「歴史は繰り返す」
誰が言った言葉だったろう。


オープンカフェでボーっと眺める通りには、縁もゆかりもない人の群れが行きすぎる。
ただの風景のそれは、机に投げてある雑誌のグラビアのようだ。
ツルツルとした手触りの壁の向こう。


今の１０代、２０代に流行っているファッションは若かった頃とそっくり。
ああ、若かった頃なんて台詞、吐きたくないわね。
懐かしい時代のライン、柄。髪型まで似てる。

見たくない記憶までフラッシュバックさせる。





勢いに任せて突っ走っていたあの頃も、好きな人は一人だけだった。彼に振り向いて欲しくて、どれだけ馬鹿をやったことだろう。知っていたくせに。決して手に入らないこと。

遠く離れれば諦めもついたのかもしれない彼は、ずっと近くに、彼女のそばにいた。彼女も決してつかまらない人だったのに、その瞳は満たされていた。最後まで。

神様がいたなら。
あの、かけちがったボタンのようなあたし達を、正してくれたんだろうか。それともあれもまた、神様の手の中の出来事だったのだろうか。





突然、ツルツルした壁の向こうから現れる人。
行き止まりの想いの複製。
別人だとわかっているのに、あまりにも似てるその姿。

「紅子さん」

駆け寄ってくるその背は、記憶の彼よりすでにずっと高い。


「遅いわよ、青せい」
煙草をもみ消して立ち上がる。
「なんだよ。買い出しだっていうから手伝いに来てやったのに」

あら、幻が壊れるでしょ。
そんな拗ねた顔、決してみせてくれなかったのよ。彼は。

「はいはい。感謝してます。行こう」



昔の私によく似た女の子とすれ違っても。
それは私ではなく、私の隣にいるのも彼じゃない。

レトロな風景は幻想だと知っていて。
何故、想いだけは尽きることがないんだろう。


幸せなのか、不幸なのかもわからないまま。





−「レトロ」　了