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 １．Welcome −友人達−
「おめでとうございます」 「ありがとうございます」 祝い事の受付では皆同じやりとりだ。 決まり文句というのは嫌われがちな世の中でも、こういう時は誰もが決まり文句を言う。考えなくても口をつく言葉は実はありがたいものだとわかる。 月並みでも祝いの気持ちは込められる。目一杯。 「おめでとうございます」 会費を確認していた美那子は、聞き覚えのある声に顔を上げた。 「吉澤君、来たわね」 「よう須藤。久しぶり」 美那子は今翻訳者めざしている。出版社で働く傍らバイトも兼ねて修行に励む毎日。吉澤もまた経済関係の雑誌に編集としてつとめ始めたばかりだ。 「えっとそっちが」 「あ、木塚・・・志緒しお です」 「木塚千早ちはや です」 同じ姓での名乗りに、片方はまだ気恥ずかしげで片方は誇らしげ。そのバランスがなんだかおかしくて吉澤は吹き出すのを堪える。 「はい聞いてます。木塚ご夫妻。柚華からよーく」 「・・・やだ。ろくなことじゃないでしょ」 「いやいやそんな」 笑いながら言われても説得力はないが、ここで追求も出来ない志緒だ。 春先、卒業と同時に志緒と千早は籍を入れた。 自らの初志を貫徹した千早は家を出て、志緒と共に新しい生活と仕事に励んでいる。喧嘩するほど仲がいい、を実践中というところか。 就職と結婚が重なったため美琴と羽矢にはしばらくゆっくり逢えなかったが、今日は美那子と三人での受付を喜んで仰せつかった。 客は多く来場は始まったばかりで引きも切らずてんてこ舞い。忙しさを察した吉澤は記帳し会費を渡してそこを離れたが、うしろから声がかかる。 「おい吉澤」 「葛西、来たな・・・って桐辻じゃん」 見た顔が彼の後ろにも次々と連なっている。会うのは久しぶりの奴ばかり。桐辻の隣には女の子。 「ご無沙汰してます」 「おまえ、沖？ まだくっついてたの」 「・・・先輩。ずいぶんな言いぐさですよねぇ」 沖鳴見が口を尖らせる隣で桐辻が苦笑した。 葛西は大学院へ残って修士課程をとったそうだ。好きなこととはいえ親への負担とかいろいろ悩みは多いらしい。 桐辻と鳴見はまだ学生。つきあいが続いているのを一番驚いているのは本人達だ。そうはいっても要領よく就職を決めている桐辻に対し、いまだ就活中の鳴見は引け目とかプライドとかで葛藤もある。これから先のことは二人も不透明だった。 吉澤が笑う。 「理科実験部同窓会だな」 祝い事で集まれるのはいいものだ。 とりあえずの悩みはさておき、今日という日を皆楽しみにしていた。 |