 番外編８ カウントダウン・パーティー −ここにいる− 後編
カウントダウンパーテイーとはいっても、市内のストバスの草の根交流だから。 そう軽く思っていた羽矢。 だから、美琴に藍があつらえた出で立ちは、 見惚れながらも少々大げさじゃないかとすら思ったのだが。 「うわぁー、きれい。」 「・・・こりゃすごい。」 ホテルのフロアに踏み入れた二人は目を丸くした。 広い会場が、実にきれいに飾り付けられている。 立食パーティーでそこここのテーブルには、飲み物もご馳走もあふれんばかり。 集まってる人もドレスアップしてる。大人も子供も。 「・・・どっから金が出るんだ？」 思わずつぶやいた羽矢の肩をポンと叩いたのは。 「すごいだろ。」 「手科・・・。びっくりだ。なんでこんなに盛大なんだ？」 手科 守（てしな まもる）は羽矢が所属するチームのリーダー格。 羽矢を最初に誘ってくれたのも彼だし、 実はその昔羽矢とは社会人チームでチームメイトでもあった。 今回のパーティーの発案者の一人でもある。 家業の酒屋を継いだ傍らで、力を注いでいるのだ。 「実はさ、ストバスの市内リーグができるかもしれないんだ。」 「え？」 「俺達も探してたんだけど、やっとスポンサーが現れて。 幸い向こうのほうが積極的でさ。今回のこのパーティーの企画にも補助してくれて。」 「へ・・・え。このご時世にずいぶん奇特なことだな。」 ストバスが盛んなこの周辺ならではかもしれない。 「まだどうなるかわからないけど、とりあえず今回は恩恵をこうむったわけさ。 これだけチームが増えてくると、やっぱ大きな大会を望み始めるだろ。目標は欲しいから。」 そう言った後、視線を隣に走らせ驚いた顔になった。 「こりゃまた、すげえ美人連れてきたなぁ。うわさの彼女か？」 二人の話を黙って聞いていた美琴は、手科の賞賛に赤くなる。 「うわさ？ うわさなんてしてたっけ？」 「知らないのはおまえだけだろ。あれだけ草太にのろけてたら聞こえるって。 そのくせ練習とかには連れてこないから、 どんな彼女だろうってみんなが盛り上がってたんだ。」 「・・・そりゃ初耳。」 「ようこそ。」手科が人のいい笑顔を向ける。 「えーっと、じゃあ・・・うわさの彼女。美琴。」羽矢の紹介は人を食っている。 「で、こっちが手科。」 「こんばんわ・・。」はにかんだ笑顔はまだ赤い。 「・・・なるほどね。こいつがずいぶん変わったのは、あなたの影響かな？」 「・・・え？」 「なんだよ、それ。」羽矢まで聞き返す。 「自分じゃわかってないよな。」クスクス笑う手科に、羽矢は仏頂面。 「そんなことないです。いろいろ助けてもらってるのはあたしのほうで−。」 そう言う美琴に、手科が意外そうな顔になった。外見としゃべる声や様子のギャップ。 思ったよりずっと若い？ それを見てとった羽矢はさりげなく視線をさえぎる。 「あんまり見るなって。減るから。」 「りっ、琉斗さんっ。」いつものとおり美琴は焦ってみせるから、笑い出す。 又驚いている手科。 へえ。羽矢がこんな・・・やさしい顔するとはね。 「退散するよ。馬に蹴られたくない。」 「おお、そうしてくれ。」 苦笑しながら手科は美琴に言った。 「楽しんでいってください。」 「はい。ありがとうございます。」その笑顔にやっぱり年下かなと思ったけど。 生憎そのあとも、馬に蹴られたいと希望する奴がやたら多い。 しぶしぶ紹介する羽矢をそっちのけで、美琴はすっかり人気者だ。 もちろん羽矢は隣に貼りついたまま睨みを利かせてる。 それがまた日ごろのクールさと偉い違いでからかわれるタネだった。 どんどん増える人で、会場は溢れかえりつつあった。 こんな人波で年の暮れを迎えるなんてあまりないから、美琴はついきょろきょろしている。 「離れると迷子になるぞ。気をつけろよ。」 「はい。」 その言葉は別の意味を含んでるとは、美琴は気づくわけもない。 