憧れた。
ダンスのように舞うその動きに。

恋をした。
私の知らない世界で、鮮やかな色を放つその人に。

罪だった。





幼なじみの青は、かなり複雑な家庭環境で育った。
親代わりの紅子さんに惚れている。
たぶん実らぬ恋。

なんてメロドラマと思っていた。
昔はものをおもわざりけり。古歌は真理を突いている。



弓が好きだ。幼い頃から馴染んだ直線的な動きは、いつのまにか生きる指針になっている。
まっすぐに。
ただまっすぐに。
追いつめられても。息苦しくても。

初めて知った「罪」にはその指針は枷かせ　だった。同時に支えでもあった。
諦められない自分。行き先を変えられない想いは直線。


紅子さんが店主のバー　「Rouge」　に彼はいる。
カウンターにはいつも華やかな女性達。客を侍らせる珍しいバーテンダーはなめらかに笑みを浮かべる。

グン。


しなやかな手が伸びる。迷いなく選んだ材料がメジャーカップに放り込まれる。キュッと閉められたシェーカーが。
振られる。

たとえるならフラメンコ・ダンサー。短く激しい１曲。
踊り上げられればグラスに注がれるカクテル。



最初で最後。あたしのためのカクテルは、グリーンの底にオレンジを潜ませた不思議な色合いだった。
「”グリーンフレア”って感じ」
「……緑の炎？」
「静かだけど熱い。　『緑に炎』　なんてさ、燃え尽きて何も残らなくなりそうだな。緑ちゃんってそんなイメージあるよ」

ああ、この人は知ってる。
私の想い。

「焼け野原にしちゃ駄目だぜ。いい男、みつけなよ」


何も言えなかった。打ち明ける前の拒絶。薬指のリングは百も承知だったのに。
届かない心の矢。身に備わった倫理と理性が自分を責める。あざ笑う。


あなたは遠い遠い的。決して射抜けはしないのに。
それでも諦めきれない。求めずにいられない。糧もないのに消えない炎。
だから。

欠片も残らぬよう心を燃やすのを。届かぬ矢を放つのを。
許して欲しい。



想いをエネルギーに変え、まっすぐな軌跡で射続ける。

「罪」でも。
ひたすらに。





−「罪」　了