 モザイク・カルテット− おまけ２/ 「神のみぞ知る」
眩しさに眼を開ける。 ここはーどこだ？ 寝ぼけた頭で考えていたら、もぞもぞ何かが動いた。 寝返りを打った美琴が羽矢の腕の中へすとんと納まってくる。 ああ、そうだ。美琴の部屋だったっけ。 すでにずいぶん高く昇っている太陽にもかかわらず。 クークーと寝息をたて眠る美琴は、赤ん坊のようだ。 よく寝てるなぁ。寝坊なんて珍しいだろうに。 閉じたまぶたが綺麗で、つい口づける。 「・・・ん・・・」 身じろいだ美琴の唇がわずかに開く。のぞく白い歯。 あー、やばい。 何しろ夕べは意欲満々だったのに、思わぬお預けを食らった身だ。 休養たっぷりでしっかり反応する体。我慢できそうにない。 する気もないか。 開いたままの唇に唇を押しかぶせ、舌を滑り込ませる。 夕べのワインの味がするのは、気のせいでもないだろう。 深く浚う口腔内。 「・・・ん・・・ん・・・っ・・？」 息苦しさにやっと美琴が薄目を開けた。 覚めきらぬ頭。目の前に羽矢への反応も一時遅れる。 「・・・んんっ？」 大きく見開かれた眼を確認して、唇を離す。 「おはよ。」 「・・え・・・あの・・・ここ・・・あれ？」 彼の腕の中の自分。この状況が飲み込めない。 羽矢がちょっと眉をしかめてみせる。 「せっかくのイブの夜にひとりでさっさと眠りこけたくせに。覚えてない？」 「・・・・・そうなの？」 真っ赤になるのは夕べのためか、今のためか。 その顔もそそる。 「というわけでーーーリベンジ！」 「へっ？ はっ？ りゅっ・・！」 さっさとうなじに吸い付かれて、美琴が焦る。 「まっ・・」 「待ったなし。」 「で、でも・・・あっ」 「今日は予定ないんだよな？」 夕べ着たままのニットへ潜り込ませる手。やわやわと確かめる胸。 「ない・・・っけどっ・・」 「・・いいから黙る。」 眠ってしまった負い目もあって、あっさり封じられる抵抗。 「あんっ・・・やっ・・」 閉じていくまぶたが誘う。下肢へ伸ばす手。 その唇をもう一度塞ごうとした、まさにその時。 ピン・ポーン パッと開いた眼がぶつかる。駆けめぐる思考。問いと答え。 美琴の家で、美琴がここにいて。 インターホンを鳴らす人物は？ 「な、何時？」 時計を探しながら美琴があわてまくる。 「えっと昼すぎ・・・たぶんっ」 腕時計をひっつかんだ羽矢も同じく。 「お、おかあさんっ？」 呼応するようにガチャガチャと鍵の開く音。 「うわっ、マジ？」 「きゃあっ！」 ベッドを飛び出した美琴が乱れかけた服装を急いで直す。 こうなると服を着たままだったのはラッキーか？ 「琉斗さん、服はっ？」 「まずい。バスルーム。」 「うそぉっ？」 すでに玄関の扉は二つ目の鍵を開ける音。 部屋を飛び出した美琴がバスルームから羽矢の服を掴んでとって返す。 瞬間最速記録だったかも。 「美琴ー？ 羽矢先生ー？ まだ寝てるのぉ？」 「おっ、お、お帰りっ！」 聞きようによっては危ない台詞を気楽に言いながら、 リビングに現れた早苗は、美琴のとりあえずの笑顔に迎えられた。 羽矢は大急ぎで着替え中。 「あら、先生は？ 靴あったわよ？」 「ね、寝坊なのよ。今起こしたとこ。」 「ふーん。」 早苗の笑みが妖しく見えるのは罪悪感のせいだろうか。 「おなかすいたぁ。ご馳走は？」 「はいっ、今用意する！」 キッチンへ飛び込む美琴と入れ代わりに、やっと羽矢も出てきた。 ことさら平静を装って。 「お帰りなさい。すいません、ずうずうしく寝坊で。」 「いーえ。お久しぶり。」 一見和やかなやりとりだが、割って入る美琴の声は焦り気味。 「おかあさん、着替えておいでよ。」 「はいはい。先生、寝酒につきあってくださいね。」 「いや、俺は。」 「美琴ー、ワインある？」 「しょうがないなぁ。」 娘の声に微笑みながら、自分の部屋へ向かう早苗。 すれ違いざまに囁かれた言葉に、羽矢は固まった。 『センセー、若いわねぇ。帰るの早すぎたみたい？』 げ。 パッとふりむくとウィンクひとつ。 ひらひら手を振って早苗はドアを閉めた。 お見通し？ いつになったらあの母親に勝てるんだろうか。 永遠に無理？ いや、その前に美琴に負けてるし。 この欲求不満をどうしてくれよう？ 結局夕方までつきあわされた。 グラスを手にした早苗はとばしまくり。 酒のつまみを次々と繰り出しながら、美琴はキッチンに立てこもって。 もう一度つかまえるスキなど、ありはしなかった。 美琴の家を後にした帰り道。 ポケットから小さな金のリボンの包みを取り出して、羽矢はため息。 出せずじまいだったのは、一体誰のせいだろう。 まだまだ時期尚早ってことか？ どうにも消化しきれぬストレスに頼るのは「LUNA ＢＬＵＥ」。 文句たらたらでもつきあってくれる二人は有り難かった。 「羽矢のバーカ。まぬけー。甲斐性なし。」 「・・・・おまえに言われるとすっげぇ腹立つ。」 「失礼ね。草太は甲斐性あるわよ。」 「そんなじゃ当分、俺達の出番はないなぁ。」 「何の話だよ。」 「とびっきりのウェディングドレスの話？」 「・・・っ・・・るせぇ。見てろよっ」 「見てるのはおまえ。ひとりで羨ましがってろ。なぁ？」 「ねぇ？」 ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ。 「・・・このバカップル夫婦っ！」 ３人の間で、金のリボンも笑ったような。 密かに誓われたリベンジ。 果たされるのがいつになるかはそれこそ。 「神のみぞ知る」。 ーそれもまた良し？ − Merry Christmas for everyone !! − ＜ モザイクカルテット 完 ＞  |
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