深紅のドレスに肩を白いパシュミナでで覆い、グラスを手にした美琴は目立つ。 言ってしまえばストバスの内輪の集まり。 年齢層が羽矢前後の男性が多いのはあたりまえで、当然視線を集めてしまう。 もっとも視線を集めているのは羽矢も同じだ。 草太が羽矢の容姿でいじったのは、髪を多少整えたのと服だけ。 いつも無造作な髪を軽くたててワックスをかけ、服装もラフに走りがちな羽矢を予想して、 ドレスアップする美琴にバランスをとらせるため、 崩してもそれなりに見えるスーツを用意してやったのだ。 背の高い彼がかっちりスーツを着こなすと目を引く。 美琴と違うのは、周りの視線を感じても気にしないところ。 無関心で押し通すあたりが年の功・・・というよりそれどころじゃない。 ちょっと目を離すと話し掛けられてしまう美琴だから。 今みたいに−。 「あ、あの。連れがいますので。飲み物を取りに行ってるだけだから。」 「ほんとに？ どこ？」 尚も話し掛けようとする青年と美琴の間に体を割り込ませて。 「ここ。悪いね。」 現れた羽矢にギョッとした相手は、決まり悪そうに人波へ消える。 これが何度目やら。油断もすきもあったもんじゃないな。 「ほら。」差し出すグラス。 「ありがとう。」ホッとした笑顔はまるで屈託がないから、怒るのも筋違い。 さっさと連れ出したほうが安全かな。大体、せっかくのリクエストが。 でも、にぎやかさが楽しいらしい美琴にそのままになってしまって。 「さあ、皆さん。いよいよ今年のカウントダウンが近づきました。 新しい年を祝うための、グラスを各自お手にとってください。」 主催者のアナウンスが、会場全体に響いたので、羽矢は行動を起こした。 「来いよ。」 「え？」 引っ張られて行ったのはフロアの隅。ツリーと見まごうほどの、大きな観葉植物の陰。 「琉斗さん？」 シャンパングラスを手にきょとんとして、羽矢の顔とにぎやかな会場を見比べる。 「せっかくおまえと年越しなんだし。大体俺のリクエストはこれからだろ？」 「・・・っ・・・ここで？」あわてる美琴。 「もう時間もないし。」 「で、でも・・。」 「あと1分です。皆さん、準備はよろしいですか？」 「だってさ。」いかにも羽矢らしい確信犯の目付き。 「だ・・・って・・周りに・・。」 「誰も気にしてない。多分電気も消える。」 だからって。いくら陰といってもちょっと目を転じれば人の波が。 美琴の視線が周囲へ泳ぐ。 「あと３０秒」 そこで場内の明かりが消える。 「・・・こら。」 クイッととらえられた顔は、目の前の羽矢に引き戻される。 「俺だけ見てればいいの。」 「・・・っ・・・！・・」 そこですでに唇は塞がれた。 たとえ美琴に文句があろうとも、伝えるすべはなく。 「１０・９・８・・・・・」 閉じたまぶたに響くカウントダウンが、キスの長さを否応なく計っている。 「・・・・・３・２・１・０！ Ａ Happy New Year！！」 パッとついた灯り。 パンパン！とクラッカーがそこらじゅうで弾けて。 乾杯しあうグラスの音もまた、鐘のように広がって。 でも。美琴の耳からはすでに、カウントダウンすら消えていた。 いつのまにか伸ばした腕は、羽矢の首に絡められて。 ただ、続けられるキスに酔っている。 その。 『今年最後のkissと、新年最初のkiss』が、羽矢の望んだクリスマス・プレゼントだったから−。 「おめでとう！」「新年おめでとう！」 飛び交う声を向こうに。 この片隅だけ、幸せな沈黙に満たされていた。 いくら隅とはいえ、そんなに長いキスを繰り広げていれば、見られないってのは無理な話だ。 隠れてるとも言えないし。 二人のキスシーンは、やっぱり何人かに目撃されていて。 その中に神岡憲一がいたのは、偶然だったが。 １年前ごろから、ストリートバスケットに興味をもった神岡。 その頃はまだ部活があり、それが終わると受験で。 