 番外編２ 不機嫌な彼 −警戒警報発令中−
６月。 中間テストもやっと終わったというのに、このところ羽矢は不機嫌だった。 さすがに学校では表に出してないつもりだが、 実は羽矢の受けもつクラスに、『警戒警報』が発令されているとは本人も知らない。 あまりムラのない性格と自負していたのだが、ここ数ヶ月ぐっと人当たりがよくなったのは確かで。 つまりそれは美琴の影響なんだろうけれど。 影響はいい方へ出る場合もあれば、悪い方へ出る場合もある。 まるで反動のように羽矢の機嫌が悪化しているのを、 当然の事ながら一番肌身に沁みて感じるのは、 毎日授業を受ける生徒達だったりするのだ。 一部の女生徒には、機嫌の悪い羽矢の表情がまたたまらない〜、 なんて呑気な反応もあるが。 一般的に先生の機嫌はそのまま、授業における生徒の幸・不幸に直結する。皆戦々恐々。 声を荒げて怒ったりすることはまずないのだが。 宿題を忘れたとか、運悪く授業中携帯が鳴ったとかそういう時。 いつもなら顔をしかめる程度。ジョークをまじえたお説教で勘弁してやるのが常なのに。 まず。生徒全員の体感温度が下がる。 この蒸し暑い梅雨の時期に？ いや暑いんだけど。 サーッと肌寒さを感じさせるひくーい声が飛ぶのだ。 「立ってろ。」 そのまま１時間。立ったまま授業を受ける羽目になった犠牲者（？）が十数人。 『物理・化学は暴風雨圏内だ』。 これがこの２週間、生徒の合い言葉になってきた。 原因はなんだ？ 生徒達の悲鳴にも似た謎かけ。 羽矢はクラス担任を持ってない。 今の状態ではこれは僥倖と呼べることだが、部活動の顧問はしている。 「理科実験部」 果てしなく地味な名前に負けない、地味な活動をしている部。 なのに人数だけなら人気のあるテニス部とかバスケット部とかに負けない程いる。 それは一重にその半数が「羽矢ファン倶楽部」と言っても過言でない、 女子生徒の集まりだから。 羽矢にとってはどうでもいい−最近ではどっちかというと面倒くさいことなのだが。 この部活に原因があるなんて生徒の誰も予測できない。 今年の理科実験部は、例年にない快挙があった（というのはオーバーか）。 １年男子が１０人も入部したのだ。 女子部員に埋もれていた部長と、数少ない男子部員にとってはまさしく快挙だった。 部長である葛西は小躍りして喜んだ。 ところがなんと。 彼ら１年男子は皆、３年の先輩である美琴に近づきたいが故に、入部してきたのである。 事実を知ったとき、葛西はガックリ肩を落とした。部の将来はどうなる？ 幸い瓢箪から駒というか、彼らは部活動自体にもそれなりに興味を示し、 熱心に参加してくれたので、きっかけはなんでもいいかと葛西は胸をなでおろした。 なかでもリーダーシップを見せているのは１年４組の桐辻。 こんな地味な部には不似合いな美形で、頭もよく運動神経もあり、 テニス部とかけ持ちをこなしている。 理科実験部内にも隠れ桐辻ファンが出てきた。 ところが桐辻は、一直線に美琴を目指し始めた。非常にストレートに。 これが羽矢の不機嫌の発端だった。 初めはさすがに桐辻も、控えめに様子を見ていたらしい。 彼が自己主張始めたのは、５月の連休明け、美琴の誕生日が最初だった。 １年男子全員、足並みそろえてお祝いのプレゼントという形をとったその日。 代表で渡したのは彼だったし。 その中身も（１年男子で協定を結んだくせに）１人高価なブランドの口紅だったし。 さらに言うと美琴の誕生日を聞き出したのも実は彼だったのだ。 美琴は何も知らないのだが。 その後。すっかり慣れてくると、桐辻はどんどん攻勢をかけてきた。 「先輩。僕が手伝います。」 「先輩、これはどうすればいいんですか？」 「先輩、帰り送っていきますよ。」 部活動と先輩後輩という立場を存分に利用して、接触は計られた。 