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2009 七夕番外編


「Trouble 〜ショーコを探せ」


 7. Man Hall 


シャンデリアの光るフロアの中央。
天井を突くほど大きな笹竹が設
しつら えてあった。

手配したのはキングだが眼にするのはこれが最初で、たぶん最後だ。笹にはすでに、毎夜訪れるレディーたちの願い事を記した短冊がいくつも下げられている。文面は縦に中折りしてシールで閉じてあるので、見えるのは外側のきれいな色のみ。

短冊を書いたレディーには一夜につきひとつ、小さなプレゼントも用意されていた。ヘアピン、手鏡、ルージュ、マニキュア、つけ爪などなどセンスが良くてレディーが喜ぶ小物を、選んだのはキング自身だ。

噂が噂を、客が客を呼び七夕の今宵、Man Hall は客で一杯。そこにいきなりキングが飛び込んだから、フロア中が嬌声と悲鳴の渦と化した。


「キング?」
「きゃーっ、キング!」
「久しぶりー」

「あれがキング?」
「やだ素敵−!」
「こっちきてえええ」

いつどんなときでもレディー達を喜ばせることを忘れないキングだが、さすがに余裕がない。口角だけは上げたものの、眼を皿のようにして群がる顔にショーコを探す。いない?

「キング、こっちへ」
飛んできたケイが裏へと呼ぶ。悲鳴が高鳴る。
「キングー」
「いっちゃうのぉー?」

さすがに表情を取り繕おうとして、中央近くに陣取っている顔に気づいた。ホストを侍らせゆったりと構え、可笑しくてたまらないという表情でこっちを見ているのは遼子だ。彼女だけは素通りできまい。


「来てたのか」
「久しぶりね。おしゃべりしたいところだけど、今夜はあの娘に免じて許してあげる。次回は逃がさないわよ」

あっさりひらひらと手を振られてしまった。その横にアキラとフジ、それから四月に入ったばかりのスバルが眼を輝かせている。

長くトップに君臨し続けたトオルが昨年末に辞めた。以来トップは毎月入れ替わっている。ダークホースはスバルか。星を頂く源氏名は本名らしいが、彗星のごとくで人気急上昇中。Man Hall は今や戦国時代か。


……それどころじゃなかった。遼子が言ったのはショーコのことか?
裏の通路へとびこむと、ケイが待ち構えていた。


「さっきまで居たんですが。あなたに連絡する間に逃げられてしまって」
「遼子と居たのか」
「他のレディーが目敏く気づいて、揉めそうになったのを遼子さんが引き取ってくださったんです」
珍しいこともあるなと思う。あまり客とは接触しないのだが。

「あなたとショーコさんのことは噂になってますし。遼子さんも興味があったんでしょう」
さもありなん。苦笑したキングにケイが続ける。

「でも、ほんとに楽しそうでしたよ遼子さん。子どもをあやすみたいに相手してらっしゃって」
「間違いなく子どもだからな」
「キング」
ケイにしては強く低い声がたしなめる。

「会ってもいないのにそんなこと言って。ふられても知りませんよ」
「ふられそうか」
「約束を守らなかったとか」
「……不可抗力だ」
「あるまじきですね。アニバーサリーデートだったのにってすごく落ち込んでらっしゃいました」

「アニバーサリー?」
「初めてあったのが、一年前の七夕なんでしょう?」

ぽかんと、水の中なら丸く空気の玉が浮かんだろう。それほどらしくない、間の抜けた顔はケイも初めて見たかもしれない。自分より驚いてこっちを見るケイに舌打ちする。

「キング?」
「俺もヤキが回ったな……行く」
「どこに?」

「そういうことなら、あてがある」
「大丈夫でしょうね? またのお越しをお待ちしてますと伝えて下さい」

どうやらショーコを気に入っているらしいケイの言葉に、苦笑いでうなずいてキングは裏口へと抜けていく。


アニバーサリーか。ヒデミの、エヴァの非難も今ならわかる。
今夜ばかりは分が悪い。

雲がちぎれて始めた空を一瞥し、キングは身を翻した。





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