どこかに所属するってわけにもいかなかったが、 自分の家の近くの公園でよくやっているチームと仲良くなって、 勉強の気分転換にまぜてもらったりもしていた。 かなり若いチームで、大学生が中心だったから神岡も混ざりやすかったのだ。 そのチームがこのパーティーに加わったのも、 彼らに声をかけられてこのパーティーに来たのもいわば偶然で。 だからこんなところで知った顔に逢うなんて、夢にも思っていなかった。 いくら街中でも。 チームのメンツと散々騒いで、未成年を隠してちょっとお酒も飲んで。 気分は最高のまま迎えたカウントダウン。 クラッカーも鳴らして乾杯して。盛りあがったままの神岡の目に、ふと映ったカップル。 背の高い男の後姿と、その背にすがるように伸ばしてるらしい女の手しか見えないけど。 うわぁ。あんなところでキスシーンだ。やるねー。 おまけに・・・長い。いつまでやってるのかな。興味津々なる年頃だから視線はくぎ付け。 見てるうちに、やっと男が顔を上げた。 わずかしか見えないその横顔に、どこか見覚えが・・・・え？ 羽矢先生っ？ やばいっ！ びっくり仰天して、思わず背を向けた神岡。 げげっ。なんで羽矢先生が？ ・・・あー、そうだ。バスケットやってたんだよなぁ。 ならストバスチームに知り合いがいてもおかしくないか。 ひょっとしてやってるとか？ そうだよな。今は社会人チームじゃないんだし。 にしたってまずいよ。酒飲んでるなんてばれたら・・・・あ？ そこで気づく。 羽矢先生が・・・誰かとキスしてた？ ま、まあプライベートなんだし。それは不思議もないよな。彼女がいるのも。 いないほうが不思議だ。あれだけ人気者だし。 ・・・かなーり濃厚なキスだったぞ。ありゃアツアツ？ 相手。どんな女性だろう？ すっかり意識は「やばい」から「好奇心」へスライドしている。 神岡は恐る恐る振り向いてみた。 まだそこにいた二人。 かなり遠目だし羽矢の陰で見えづらいけど、深い赤のドレスに白の肩掛け。赤いヒール。 あの雰囲気はやっぱ大人の女性だよなぁ。誰に向かって納得するんだか。 高く上げた髪が揺れると、後れ毛も揺れてる。 いいなぁ。彼女か。 そこで神岡が、美琴を思い出したのは−。 すでに自分が彼女を振って１年半。よりを戻そうなんて虫のいい申し出を振られて１年。 あれから他の彼女ができなかったのは、タイミングとか受験とかあるけど。 結局は自分の未練。 俺はなんであいつを振っちゃったんだろう。・・・・待てなかったんだよな。 あいつの不安とか悩みとか。わかるつもりでわかってやれなかった。 結局自分本位で。望みをかなえてくれなかったから、切れてしまった。 皮肉なことにその後、美琴がだんだん綺麗になるのを目の当たりにする。 綺麗にというより自由に。伸びやかに。 固く閉じこもっていた蕾が、一気に花開いて行くように見えた。 ああ、誰かがあいつをそうさせたんだなってわかった。 安心してそこから手を伸ばして行く。そんな美琴はまぶしくて。 それが神岡にはとってはかなり残酷だった。 自分が振ったくせに。わかってはいても。 自分の考えに沈んでいて。 気づくと、羽矢達はゆっくりと人波を縫いながら移動していた。 気づかれぬようすこしずつ近づいてみる。これもただの好奇心。 神岡にすると羽矢という先生は、いつも自信に溢れて、人気もあって、実力もある。 迷ったり悩んだりすることはないように見えて。不公平だと思えるくらい。 そんな彼の彼女はどんな人なんだろう。 あまり近づくのはためらわれたので、声が間近になったあたりで止まった。 知りあいらしい人に、羽矢が話し掛けられている。 会話ははっきりは聞き取れない。 隣の彼女も別の人に話し掛けられている、その横顔を盗み見る。 まだ遠いけれど。 くっきりした眉に紅潮した頬。パールレッドの唇。 後れ毛が白いパシュミナにわずかにかかる。 