それを契機に、他の１年達も参戦を始めてしまった。 おかげで理科実験部は、近年まれにみる活発な活動を行う日々。 美琴は元々部活に熱心だから、１年たちが質問すれば先輩としてとても親切に教えてやる。 下心なんて思いもせず気にもせず。 他の３年から見ると１年男子の美琴争奪戦はあからさまだが、 本人が気づかなければ弊害もなく部活も活発でいいか、ということで。 半ば美琴を人身御供にしたようにも見えるものの、 一応彼氏の存在は知っている美那子らが脇を固めて、 あとは美琴ののんきさがガードの代わりとなった。 「先輩、これどうすれば？」 「あ、桐辻くん。あたしが教えてあげるよ。」割ってはいる美那子。 「先輩、片づけやりましょうか？」 「お、頼む。じゃあ柚華、先に帰ろうぜ〜。」さっさと美琴を追い出す吉澤。 「送ります。」 「大丈夫。美那子と一緒に塾なんだ。」これは美琴本人。 やろうと思ってもできないくらい見事なかわし方だ。 そう、かわしてる。美琴には全然意識もその気もない。 なのに羽矢の機嫌が悪いのは・・・つまりはジェラシーというか。 表に出せない独占欲とでもいうか。 ふたりの事は誰も知らない。 同じ学校の先生と生徒ってのはやっぱりネックで。 だから学校では他人のフリとはいわないまでも、普通の先生と生徒のフリだし、 この街近辺ではあまり表だってデートもできない。 これはふたりのためというよりは、美琴のため。 羽矢は結構いい加減というかケ・セラ・セラな考え方だが、受験生の美琴を思えば仕方ない。 「受験生」。 これがふたりにとっては「先生と生徒」に加えられた障害になっている。 先生という職業上、羽矢もそんなにヒマではない。 土日だって当直やら研究会とかetc.、仕事は多い。 その上受験生の美琴は、平日はもちろん土日も塾・模試・講習等。 めじろもカナリアも雁首そろえて押しまくる。 必然的にふたりのスケジュールは合わなくなってくる。 そりゃあ毎日学校で顔は見られるし、授業や部活で話もできる。 でもそれは当然先生と生徒。恋人同士の会話には１００メートルも１キロも彼方。 ただでさえ、受験生と先生の恋は多難なのだ。 なのに。 部活動で１年男子達が繰り広げてくれる「美琴先輩争奪戦」は、 水面下で日々激しさを増していく。知らぬは美琴ばかりなり。 初めこそ面白がる余裕もあった羽矢だが、 それが部活のあるたびとなると、だんだん心穏やかでなくなる。 おまえらなー、やたらと呼ぶな。触るな。くっつくな！ 人の彼女を何だと思ってる。こら、桐辻！ 声に出さない、いや出せない叫びの空しいことと言ったらない。 笑いがひきつってくるのがわかるので、 とりあえずそっぽ向いて群がる女生徒の相手をしているものの、 同じ部屋の中声は聞こえてくるし。 さらに桐辻は、あからさまに美琴を誘い始めたのだった。 「先輩、洋楽は聴かれますか？」 「え？ うん。嫌いじゃないけど。」 「今度、コンサートあるんです。行きませんか？」 ピラッとひらめくチケット２枚。 「いつ？ あー、ごめん。あたし模試があるから。」 「夜ですよ。」結構食い下がる。 「続けて講習取ってるのよ。ごめんね〜。」 にっこり笑って斬られた桐辻は、一瞬崩れかけたものの立ち直る。 「残念です。じゃあ今度是非。」 仕方なく退いたところでしかし、別の火の手も上がり出す。 「桐辻くーん、あたしと行こうよ。」 「えー、あたしあたし。」 湧いて出てくる隠れファン達にあっという間に囲まれてしまう。 押し流された美琴が、美那子に笑って振り返る。 「桐辻くんって人気あるよねー。彼女いないのかな？」 まるっきり鈍感にかわした美琴を、美那子が半ば尊敬のまなざし。 サンプルになりそうなかわし方よね〜。これで無意識なんだから怖い。美琴。あんたって。 桐辻はその後も、２度、３度と美琴を誘い、つられて他の１年もそれに倣い。 