クリスマスのヒデミと颯は、どちらも忙しい。
それどころかピークだ。
颯は結婚式場の経営者だから、クリスマス前後はかきいれ時だ。予定がびっしり。同じくヒデミだって予約がびっしりだ。クリスマスから年末年始は、夜の街の女も男も着飾るのが仕事のうちだから。
忙しいのはいいこと、ありがたいことだと割り切る。
働き通す覚悟だってある。
でも少しはチャージもしなきゃ。
深夜、片づけを終えて店を飛び出したヒデミは、タクシーをつかまえた。待ち合わせたのはここらで一番大きいツリーの前だ。キャンドルライトの華やかさが嬉しい。この時期、ここで好きな人を待つのは昔からの夢だった。勝手に顔がゆるむ。
不気味よ、と自分を叱る。
頬をこすっていたヒデミの手袋に、ふわりと白い欠片が乗って溶けた。
見上げるとはらはらと降ってくる雪。
冷えるはずだ。
空から薄くはがれ落ちたような粉雪の白さに見入る。一瞬で消えていく雪を通すと、にぎやかなはずのツリーまで寂しく見えてくる。そんなことない。そんなはずないのに、だって。
ふと、にぎやかな声がした。
ヒデミの後ろのツリーの反対側から。
「ねえねえお兄さんてば」
「いい男ねえ、あたしたちと遊びましょうよ」
のぞいたそこに颯を見つけて、ヒデミの心はキャンドルが灯ったように明るくなった。小さく閉じこもりかけた気持ちが解き放たれる。
彼がいる。
あぁもう、だから。
「悪いが人を待ってる」
「待たせる女なんてほっときなさいって」
「そうそう」
「生憎ね。彼は売約済みよ」
女たちがぱっと左右に別れ、ヒデミを見つけた颯の目が輝いた。ツカツカと女達を置いて、迷うことなくまっすぐやってくる。
ほんと、いい男なんだから。
ヒデミも走って飛びついたが、よろめきもせず抱きしめてくれる。
いつの間にか誰もいなくなっていた。
「大好き」
「なら湯たんぽになってくれ。待ちくたびれた」
「ごめん。後ろに居たのに気づかなくて」
冷えた唇と唇を合わせるだけで、体が熱くなる。
湯たんぽのように抱きしめられて、颯の腕の中から眺めるツリーはキャンドルライトが夢のようだ。
この一瞬に、ヒデミはうっとりと浸っていた。
< Candle light / end >
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