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 ７．Bouquet Toss −披露宴−
「いきまーす」 披露宴の終わり。 美琴が投げたクマが宙を舞った。 セレモニーがほとんどないラフな披露宴は、会場側の好意で４時間に及んだ。和やかで誰もが新郎新婦とゆっくり話ができた。 ここの売りの一つがガラス天井のチャペルの隣の温室風、これもガラス張りの会場。立食式だが椅子もふんだんに用意され照明は明るく、雨なのに外にいるようなオープンな雰囲気が誰にも好評だった。 グループで一番人数が多かったのは羽矢のストバスの仲間だろう。５年もやってるとつきあいも家族ぐるみがほとんどでなんともにぎやか。美琴との仲も周知で気が置けない。皆羽矢をからかって遊んでいる。 「みこっちゃんかわいー」 「なぁなぁ今からでも俺にしない？」 「オレオレ。惚れ直しちゃったよ」 「・・・おまえら何しにきたんだ」 見栄というものは美琴に関する限り羽矢にはない。恥ずかしげもなく嫉妬する姿はこれまで同様でほめてやりたいくらい、とは女性陣の弁。 羽矢の学校関係は卒業生以外だと校長とかつての美琴の担任くらい。早苗が校長に、美琴が担任に会えて喜んでいた。美琴の大学の友人も多く、やっぱり入籍していた志緒と千早が質問攻めにされている。 ４月に美琴が就職したのは、新しく開院したばかりの市立リハビリセンター。最新の設備と技術を前面にしており、上司は早苗もよく知っている理学療法士のベテランだ。 先輩や同僚には美琴の入籍を知らなかった人も多く、招待状に驚かれた。がっかりした者も多かった、というのは美琴のあずかり知らぬ話だ。 ふと見渡した羽矢は人の多さに自分で驚いた。ここにいるのは美琴と自分を知る人ばかりのはずだ。二人でこんなにもたくさんの人と出会ってきたんだろうかと。 そろそろお開きの時間が近い。 「琉斗」 「おふくろ」 母がジュース片手に隣に立った。ちょっと酔ってるかもしれない。 「親父は」 「あっちでゴキゲン」 「ふうん」 父はほろ酔いどころじゃなさそうだ。 「いい式だったねぇ」 「そうかな」 「いい披露宴だねぇ」 「そうかな」 「いい嫁さん見つけたね」 「そうだろ」 そこだけ自信ありげに頷く息子に母があきれて笑い出した。 「あんた。変わったね」 「どうだろな。 そうだとしたらあいつのおかげ」 「・・・ちょくちょく顔見せなさい。父さんうるさいし」 「了解。こっちにも遊びに来いよ」 「そうするよ」 母の見つめる先には、係員にトス用のクマのぬいぐるみを渡された美琴が、神妙な顔で説明を聞いている。義理の娘の可憐な姿に微笑んだ母はきつい視線にヒヤッとする。 「美琴は俺んだからな。親父にも言っとけよ」 変わりすぎるのも考えものだ。こんなヤキモチ焼きだとは。母は必死で笑いをこらえていた。 ブーケトスに集まった女性陣の群れ。嬌声と手がひしめく中へ可愛いクマのぬいぐるみが落ちていく。 幸運をつかんだのはどうやら小さな女の子だったらしい。ぬいぐるみもろともその子を抱き上げた美琴があまりにも似つかしくほほえましく。 羽矢も羽矢の母も幻を見た気がした。 きっと遠くない未来の、幸せな。 |