『ブーケ』　はいつも非日常だが、１２月はそれに拍車がかかる。
三月のウサギ、ハロウィンの子どもみたいだ。

「１２月のエヴァは手がつけられないぜ全く」

何メートルあるかもわからない豆電球のコードを、懸命に壁に這わせながらアダムがぶつぶつ言うと、誰かに茶々を入れられた。

「へえ、他の月なら手綱がつけられるってのかい」

アダムはうなった。そりゃいつだってエヴァは自分の手に負えないが、それを認めるなら、舌をかみきって飲み込みたい。

「言葉の綾ってもんだろう、それくらい勘弁しろよ」

ちょっと泣きが入ったかもしれない。
周りの声が同情に変わる。

「でっかいツリーが立ってんのになぁ、これだけじゃ我慢できねえんだよな、エヴァは」
「そうそう。しかも毎日飾りを増やしてさ」
「毎年、片づける頃にはものすごい数になってるのにな」

真顔でアダムに聞いてくる。

「あの飾りの山、どこに行くんだよ」
「さぁな。エヴァは毎年、新しいのを買ってくるから」

ほんとは知っている。エヴァは集めたオーナメントを毎年、いくつかの教会に寄付している。別にキリスト教ってわけじゃないくせに。

「ツリーのオーナメントなんてぇ、ほかに持ってくところがないものぉお」

飾るだけ飾って、イブの朝にはどこかの教会のプレゼントだなんて、変わってるよな。そう言ったら大笑いされた。盛大なキスまでくれて。

「あんたのそういうところが好きよぉお、アダムぅう。妙に道徳的なごたくを言わないところぉ」

オーナメントだけじゃない、エヴァは教会に集まる小さな子どもたちに、新品のプレゼントもたくさん持っていく。知っているのはアダムだけ。

１２月のエヴァはつくづく、正気じゃないと思うけれど。
そこに惚れたんだからしょうがない。男はあきらめも肝心だ。


昼からずっと飾り続けて、ようやく豆電球を止め終えた。

「よし、明かり消して見ろよ」

部屋中に輝くイルミネーションにしばし、みんなで見とれていた。
うん、悪くない。
そこへ乱暴にドアが開いて、女王様が現れた。

今日の出で立ちはチョコレート色の革ジャケットに黄金色の温かそうなスヌードを首からたらし、ジャケットと同じ色のニーハイブーツで足が腰まで長い。

両手に下げた紙袋を見て、アダムはいやな予感がした。案の定、黄金色の手袋が金銀赤緑のモールがどっさり取り出す。

「アダムぅうー、今度はこっちを飾って欲しいんだけどぉおお」
「……勘弁しろよ、マジで」
「お願いぃ、ねぇ？」

悩殺的なウィンクに思わず眼をつむる。
惚れた弱みにつけ込まれるのはアダムの日常といえ。


１２月のブーケは、日常が非日常。
クリスマスまで続くイルミネーションな日々を、文句を言いながらも実は誰もが、楽しみにしているのだった。

だから。
クレージーな俺のクイーンに、メリーメリーメリークリスマスを。
誰よりも強く、アダムはそう願っていた。





　　　　　　　　　　　　　　　＜　Illuminations every day 　　／　end　＞