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 ４．Women −花嫁控え室−
「うーん最高！ あたしってやっぱプロよね」 「うわぁ・・・」 鏡に映る自分の姿が美琴は信じられなかった。 「美琴ならなに着たって可愛い」なんて、嬉しくても参考にはならない羽矢の意見はそっちのけ。美琴と藍のウェディングドレス選びは迷いに迷った。 プリンセスラインとストレートライン。どちらも気に入ったが、背の高い羽矢の隣で背も低く華奢な美琴なら、ボリュームがある方がバランスがとれるとの藍のアドバイスもあってプリンセスラインに決めた。 ベールもマリアベールにすごく惹かれた美琴だったが、結局オーソドックスな方が綺麗だと思い切った。 もちろん試着だって何度もした。新しい会場らしくレンタルドレスもその辺のありきたりではない、オーダーと変わらぬ質と量を誇る。なのによりどりみどり。花嫁よりも藍の方がはしゃいでいたかもしれない。 小物から靴、ブーケに至るまでとことんこだわり尽くした選択に、万が一似合わなかったらどうしようと美琴は胃が痛くなりかけたが、どうやら杞憂に終わったようだ。 「うそみたい」 「ほれぼれしちゃう。あー、みこっちゃんあたしがもらいたい！」 肩胛骨に届く長さの髪は結い上げられ、一筋二筋巻き毛が落ちている。ティアラをのせたてっぺんから足元までふんわりとまさに霞のように覆うベール。オフショルダーの身頃の胸はハート形。キュッと腰まで絞られそこからプリンセスラインのスカートがトレインまで続く。誰もが夢見るだろうウェディングドレスの王道だ。 胸元をふちどる小粒なパールの光沢といい、身頃のちりばめられたビーズといい、幾重にも重ねられたレースとオーガンジーのスカートといい、派手ではない豪華さがある。 「大人っぽい。あたしじゃないみたい」 でも自分だ。まじまじとみつめても不思議だ。藍のメイクはいつもながらポイント以外はあっさりしていて、美琴らしさを失わずでも、いつもとは格段の違いを見せる。 「みこっちゃんはもう立派に大人の女性なのよ」 藍がしみじみ言った。初めて会ってから５年。高校生だった美琴を大人の別人に仕立て上げたのが最初だった。 あのときすでに魅力的だった少女。 「今のみこっちゃんは輝いててメイクなんかホントはいらないくらい。素敵な女性になったねぇ」 「藍さん」 「ずーっとこの日のみこっちゃんを着飾るのを楽しみにしてたの。念願叶って嬉しいわ。ありがとうね」 「そんな・・・あた、あたしこ、そ、・・・ありが・・」 美琴の涙腺があっという間に緩む。おかしいな。昔はなかなか泣けなかったのに、今じゃ壊れた蛇口みたい。 「あーごめんごめん。メイクが泣かせちゃだめよねぇ。やだもう」 言ってる藍だって涙ぐんでいる。 「でも良かった。羽矢くんに愛想尽かさないでくれて。何遍ヒヤヒヤしたか。いやそれは今もだっけ」 「・・・あ、いさんたら・・」 泣き笑いの美琴だ。一緒に暮らしてからも喧嘩のたびにふたりは仲裁に入ってくれている。 「今更だけど。おめでとう」 「・・っ、藍さぁん・・・」 「あーまた泣かせちゃった。まいいか」 直せばいいよねと笑って。また泣いて。 花嫁は窓ガラスとおなじくらいの数の、でも幸せな雫に濡れていた。 |