美琴がまた綺麗さっぱりそれらを一蹴するという図式。 これを繰り返し見せられるのだ。羽矢の心中あにはからんや。 たまたま、お互いのスケジュールが合わずにふたりで逢えない日が続いたこともあり、 ここ２週間の羽矢は、坂を転がるように機嫌度グラフを急降下させていく。 美琴が気づいてないのが・・・いいんだか、悪いんだか。 それでも部活の日はまたやってくる。 職員室で羽矢は一瞬考えた。パスするかなー。 かといって、どうせここにいても気になるのだ。用事があるならまだしも。 眉を寄せて出ていく羽矢を、職員室から数人の先生が見送る。 「ここんとこ羽矢先生、機嫌悪いですねぇ。」 「どうしたんでしょう？」 首をかしげている。 実験室の手前ですでに、ひどく騒がしいのがわかった。なにやってるんだ？ ガラッと開けて唖然とした。 部屋の中では、女子生徒が必死で何かを取り合っている。いや、１年男子も混ざってる？ 羽矢同様唖然と見つめているのは２，３年生。美琴も葛西も美那子も。 「おい、何やってんだ？」 羽矢の声も聞こえてないらしい。 よく見ると真ん中の方で何かのチケットを握っている女子がいて、 それに群がっているような。 もう一度声をかけようとして、ハッとした。 化学実験の途中だったのか机の端に薬品の瓶も置いてある。 そのそばに手をついている美琴。 女生徒達の騒ぎは机をがたがた揺らしていて、今にも瓶が。 「美琴っ！」 「っつっ・・・！」 騒いでいた生徒達が驚いて振り返った時、 すでに羽矢は蛇口をひねって美琴の腕を水で激しく流していた。 「先輩っ！」 桐辻が叫ぶ。 「み、美琴っ。大丈夫？」 美那子があわてる。 「う・・ん、大丈夫。」 美琴の手を流水にあてたまま、羽矢は転がっている薬品の瓶を確認する。 「たいして心配ないだろうけど。葛西、そこのタオル貸せ！」 「は、はいっ。」 美琴の手を絞ったタオルでつつむと、美那子にいいつける。 「柚華を保健室に連れてってこい。俺もあとからいくから。」 「はい。」 「先生。平気です。」言いかける美琴をにらむ。 「早く行け。」 「・・・はい。」 美琴が出ていった途端、羽矢はクルッと振り返った。その眼に全員固まる。 警戒警報レベルＭＡＸか？ 「まず、全部片づけろ。全員で！」 怒号にあわてて器具やら薬品やらを全員で片づけた。薬品は羽矢が自分で処理した。 それが一段落したところで、もう一度睨まれる。 「で？ 一体何の騒ぎでこんなことになってるんだ？」 全員引きつったように黙る。 「葛西？」部長が聞かれる。 「は、はい。あの・・・。」 そこで立ち上がったのは桐辻だった。 「・・・すみません。僕が・・柚華先輩をコンサートに誘おうとして・・。」 断られ続けている桐辻は一計を案じたらしい。 １対１でだめなら、ともかく集団デートでも。誘い出すのが先決と思ったのだろう。 結構人気のあるポップスグループの野外コンサートに、 エリア５，６人分申し込むという手に出たのだ。 以前、美琴が好きだと言っていたグループだったから。 ところが美琴は困ったように言った。 『ごめんね。その日は先約があるの。』 ピクッと羽矢の眉が上がった。 「柚華は断ったわけだな。」 うなだれる桐辻がその返事だろう。・・・先約？ その直後桐辻を襲ったのは、計算外の人の波だった。 『あたし、あたし行きたい〜！』 『あたしが行く！ 桐辻くんっ！』 『俺もそれなら行きたいぞ！』 人気のあるグループだったのが仇となり、どっとその場の１年生が押し寄せて。 あっという間にチケット争奪戦。もはや誰の静止も聞こえない。 たまたまその日は、化学実験をしようと準備をすませた矢先だった。 羽矢が来たのはちょうどその最中で、 あとは見たとおり美琴がとばっちりを被ったというわけだ。 