光と葵の結婚式は、祝福された晴天だった。

ホテルや教会でなく源の実家の庭で行われた。風変わりではあったが、悪阻つわり　の続く桐子にはありがたかった。でなければ出席をあきらめたかもしれない。

源家と日高家、双方の身内と、親しい友人だけの人前式は、厳かな中にも和やかで清々しかった。


花嫁の美しさに誰もが目を見張った。古風なハイネックに手先まで覆って垂れ下がるレースの袖口、ヘッドドレスと裾引くトレインのウエディングドレス。白いタキシードの光と並ぶと、王子様とお姫様そのものだ。


春の花が咲き乱れる庭での結婚式はお伽話の絵のようだった。


亡き父、融の記念碑の前で、二人は誓いを述べた。光の横にはロングドレスの小町が、葵の横には紋付き羽織袴の鋼が付き添っている。

兄弟姉妹はそばに連なった。桐子と守と夕花、藤尾と雀、初音と乙女と銀に鉄。葵の祖母や叔母たちもいる。友人の亀沢夫妻と波布夫妻、二人の上司で社長の陸見も見守った。集まったご近所が十重二十重でさざめいていた。

誓いの終わり、天に届けとばかりに夕花がハンドベルを鳴らす。
鐘の音は鳥のように、そらに羽ばたいて消えていった。


光の幸せそうな笑顔が、葵と見交わす目が、家族をひたひたと喜びで満たした。誰もが口々に繰り返していたっけ。

おめでとう。
幸せになって、と。


ティーサロン『World's　end』には一日中、たくさんの人が出入りした。二人を祝い、眺め、冷やかし、また祝うために。

この日のために誂えてやったピンクのドレスで、夕花は葵と光にまとわりついた。それから葵の父の、鋼の膝に陣取り、「コーパパのお嫁さんになる」と主張して守を驚愕させてもいた。

「桐子、あれって本気じゃないよね？　親愛の情だよね？　そりゃ日高さんは男前だけど、貫禄負けするけど、だからってお嫁さん？　ついこないだまではパパのって、きりこ〜」

夫があんなにうろたえたのを見たのは初めてだ。相変わらずの吐き気に苦しめられながらも笑ってしまった。

藤尾と雀、乙女が用意したご馳走も、初音が明け方から頑張った一世一代のウェディングケーキも、ほとんど食べられなかったのは後々まで悔いが残る。吐かずにすんだのは小町が腕によりをかけた芳醇なストレートティーだけ。

それでもいい式だった。
家族にとって忘れられない幸せな日だった。


愛する伴侶を得て輝いている光が、桐子は誇らしかった。
苦しみを乗り越えてつかんだ幸福。

お父さん。
ほめてやって。

名前のとおり、再び光をまとった弟がひどく眩しかった。
今の桐子には。





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