姿。担いでいた花が肩から下ろされ彼の腕に抱かれる。そして。


最後まで見ることなく、光姫は決然と背を向けた。

関係ない。あたしには関係ない。
彼が誰と一緒でも。誰に花を捧げても。

そうよあたしは。


カツカツカツ。叩きつけられるヒールの音はいつもよりずっと高くて早い。
それを追いかけ追い越すように、光姫の心臓も早鐘を打っていた。