「永遠はあると思う？」
あたしの問いにグンはわずかに目を見開き、それから笑った。


基地の町に生まれ育ったあたしは、父を知らない。母は決して父の話をしない。孫を抱いてすら語るつもりはないらしい。口にしたのはひとつだけ。

「あんたの髪と瞳の色は、父親譲りだよ」


鏡に映るそれらは幼い頃はともかく、年と共に苦痛になった。基地の土地柄でも、周囲から常に浮き上がる容姿は重荷になるだけ。
生涯ついて回るものだからと腹をくくっていたのだろうか。母はそれ以上は決して言わず、助けてもくれなかった。

唄があたしを支えてくれたけれど。



自分自身をほんとに認められたのはたぶん、彼に逢えてから。愛して愛されて初めて、この髪も瞳も愛しく思えた。
二人の子どもたちはそれぞれ、あたしの髪と瞳の色を受け継いでいる。それも今は誇らしい。


「永遠が欲しいのか？」
寄り添ったベッドの上で、彼の指があたしの髪を優しく梳く。

「うん。　……ううん、違う」
「何」
「今が。この瞬間が、ずっと続いて欲しいだけ」
その胸に頬をすりつけながら、あたしはつぶやく。子どもみたいに。

「なら。あるかもな」
「え」
見上げるあたしのまぶたに唇が触れる。
「時間は瞬間の繋がりだから。限りなく続いたら、永遠だろ」

口調は悪戯っぽいけど、真面目な眼の色。


「……なら、今も永遠の中？」
「ってことにしとけ。少なくとも俺はおまえさえいれば、いつも永遠」

髪を梳いていた指がするりと背中を伝い、確かめるように腰を引き寄せる。押しつけられる身体に欲望を感じて漏らした吐息。
グンがまた笑う。

遠い痛みも。涙も。
今のあたしに繋がるなら、幸福へのステップだったんだろう。



永遠はきっと刹那の連鎖。
辛くても苦しくても、求め続ければいつかはたどりつける宇宙の法則。
そう信じて、あたしたちはまた刹那を紡ぐ。心と身体を重ねながら。


永遠を目指して。





−「永遠」　了