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 ２．Family −親族控え室−
親族の控え室にとあてられた部屋に人は多くなかった。 羽矢の両親と兄夫婦、甥っ子ふたり。 それに美琴の母・早苗だ。 実は志緒と千早同様、羽矢と美琴は４月に籍を入れすでに一緒に暮らしている。 双方の親兄弟は何度か顔を合わせ入籍時には改めての挨拶もしていたので、普通の結婚式でよくある親族同士の緊張感はあまりない。和やかな談笑のみだ。 羽矢の実家は海沿いの町で商売をしている。６つ上の兄がそれを継ぎ、とうに結婚して子どもが二人。 地元に根ざしている家族の中でひとり飛び出した次男を両親は気にしつつも好きにさせてくれた。だから美琴を連れ帰って紹介した時の驚きと喜びようと言ったらなかった。 「ずいぶん若いのに、あんたみたいな風来坊で大丈夫かい」 電話では心配ばかりしていた父母は会ったとたんに美琴を気に入ってしまった。いや父母だけではない。危惧していた兄夫婦から甥っ子に至るまで、久しぶりに帰ってきた羽矢そっちのけで美琴を取り囲みかまうかまう。 「美琴ちゃん、これ食べなさい」 「近くに面白いとこあるから一緒に行こうか」 「おねーちゃん遊ぼ」 「干物、持ってかえりんさいね」 「おい！ 美琴は俺の嫁さんだ。わかってんのか！」 まさか実家に帰ってまでヤキモチを焼く羽目になろうとは思ってもいなかった。当分里帰りなんかしないぞと固く思った羽矢だったが。 その後、羽矢の両親の美琴の母への挨拶とか、二家族での食事など否応なく顔を合わせる機会は重なる。そのたびに独占欲丸出しの息子に、羽矢の両親、特に母親がただただ面白がっていたのは本人には内緒だった。 美琴の母にあった二人は、長男とそれほど年の変わらぬ彼女にまた驚いていたが、あっさりさっぱり物事にこだわらない実際的な早苗にこれも好感を抱いてくれた。 早苗もまた羽矢とは似てないようでどこか似ている夫婦の、率直さと誠実さに感銘を受けた。羽矢と美琴の結婚というよりも美琴母子が羽矢の家族に加わったみたいな。双方ともそんな気がしている。 「美琴ちゃん、きれいでしょうねぇ」 「どうでしょう。あの子おっちょこちょいで。祭壇行く途中でこけなきゃいいんですけど」 「あらお父さん、責任重大よ」 「うるさい」 「親父、まだ覚えてないのか？ 右足からだぞ」 「基もとい、黙れ。また混乱するだろう」 父親のいない美琴のために、バージンロードのエスコートを仰せつかった羽矢の父が緊張を募らせては長男にからかわれている。 「お義父さん、あれだけ練習したんだから平気ですって」 「おじいちゃんがんばれー」 「ばんばれー」 兄嫁の冬美が笑いながらなだめようと、孫二人がたどたどしい言葉で応援しようと、今日ばかりは効き目がないらしい。夫の緊張を笑いながらも妻は一緒に繰り返してやる。 早苗は笑おうとして胸が詰まった。 今更と思う。入籍した美琴が家を出て４ヶ月。ほんとに今更だけれど悲しいんじゃない。嬉しい。こうして娘を受け入れてくれる人が自分以外にこんなにも増えたことが。嬉しくて有り難くて。 「祭壇ついたら琉斗に渡してだな・・・」 メモとにらめっこする夫婦を拝みたいくらいの、今の早苗だった。 |