「おめでとうございます。おめでたですよ」

あの時、地軸がずれた気がする。
そっくりだけれど違う世界に迷い込んでしまったような。

冬が逝き、春が闌た　けても、桐子はそこから抜け出せないでいた。






妊娠がわかったのは二月下旬だ。
もっと前から体調は悪かったが、まさか悪阻つわり　だなんて。

四月から夕花は保育園に、自分自身は仕事に復帰するつもりで準備に追われていて、全くの予想外だった。新しい環境、新たな仕事を前に意気込んでいた自分。神様のすることはいつだって唐突だ。


桐子の戸惑いをあざ笑うかのように、悪阻はさらにひどくなった。仕事を断念すると保育園に入園を渋られた。結局、受け入れてもらう決め手になったのが悪阻だなんて皮肉な話だ。

初めて夕花を妊娠した時は仕事をしていて、悪阻もほとんど感じなかったのに。今回は毎日起きあがるのも辛く、四六時中吐き気に襲われている。食べなきゃいけないと思ってもろくに食べられないし、食べても長く胃に残しておけない。体重は増えるどころか減り気味という始末。

おひなさまは前日に飾って、小町にしまってもらわなくてはならなかった。その後も三月は寝たり起きたりが続き、家事と、近づく入園の準備だけに必死になった。


今年の春は、光の結婚式と共にやってきたのだった。





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