知らない人だけれど。どこか、誰かに似てる気がする。 誰か・・・。 思い出さぬうちに、話していた羽矢が相手と別れた。 振りかえって、別の相手に引っ張られそうな彼女に苦笑する。その顔のやさしさ。 そこで。 神岡は思いがけない名前を聞いた。 「美琴−、行くぞ。」 『みこと』？ その名前に、神岡の心臓が止まる。 さっきから思い出そうとしていた、『似ている誰か』−。 「あ、はい。琉斗さん、待って。」 その声もまた、聞き覚えがありすぎた。 「・・・う・・・そだ・・ろ・・・？」 唖然とする神岡のすぐ先を、何も知らずに羽矢と美琴が通り過ぎる。 手を繋いで、優しい視線を交わして。 楽しかったはずのカウントダウンパーティーは、ただ一人にとっては晴天の霹靂となった。 天を割ったそれは、どこまでひび割れるのか見当もつかない。 神岡にすら−。 彼の中ではただ、美琴の笑顔と、甘い呼び声が跳ね返って。 電子ゲームのように、自分の心を崩されて行く気がしていた。 羽矢と美琴はようやく会場を抜け出した。 パーティーは朝まで続くが、そこまでつきあうつもりはなかったし。 せっかくの限られた時間だから。 やっぱり二人で過ごしたいのは、ごく普通の気持ちだ。 つかまりにくいタクシーをやっとつかまえて、 羽矢のアパートに着いたら１時過ぎになっていた。 「疲れたろ。」 「うーん、ちょっと。ヒールがはきなれないから。でも楽しかった。」 満面の笑顔は何よりだ。 「バス、先に使え。」 「ありがとう。」 パタパタと小走りに消える足音を背に、羽矢もスーツをさっさと脱いでしまう。 人が多すぎてあわただしかったけど、美琴が楽しんだらしいから。 よかったってことだな。草太たちに感謝だ。 その顔に笑み。 冷蔵庫から缶ビールを出すと一気に飲み干した。それでようやく人心地。 あそこじゃ見張りが忙しすぎて、飲んだ気がしなかったから。あー、ホッとした。 そこで誤算だったのは。 ひとつは、美琴のお風呂が一段と長かったこと。 日頃したことのない本格的なメイク。クレンジングを買うつもりですっかり忘れていた。 上げた髪をおろしてリボンをほどくのもそれなりに時間はかかった。 もうひとつは、朝からバタバタしっぱなしだった羽矢自身。 大晦日の今日、実は午前中は学校へ用があって。そのあと掃除して。洗濯して。 美琴を呼んだと思うとそれなりに気は使った。 挙句パーティーで、思いがけずからかわれること限りない上に。 美琴から虫をはらうのも大変で。 実は自分が思ったよりもずーっと疲れていたのだ。とどめがビール。 導き出される結論として。 美琴がバスルームからやっと出てきてみると、羽矢はすっかり寝入っていた。 「琉斗さん？」 ちょっと驚いた美琴。先に眠ってしまうなんてあまりないから。 声をかけるが駄目だ。熟睡してる。 眼を丸くしてから、クスッと笑った。こんなこともあるんだ。 こんな琉斗さんを見られるなんてなんだか嬉しい。 たまにはこんなお泊まりも悪くないかな。 ベッドから毛布と取ってくると、ソファの上の羽矢にかけてやる。 存分に寝顔を眺めながら。 いいよね。いつもあたしのほうが意識飛ばされちゃって。 ゆっくり寝顔を見るなんて、あんまりないんだもん。 無防備なその顔。 あたしだけに見せてくれるのがちょっと自慢。ちょっとラッキー。ちょっとお年玉？ そう思いながら自然とまぶたは落ちて。 数分後には、ソファで毛布にくるまる羽矢と、その枕元にで眠り込む美琴がいた。 やってきた新しい年が何をもたらすかなんて、知るすべもないけれど。 そばにいる、今だけはお互いのものだから−−。 パチッ。 いきなり開いた眼。あれ? 部屋の中は差し込む光で明るい。暖かい。 やけにはっきりした目覚めに、自分で驚いている羽矢。 何時だ？ 体を起こしかけて気づく。 美琴？ なんでこんなとこに。・・・俺はなんで？ あ−−−。