５．　ブーケ　


「キングったらぁあ、おっそいぃいいい」

顔を見せるなりエヴァの罵声がとぶ。店中の客がぎょっとのけぞった。もちろんキングは笑うだけだ。

ゲイのハッテンバとして有名な「ブーケ」は客より店主が偉い店、店主の人気で持つ店でもある。一番威張ってるのが店主というわけだ。


「まーったくぅ、キングがいない間あの子毎晩のように来てたのよぉ？　寂しいだの会いたいだのうるさいったらぁ。ショーコのおかげでこっちの商売あがったりよぉ。勘弁して欲しいわぁ」

心の底からの本音であることは、エヴァの後ろで忙しげに働くアダムがうんうんと首を縦にふりまくっていることからもわかる。

「そりゃ悪かった」
「今夜ちゃんと間に合ってくれればぁ大目に見てやったのにぃ」

きっと睨むエヴァの眼はクレオパトラもかくあらんと思うほどのアイラインとシャドーで囲まれ、それがまた似合っている。

「あたしの苦労もブーケの被害も水の泡じゃないのぉ？」
「天気ばっかりはどうにもならないさ。これで精一杯だったんだ」
「あらぁ、レディーとの約束に遅刻するキングなんて信じられないぃ。ショーコ相手だからって甘えてないぃい？」

エヴァの指摘にふとたじろいだ。確かに時間には厳しいタチだ。甘えがなかったと言えるだろうか。仕事なら間違いなくアウトだ。

「ショーコったらすっごいしょげちゃってぇ」
「そうか」
「来るなりあっという間に酒乱よぉ、参ったわぁあ」

「で、どこに」
「知らないぃ。他の客の相手してたら消えちゃったぁ」
「エヴァ？」

さすがに疲れた声を響かせると、エヴァがなんともいえぬ顔で見返す。

「キングぅ、みくびっちゃ駄目よぉ」
「誰を」
「子どもだと思い込んでたら足元すくわれるからぁ」

「何だって？」
「まぁねぇ。そういうキングが見られるのも一興かしらぁ」
「おいエヴァ」
あわててアダムが横から口を挟むが、エヴァは全くお構いなし。

「さっさと探しに行くのねぇ、逃げらんないうちにぃ」

浮かべた笑みがなんともあざとい。
化かされている心地でキングはブーケを追い出された。


探せと言われてもあとはどこだろう。思いつくのはせいぜい自宅ぐらいか。荒れてたらしいがおとなしく家に帰るだろうか。帰ってればいいが。

しかたなくキングはマンションへと足を向けた。





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