はーっとため息をついた羽矢は、改めて厳しい顔で生徒達に向かう。 「おまえら。部活動は遊びじゃない。一応学校の課外活動だ。 楽しくやるのは一向に構わないけど、事故を起こしたら元も子もないだろ。 ここは実験室で、理科実験部というからには、それなりに器具も薬品も使うんだ。 そういう遊びの相談は、活動が終わった後、危険がないと確信できてからにしろ！ デートクラブやってんじゃねえだろ！」 全員がうつむき、女生徒は初めてみる羽矢の叱責に泣き出しそうだ。 ついきつくなるのは美琴のせいか？ 冷静にならなきゃな。声を和らげる。 「いいか。同じこと繰り返すなよ。」 「・・・はい。」 口々に返事が返る。もういいだろうと思ったが、それでももう一言。 羽矢は桐辻に顔を向けた。 「桐辻、お前も考えて行動しろ。頭いいんだから。 柚華を誘おうとして、柚華に怪我させるなんて情けないぜ？」 これくらいは言わせてもらわねえとな。冗談じゃない。 大体先約ってなんだ？ 羽矢のほとんど個人的な怒りを、オブラートに包んだとはいえまともにくらって。 いつも飄々とした顔の桐辻がさすがに言葉もなく唇を噛んでいた。 「よし。じゃ今日はこれで終わりだ。俺は保健室に行くから。葛西、ここ閉めとけ。」 「わかりました。」 「解散。」 羽矢が保健室に行ってみると、保険医の和田先生が手当を終えたところだった。 左手の手首少し上に白く包帯が巻かれている。 「どうでしょう？」 「たいしたことありませんよ。処置も早かったし。この程度でよかった。」 「先生、すみません。」 美琴も美那子もしゅんとしている。 「今、全員に説教してきたけど。 お前らもああ言うときは、早めに収拾計れよな。３年なんだから。 薬品があったら危ないのはわかってるだろ。」 「はい・・・。」 怪我をした美琴よりも、美那子の方が眼を赤くしている。それを美琴が気にする。 「美那子、もう平気だから。」 「うん。塾どうする？」 「ん・・。今日はやめとくね。なんか・・落ち着かないから。」 「あたし、送っていく。」 すると羽矢が言う。 「お前も塾なんだろ？ いいよ。俺が送って行くから。」 美琴が驚いたように顔を上げた。 「今日は親御さん、いるか？」 「あ、いいえ。今日は夜勤だからもう。」 「そっか。でもとりあえず家まで送るから。」 美那子が納得する。 「じゃ先生、お願いします。美琴、あとで電話するね。」 「うん。塾の方、伝えて置いてくれる？」 「わかった。」 教室にカバンを取りに行った後、校舎の裏門で羽矢が車を回してくるの待っている美琴。 たまたまそれを帰りがけの桐辻が見つけた。 謝りたいが声をかけるのをためらう。 美琴の後ろに車が止まる。顔を出したのは羽矢。 先生が送っていくんだ。顧問だからな。そう思ったとき。 「美琴。」 みこと？ 呼ばれた美琴は振り返るとまっすぐ車に歩み寄った。 その先の会話は聞こえなかったけど。すべるように走り去った車。 桐辻はそこでボーっと反芻していた。 「美琴」 そう呼んだ声には聞き覚えがあった。事故の時に最初に叫んだ声。 『美琴っ！』 誰の声かわからなかった。あれは羽矢先生？ 名前で呼ぶ？ いや、いつもは「柚華」って呼んでる。 ・・・あのふたり？ 桐辻が疑惑を抱いた瞬間だった。 車の中。羽矢は仏頂面をしていて美琴は横目でそれを伺っている。 「・・・怒ってるの？」 「なんで怒るんだよ。」 「だって・・。機嫌悪いよ。」 「お前が怪我して、笑ってられると思うか？」 「大丈夫だから。」 「・・・ったくさ。さっさと引導渡してやらないから。」 「引導？ 何の？」 ほんと、ここまで来ると国宝級だな。 「桐辻。ちゃんと断ればいいじゃん。」 「え？」 「あれだけ誘われて、わからないわけ？」 驚いた美琴が顔を赤くした。 「えー・・・本気だったのかな？」 「おまえね〜。