 モザイク・カルテット− おまけ１/ 「God bless You」
「美味かった。」 羽矢の短い一言は満足そうだった。 料理上手の美琴が、イブに彼のために用意したご馳走だ。 まずいはずもないが。 「よかった。」 片づけながら答える美琴の語尾が、ちょっと高い。 ワイン飲み過ぎたかな、飲ませすぎたか。 どちらもそう思いつつ。 ここは美琴の家。 イブとはいえ平日だったので、母の夜勤はいつものこと。 『あたしの分のご馳走、とっといてくれるわよね。』 早苗のためにもしっかり取り置いてある。 羽矢は上機嫌。美琴の倍は飲んでるが酔う量ではない。 軽い足取りで美琴を手伝い、片づけを手伝ってやる。 「ありがと。たいしてないから大丈夫。」 「そっか。先にシャワー借りるな。」 「う、ん。」 そこでわずかに空く一拍が美琴らしくて、ついからかってしまう。 「一緒にはいるか？」 「ばっ・・・琉斗さんっ！」 「ほいほい。」 これじゃオヤジだと自分に入れる突っ込み。 浮かれてしまうのはしょうがない。『ゆっくり』逢えるのは久しぶりなのだから。 クスクス笑いながら、すでに勝手知った様子で風呂場へ向かった。 頬の熱さを水で流すような勢いで、洗い物を終えた。 ソファで一息つくと、風呂場からは水音が聞こえる。 飲み残したワイングラスがテーブルにぽつんと残っていた。 勿体ないかな。クイッと飲み干す。 あー、今日はすごく美味しいなぁ。フワフワ浮かぶみたいで温かくて・・・。 実は昨日までレポート提出に追われていた美琴。 今日は朝からご馳走を準備し、昼前からケーキ屋さんでバイトに励んで。 その後は料理を仕上げ、羽矢とたらふく食べて飲んで。 ・・・結果を予想するのはたやすい。 「美琴。おまえもさっさと・・・・と？」 もうひとつのご馳走を美味しくいただこう。 舌なめずりしながらやってきた狼だったのに。 目に入ったのは、スヤスヤ眠りこけた子羊ちゃんで。 「美琴？ 美琴、おい！」 ここ数日の寝不足もたたって。呼べど叫べど揺すれど起きる気配は全くない。 「・・・嘘だろ・・ここでお預けかよ・・・？」 ガックリするというか力が抜けるというか。 おまえねーーっ！ さすがの狼も眠ってる子羊を食べてしまうのはためらわれる。 後が怖いし。 泣く泣くベッドへ運び、抱き枕でがまんすることにしたが、 逆に忍耐を強いられて眠れなくなりそうだ。 高校生でもあるまいに、と自嘲もあるものの。 覚えてろよーっと、声なき遠吠え。 明日のリベンジを固く誓われつつも、どんなプレゼントより後生大事に抱えられて。 この上なく安らかに眠る子羊はきっと、狼の夢を見ている。 愛する貴方に祝福をー。 ＜ God bless You 了 ＞  |