＜side-gun＞


初めて見たときから、綺麗な子だった。
張りつめた糸のように。グラスの縁ギリギリのペリエのように。
透明で漲っていて今にも切れそうな。溢れそうな。

その印象はずっと変わることがなかった。


ある意味俺の中で、対極にいたのかも知れない。
もがき、沈み、溺れかけながら、しなやかに泥を振り落として自分を見失わないレイラと、まっすぐに恥じる記憶など何一つなく、そのくせ自分に迷っている緑。


だから。
惹かれない訳じゃなかった。幼さとか未熟さとかは別にして、苛烈な程一直線に向けられる想い。

でも知っていた。
真摯で激しく、決して中途半端を許さないそれは受け止めきれない。すでにレイラと出逢っていた俺には。


緑。

溢れるほど相手に注ごうとする君の思いを、残らずすくいとってくれる人がきっといる。俺に出来るのは、はっきり拒絶することだけ。

「又、店で」


そう。疲れた時にはおいで。
俺のカクテルとレイラの唄がいつでも変わらず迎えるだろう。
彷徨う君が顔を上げて、歩き出す明日のために。


もし君の脆さを包んで鋼へと導く奴がいたら、俺は密かに嫉妬するのかもしれない。

レイラも知らない、隠された迷路の隅で。





＜takashi-side＞


「あたし、あなたが好きなの」

あの瞬間、不覚にも僕は余裕の欠片すらなかった。
「夕緋子ちゃんは僕の、家族だろう？」

答えを悟っていたのか笑った君は頷いて。
でも追い打ちをくれたっけ。

「……決めたから。一人暮らしする」


言葉も出なかった。いつのまに大人の顔。
赤い眼は寝不足？　泣きはらし？　でも微笑みに妖しいくらいの艶。
心臓がはねたよ。その強さに。


「崇さん」

君が僕をそう呼ぶのが好きだった。
甘えん坊で意地っ張りで。一生懸命後を追いかけて。


なのに気づかなかった。向けられた想い。
君は格闘し、悩み、足掻き、でも立ち向かった。
最後までひとりで。

君の無茶を僕は見守るだけだった。



大事な大事な。
たった一人の血の繋がった姪っ子。
それだけは未来永劫、何があっても変わることがないよ。

僕が彼女の手を取っても。
君が誰かと手を繋いでも。


遠い昔、遊園地で。僕に泣きながら伸ばしてきた手。
あの時から、僕は君の道しるべで止まり木。
この先もずっと。


僕を呼ぶ迷い子の声に、微かな憧憬を秘めて。





−「迷子」　了