思い出した。 ちぇっ、起こせばいいのに。眠っちゃったんだな、あのまま。 だからって、自分までこんなところで。 苦笑しながら眠りこけている寝顔に顔が緩む。 それにしてもこれじゃ風邪引くぞ。受験生のくせに。 そっと起きあがって毛布をかけてやろうとして。 目を落とした携帯が示す数字。 ぐえ。 「美琴。おい、美琴！」 「・・ん・・・？・・・琉斗さ・・・ん？」 「１２時回ってるぞ。時間、大丈夫か？」 「え？ ・・・・きゃぁああああっ！！」 耳をつんざく悲鳴と共に、美琴が跳びあがった。 大慌てで二人とも支度して。部屋を飛び出す。 「忘れ物ないかな？」 「あったらまた連絡するから。」 車に飛び乗ったら急スピード。事故らない程度に。 間に合わないかとも思ったが。 仕事が押しているのか、まだ帰ってなかった早苗にホッとする。 「・・・よかった〜。」ホッとしてる美琴。 脱力したのは羽矢も一緒だ。 冷静に考えればそこまで必死にとも思うけど、やっぱりなぁ。 相手が早苗だけに約束は守っておきたい。 「じゃ俺はここで。」 「あ、急がせたから。コーヒーくらい。寝起きでしょ。」 言われてみればそのとおりだった。 ゆるやかなコーヒーの湯気に心が落ち着く 。その向こうに美琴がいれば尚更。 「何？」 「いや。」 穏やかな笑みと一緒に。 「ちょっと。」 「ん？」 手招きされて、なんでこうあっさり来るかな。 呼んでおいてこの言い草もないものだが。 小首をかしげたその顔を捕まえてキスしかけた瞬間。 ピンポーン♪ うわ。 あと３センチで止まったふたりは、パチッと合わせた視線にドギマギ。 あわてて美琴は玄関にすっ飛んだ。 自宅なのにインターホンを鳴らすのは、早苗の癖らしい。 美琴が約束したら律儀に守ろうとするのは、そんな母のためもあるんだろう。 母子二人暮らしでのお互いへの気遣い。 帰ろうと思っていたのに、早苗にそのまま腰を据えさせられてしまった。 「嬉しいわぁ。美琴はいくら言っても相手してくれないんですもん。」 「いや、そりゃ未成年だから・・。」 「あら、先生にこんなこと言っちゃまずいですね。」ケラケラと笑う早苗はすでに酔ってる。 「美琴−、おつまみ他にもできるー？」 「お母さんっ。いいかげんにしてよ。琉斗さんが困ってるでしょっ。」 角が出かかっている美琴だが。 「いいじゃない？ ちょっとはあたしにもつきあってもらうくらい。ねぇ？」 いたずらっぽい眼で意味深に言われ、赤くなったのは羽矢か美琴か。 少なくとも二人のことで、今年も早苗が楽しむのは確かとしても。 間に合ってよかった。 酒で赤い顔の早苗と、まだ照れて赤い顔の美琴とを交互に見ながら、そう思った。 一方。 「うまいっ！ みこっちゃん、最高っ！」 「ほんとだ〜。来年から予約にしよっか？ みこっちゃん特製おせちセット。 お重持ってお願いにいくわ、あたしっ！」 「よっしゃ！ 藍、がんばれ！」 「がんばるのは羽矢くんよ。 二人の仲に何かあったら、あたしだってみこっちゃんに頼めないもん。」 「そりゃそうだな・・・よし、羽矢とみこっちゃんを守る会を創ろう！」 「きゃーっ、草太って頭いい！ でもさ、守るならみこっちゃんよ！ 『みこっちゃんを守る会』よ！ あたし会長になるわっ！ がんばるぞーっ！！」 「おーっっ！！」 例年のごとく、元旦午後は休業の「ＬＵＮＡ−ＢＬＵＥ」が、 「美琴のおせち効果」で一段と気勢があがったことは二人が知る由もなく。 柚華家ではさらにテンション上げる早苗。 苦笑している羽矢。 台所でバタバタしながら、それを見ている美琴。 確かなものはないけれど、幸せな気分の新年。 ここに。私がいて、あなたがいるから。 何があっても−−。 ＜ coundown-party / end ＞  |
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