そこまでボケだと確信犯に間違われるぞ。」 「だって。それにずっと断ってるよ。知ってるでしょ。」 「知ってるけどさ。・・・じゃあ先約ってなんだよ？」 「え？」 「今日、桐辻を断った理由。先約があるって言ったんだろ？」 「あ・・・。」 美琴の顔がさらに赤くなった。それを見て羽矢のイライラが増す。 このところ、ふたりでの予定なんて入れてないから。 「なんだよ。誰と？」 「ち・・・がうの。そうじゃなくて。」 「そうじゃなくて？」 うつむいた美琴が、カバンをがさごそと探ってから取り出した物。 「これ・・。」 差し出されたそれを受け取った羽矢は、ハンドルに気をつけながら眼を走らせる。 「あ・・れ・・？」 それはさっき、桐辻が持っていたのと同じコンサートのチケットだった。 ステージ正面。前から２ブロックくらい。 羽矢は周囲を見渡すと、そばの路肩に車を止めた。 「おまえ、これ。」 「琉斗さんも好きだって言ったでしょ？」上目遣いに聞いてくる。 実はそうだ。このグループは羽矢も好きで、昔からよく聴いている。 「ほら、ゴールデンウィークつぶしちゃって。この頃なかなか逢えないし。 美那子がね、やっぱり彼氏と行くつもりだったのに、 急に行けなくなったからって昨日くれたの。」 「・・・言わなかったじゃん。」 「今日、言うつもりだったのよ。夕べはバスケの練習だと思ったから。」 昨日はストバスの練習日で大抵飲んで帰るから。美琴もそれを知ってる。 「じゃ先約ってこれか？」 「うん。・・・でも、あんなに部活の１年生がくるんじゃあ、見つかっちゃうよね。」 ため息の美琴。そこで羽矢が笑い出した。しまいに腹まで抱えている。 あんまり笑うから、美琴がだんだんふくれっ面になる。 「・・・なにがそんなにおかしいの？」 「・・わっ、悪い。いや・・自分がおかしかった・・から。」 「どうして？」眼を丸くした美琴に、まだ笑いながら羽矢が応える。 「なんかさ・・、馬鹿馬鹿しくなった。このところの自分が。」 やっぱり意味がわからなくて首をかしげる美琴。羽矢はいきなりその肩を抱き寄せた。 「きゃっ・・・。」 「おまえって大物だよ。」その顔をのぞきこんで。 「なんのこと？」 俺も。１年男子も。挙げ句に１年女子まで大騒ぎさせてるのに。 こいつはしっかり俺とのデートを予定に組んでたわけだ。 顔が弛んでくるのがわかる。俺も現金だよな−。 「・・・行こう。」 耳元で囁かれてドキッとする。 「え？」 「コンサート。せっかくだもんな。」 「だ、だけど、みんなと逢ったら。」 「逢ってもわかんなきゃいいんだろ？」 「へ？」 「任せとけって。いいな。その日はデート、予約したぜ。」 「・・・うん。」 美琴にすればそれは嬉しい。花が開くみたいににっこり笑う。 羽矢は顎をつかまえるとそっとキスした。 重ねるだけのキスを深くしようとすると、気配で美琴がパッと顔を離す。 「き、今日は帰るっ・・・からね。」 「んー？・・・せっかくなのになー。」 危ない台詞に、さらに体を退いてうろたえながら理由を並べる。 「だ、だって。明日学校だし。ほら、美那子からも電話くるだろうし。」 ま、今日はイレギュラーだからな、確かに。 「はいはい。お楽しみにしとくか。」 「お・・楽しみって？」 「わかってるだろ〜。」 思いっきりからかいながらエンジンをかける頃には、 この２週間下降し続けた羽矢の機嫌グラフは、右肩上がりで一直線に上昇していた。 生徒達の警戒警報は、翌日無事解除となった。 だが、その前日部活で落とされた雷が知れ渡っていたので、謎はさらに深まったらしい。 即ち。 「羽矢先生・機嫌グラフ推移と原因考察」のー。 ＜"fukigen-na-kare" / end >  |
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